38話 真実で驚愕
話の話題に上がり、その人物であるセヴァティアを再び見渡して探すと、いつの間にかオレの背後で腕を組んで立っているのを見つけた。何をしているのか聞いたら、ちょっと歩き回ってからここで待ってたぞ!と元気よく答えられた。あぁ…そうかい、と乾いた返答をしてしまった。
「さっき見て気づいたんだが、セヴァティアお前、土地守の力で異変を抑え込んでいたんだろ?」
「…何て?」
ちょっと動いて、聞こえた言葉に意表を突かれて変な声が出た。セヴァティアが異変を抑えてたとは、どういう事だ!?セヴァティアという人物をよく知っているために名前と行動が結びつかず、まったく想像が出来ずにいた。
「こいつ、『根』に力を無理やりねじ込んで、木や根を無理やり混乱状態にしたんだよ。」
馬車に乗って激しい揺れによって吐き気を覚える様な状態だとカナイは例えた。少量でも『存在』に意思らしきものがあって良かったな。でなければそんな力技は利かなかったぞ、とカナイはセヴァティアあいてに感心していた。
オレは未だ話が頭に上手く入って来ず、蚊帳の外で待機している状態になっていた。
「あぁ、最初この場所に入って寝てる様に見えたのは、そのせいか?」
「あぁそうだな!少し無理してしまってな。それにどうも体の具合も良くなかったからな。『あいつら』の上だと手出しされなかったから、そこで休ませてもらったのさ。」
どういう発想をしたら、安全地帯だからって危険な相手の上で眠りこけるなんて事態になるんだよ。まぁ、ソレもセヴァティアだから、で全て納得してしまうのだが。
ともかく、大分無理をして異変を抑え込み、今は弱体化している状態なのだと言う。…あれだけの剣術を披露して尚弱体化しているとは、詐欺にも思えるが、今は仕方ないか。
「まだ異変は抑え込んだ状態なのらしいが、それも時間の問題か。だが、今なら『内部』に侵入して『事』を行えば。」
異変云々の話を終えて、すぐにカナイは考え込んで顔を俯かせた。
「そうだ、結局以前考えた打開策に代わる方法があるって言ってたな。一体何する気なんだ?」
聞いた途端、カナイの表情が一瞬憂い帯びた表情を見せて、すぐに持ち直し真剣で真っ直ぐな目線をオレに向けた。カナイだけじゃなく、クロッカスの表情にも変化が見られたが、そこはちゃんと見えなかったから、どういった変化は分からなかった。
「異変を解決するためには、『存在』の核を撃つ。それは変わらない。しかし、その『存在』に近づくには結界を抜ける必要がある。」
カナイはただ淡々と事を説明し出した。その時の表情は真剣ではあるが、どこか抗いがたい威圧感を感じた。何が遭ってもここから立ち去る事を絶対に許さない、そんな声が聞こえる様だ。
アサガオも珍しく大人しくしてオレの隣に立ってカナイの言葉を聞いている。
「結界を抜ける事が出来たのは、過去にもたった一人、『あの子』だけだ。何故貫ける事が出来たかは分からないが、私達は『あの子』には『素質』があったからだと仮定した。
残念ながら私達にはその素質がなかったけど、何かしら強い力をぶつければ、相殺し合ってヒト一人通れるぐらいの穴を開けれると考えた。」
『力』という単語がやたら出て来るが、今回言った『力』という部分に、不穏な気配を感じた。さっきからカナイ達が見せる表情、それに雰囲気がその不穏さを助長させる。
「土地守としての力は、本来は『存在』のものだから利用出来るかと思ったがダメだった。
『素質』自体が、『存在』自体とは異なる特別なものなんだろうな。だとしたら、『存在』とは異なるものでも、強力であれば、相殺を起こせる可能があるだろう。」
「色んな工程を考えて、色んな魔法も応用して、時折根の反応も確かめて、そうして考案した方法が確実だと行き着き、ぼくらは他の土地守とも話し合って決めたんだ。」
覚悟を決めた、そう直接言ってはいないが、全てを物語るように二人の声は空間に響いた。
「だから、決めたのだ。『私たちの内誰かが命を差出、命が消えるその瞬間起きる衝撃で結界を抜ける』とな。」
「……何言ってるか、分かって…いるから、そんな表情なんだうな。」
アサガオが何も分からず、キョトンとした表情でオレの服の裾を引っ張り、見上げていた。そんないつもなら気付き、何かしら声を掛けている場面だが、そんな事も構わず、オレは一歩踏み出して、カナイらに向かって口を開いた。
「まず一言言いてぇが、…バっカじゃねぇの!?」
オレが大声を出して、アサガオは肩を跳ねて、口を開けてオレの裾を握ったまま固まってしまった。
「アンタら、過去に親しいヒトを犠牲にして、ソレを後悔して今まで生きてきたって言ってるが、全っ然反省も何もしてねぇな!変わってねぇよ!誰か犠牲にして世界を救うって、過去の『あの子』だかがやった事と変われんねぇよ!
