39話 ここでお別れ
カナイ達がずっと口にしている『存在』なるもの、その口ぶりからただの植物でもなく、従来の生命体とも異なる事を分かった。だとして、その『存在』がどこにあるか。
考えるに、『素質』とやらを持つ者でしか認知出来ず接触出来ない異質なものであるなら、そもそも普通に徒歩か、自力で行ける場所には無いと思った。そして『根』を呼ばれるものも世界中に張り巡らせているなら、本体へと続く道も、どこか一か所ではなく、どこか遠い場所でも近い場所でも無い、そんな曖昧な場所に道が出来るのではないかと。
そして瞑想の場、特にセヴァティアが受け持つこの場所こそ、人里からも遠く、この場所に来た時から感じたあの異様な空気、なんとなく歩き回り、この場所に近づくとあの異様な空気がまた感知で来た。
ほぼ勘だったが、それともオレも『持っている』ためか、そういうものを感じ取り近づく事が出来たからかもしれない。案の定辺り、オレはこの場所に近づけ、カナイは拒まれる様に弾かれ、オレが今立っている場所に近づけずにいる。
カナイ達も拒まれ、弾けれてからやっと気づいた。オレはとっくに気づいていた。アレがここに来て最初にあの『木』を見て、カナイから話を聞いた時から。
カナイはずっと、あの『木』を『木』とは呼ばず、アレやソレと漠然とした証言を指し示していた。つまり、カナイ達の目では最初からアレが『木』に見えていなかった。
逆にオレはアレを最初から『木』に見えていたし、何より異変の度に見つけたあの『木の根』。思い出せば、アレをオレは他のヤツに見せてはいなかった。すぐに崩れ去って灰の様になってしまうから、ソレは仕方なかったかもしれないが、もしあの木の根を一緒にいたファイパやクーディに見せていたら、どんな反応が返って来たか。恐らく、皆一緒だっただろう。
何も見えない、と。
「多分、あの木との戦闘の時、カナイ達は土地守の力か何かで『魔法腺もどき』を見て追っていたんだろうな。でなきゃ見えない相手にあれだけ機敏には動けなかっただろうし、そこは流石土地守、ってとこか。」
「…あぁ…お前もか?お前も、あれが見えてしまっているのか?」
オレが淡々と言っている最中、カナイは悲しみ、落ち込み、焦りや色んな感情が混じった表情と目でオレを見ていた。クロッカスも同様で、こっちは目を見開き黙ったままでいた。
「まぁ、見えちまったもんはしょうがない。だが都合が良いな。この際だ。例のカナイの知り合いとやらがやった方法をもう一回やってくるわ。」
「おっ…前!何言い出すんだこのっ!」
オレの提案に驚き、近づけないためにその場で地面を蹴るように憤りを露わにした。
「分かっているのか!?その方法をやって、『あの子』は」
「アンタらもやるつもりだったんだろ?命を犠牲にして結界を抜けていたら。」
カナイが言い切り前にオレがカナイらがやるとしていた事を提示してやった。言われてカナイは口ごもった。最初からやる予定なら、別に誰かやっても同じだろう。それも、命を犠牲にして結界を抜けるという前提が無くなったのだから、むしろ好都合なハズだ。
「だが、言ったところで、ただ核を剣で攻撃しただけでは」
「我が声よ届け、地深く在るものよ、天高く広がり仰ぐものよ。…だっけか?」
またカナイの声を遮って言う。言ったオレの言葉にカナイは目を見開き、オレに向かって信じられないものを見る表情をした。
「アンタが何か詠唱らしいのを唱えてたの、小さい声ではあったが、聞き取れはしたんでな。オレは名前を覚えるのは苦手だが、魔法の詠唱の暗記は得意だと自負してる。」
最初に襲って来た根を撃つ時、そして地中深く隠れた核を誘き出す時唱えた詠唱は、恐らく核自体を覆っている結界の様なものを剥ぎ、むき出しにして攻撃を当てられる様にするためのものだろう。戦っていて分かった。
コレを唱えない限り、核が肉眼で見えても攻撃が遮られるのだろうと、詠唱の内容を考察した。ソレは当たっているのだろう。オレが詠唱を覚え、唱えられたと分かると観念したかの様にカナイは項垂れた。
「しっ…しかし、いや…なんで、何故そんなお前、やる気なんだよ。」
明らかに尻込みした口調になり、オレに問いかけたカナイ。さっきまで覚悟を決めたという意気込みが感じ取れたが、明らかに精神的な衝撃がヒドく、オレが『素質』を持っていると知っただけで憔悴が見られた。
「…サッサと解決して楽したいってだけだよ。上手くいけば『存在』ってヤツを『浄化』して万事解決なんだろ?」
「それはそうだが、そもそも『あの子』が何故失敗したかも分かっていないんだ!このままではお前まで『あの子』と同じ事に!」
確かに、最初にやった時何故失敗したかは不明だし、カナイ達にも分かってないと言う。このままではまた失敗する可能性は確かにある。だが、オレはもうやると『最初』から決めていた。
「…そうか、分かった。なら行ってこい。」
「セヴァっ…お前!何言ってんだよ!」
今の今まで黙っていて少し不気味に思っていたセヴァティアが、くちを開いたと思ったら、オレに賛同した。意外だった。
「シュロが自分から提案し、自分から進むと決めたのなら、私は否定しない、賞賛したい。それに、こういった場面ではどれだけ止めようと聞かないのは、常識だろう?」
これまたセヴァティアの無理やりな気もする論理が出てオレも少し混乱したが、オレが行く事に異論は無いと考えて良いのだろう。
カナイは相変わらず渋っている。普段自分から動けと催促してきたクセにと思ったが、そこにクロッカスが口を出した。しかもこっちもオレに賛同する形でだ。
「うん、そうだね。失敗するか成功するか、結局やってみなきゃ分からないよね?ならここは出来る方に賭けて行かせるのが、オレら土地守…いや、『年長者』がやるべき事じゃないかな。」
クロッカスまでもがオレを行かせる事に賛成して、カナイは黙ってしまった。だが、オレはカナイから賛成かまだ反対かを聞く気は無かった。行けると分かったら、サッサと行って異変解決をするべきだろう。
フと、木の陰で寝ていたアサガオは起きた。何か周りの雰囲気を察してた、辺りを見渡し、土地守達の様子を見てから立ち上がり、オレの方へと走り寄った。
「止まれ。」
が、そこをオレが止めた。カナイの様に弾かれてその拍子に転ぶと思ったからだ。痛い事が大の苦手なアサガオは転ぶと驚いた後泣くからな。
オレに止められて、何故か?と首をかしげてオレを見つめるアサガオに、距離の離れた場所からオレは言った。
「悪いが、今回はいつもみたいにお前を連れては行けない。カナイと一緒にいろ。必要なら先に家に帰ってろ。」
言われたアサガオは驚いた表情をして、オレの言葉に拒絶する様に首を大きく横に振り、再びオレの方へと近寄ろうとした。
「来るな!」
今度は大きく、力一杯怒鳴った。肩を跳ね、足を踏み出そうとした姿勢でアサガオは止まった。オレに怒鳴られ、目を潤ませつつまたオレの方を見た。
だが、オレが怒鳴られなければ、アサガオはそのまま進んで結界にぶつかり、さっきのカナイの様に弾かれ、転んで痛い思いをしていただろう。特にアサガオは痛いのが苦手だから、今頃大泣きしていたと思う。
そういや、オレがアサガオに向かって大声で怒鳴るのって、今のが初めてだったか。
「…悪いな。今日で『約束』は終わりだ。まっ、オレが勝手に決めた事だったがな。お前はオレじゃなく、誰か別のヤツの所に行って、今度はソイツと一緒にいろ。…レンはさすがに止めておけ。」
言ってから、オレは瞑想の場の奥、よく見ると裂け目の様な岩壁に挟まれる様に奥に続く狭い道があった。その奥へと足を向けた。
「お前、アサガオを置いて行くなんて、お前がそれをしてどうするんだ!アサガオは!」
「…オレじゃない方が良かったな。」
オレがそう言うと、カナイは絶句した。その隙に道の奥へと進んだ。もう声は聞かない。サッサと行って用事を済ませよう。そう決めて、オレは後ろを振り返らずに道の奥を歩いた。
「…またか。また私は置いてかれ、そして、助けようともせず、今から力ずくにでも行けば良いのに、そんなに命が惜しいとは、本当に私は臆病で最低な生き物だ。」
「そんなの、皆一緒さ。ああいうのを知っているから、お…ぼくはなんとも言えないけどさ。多分今行かなくても隙をついて奥へと行っていたと思うよ?彼。そういう目をしていたから。」
打ち拉がれ、か細い声で後悔を言葉にして口から零すカナイに、クロッカスはどこか遠い目で見えない誰かの姿を見つつ、カナイの肩に手を置いた。
「大丈夫だ!いつもヒトと目を合わせないアイツが、やっとヒトと目を合わせ、そして覚悟を決めて行くのなら、応援して待とうではないか!何より、あれが大事なものの為に動いているなら尚更な!」
各々思いを口にしつつ、互いに励まい合う様にして、奥へと進んだ者をただ見送った。
アサガオは、シュロの姿が見えなくなるまで目線を逸らさず、ジっと見つめた。