よくソレでヒトの心配とか親心だとか言えたもんだなぁ!そんなんで今まで土地守としてむらや森の動物や小鬼を守って来れたもんだよ!呆れ通り越して絶句するわ!」
「最初に会った時と何も変わんねぇ。誰とも知れないノラの妖精のガキ一人に世話焼いて、勝手に守仕に任命したかと思えば魔法を教えたり。かと思えば今度は無理やり剣術を厳しく指導して、おかげで何回こっちは命を落としかけたか。」
自分の声が若干枯れて来ているのが自覚出来た。さすがに大声で長々と喋り過ぎたと思った。だが、そんな自分の失態などもうどうでも良かった。
「自分の世話は自分でって言って、かと思えばアンタらの分の飯まで作らされるわ。オレが拾ってきた赤ん坊を、拾ったオレが責任を持てっつって、あれやこれやでオレが一人で面倒見たり、そうでもなかったり。ワケの分からない状況に追い込ませては更に仕事を押し付けたりで…本当に変わんない。」
だんだん喋ってる自分が情けなく感じてきた。何より今、自分がどんな表情をしているのか分からず、もしかしたらとてもヒドいものになっていうだろうと予想して、更に複雑な心境になった。それでも、言わずにいられなかった。
「…すまなかったな。黙ってこんな事を決めて。」
「うん、何も教えないなんて、子ども扱いよりも達が悪いね。やっぱり言うべきだったね。」
土地守達は顔を見合わせて、少し緊張が緩んだ雰囲気になった。
「まさかお前がそこまで私達を思って怒鳴ってくれるなんて、ちょっと照れくさいと言うか、やっぱり嬉しいと」
「違ぇよ。」
「えっ。」
何やら勘違いしている様子なので、訂正の為に強めに否定の言葉を吐いた。いきなり言われて、カナイらはちょっと表情が固くなり、動きが止まった。
「アンタらの土地守としての仕事もだが、カナイに関しては以前どっかで作った借金が残っているからな。アンタらがいなくなると、ソレが全部オレに回って来て面倒だろう。」
「あー…うん、そうか。」
カナイの目から生気が薄れたが構わない。こっちはそんな仕事の負担を考えて、未来に不安が生じて情けなくなった。本当にこの土地守共は面倒くさい置き土産ばかり置いて行きやがる。
「あっははは!カナイ、言われちゃったなぁ!て言うか、また借金なんて負ってたの?本当に変わらないなぁ。」
「いや、借金に関してはお前には言われたくないんだが!?」
確かに、クロッカスがいなくなれば、その負担はレンの方に回るワケだから、そうなったらレンのヤツ、どんな表情で槍を振り回して来るか分かったものじゃない。
「なんだなんだ!カナイにクロッカス、相変わらず借金だなんだ、責任ばかり作って、そんなに窮屈ではいざという時動けなくて困ると言ったではないか。本当に困ったものだ。」
お前にはそう言われなくない!とカナイとクロッカスが笑っているセヴァティアに向かって怒鳴った。カナイはともかく、
クロッカスも怒鳴る事があるんだな。まぁ、相手がセヴァティアだしな。
「それよりも、命が散る瞬間の衝撃で穴を開けるって大丈夫なのかよ。そんなんで結界を抜けれる確証なんてあんのか?」
「いやいやシュロ、ヒト…生き物の命が尽きる瞬間はな、生命の力が一番輝く瞬間でもあるんだ。少なくとも普通に魔法を使うよりは強力だと計算で出ているぞ。」
どこか言葉の端に弱々しさが滲み出ており、やっぱり心配が拭えない。だが、『命が散る瞬間、生き物は強い生命力を発揮する』と言う話は有名な話だ。そういった話に関した逸話はいくつもある。だから、改めて考えて、確かに成功しても可笑しくないと思えた。…思えてしまった。やはりカナイらが言った方法が確実なのだろう。
だが、オレにはカナイらが言った方法以外にも、確実な方法がある事を知っている。
「…うん、分かった。そっちが決めたって事なら、こっちも勝手にさせてもらう。」
「あぁ…ん、勝手にって何を…あっ?」
話事に意識を向けていたカナイらを置いて、オレは瞑想の場の後ろの方、山の岩壁がある方へと歩いた。いきなりのオレの行動にカナイ達は呆気にとられたが、すぐに立ち直り、声を荒げて止めた。
「おい待て!そっちは―」
瞬間、カナイの手が雷の力を受けて痺れた様な状態になり、ソレが壁に弾かれたのだと自覚するのに、然程時間を掛けずオレの方を見て再び唖然とした。
「あっやっぱり『ココ』なんだな。そりゃあ、あんな『木』が陣取ってたワケだし、さきからこの先から妙な気配にするからな。あの『木』の本当の本体も近くに在ると思った。」




