37話 この場で解明
「結局、さっきから言ってる『存在』ってのは何だ?」
話し込んでる最中だが、疲れて眠そうに眼をこするアサガオを宥めつつ、立つ場所を変えてオレは答えを急かす様にして聞いた。今起きている異変が、過去に起きた事と酷似している事から、過去の出来事が今回の異変に関係している、もしくは原因が過去のものと同じでは?という結論を先ほどカナイ達から聞かされた。
その過去の出来事が何かをオレは今まさに聞かされており、どうにも気になる単語が羅列しており、今一番気になる事を早速質問した。
「正直に言うと、その『存在』の詳細が私達からでも説明出来ん。何せ、私達の目には『見えなかった』のだからな。」
「見えなかった?」
カナイの口から出た言葉を反復して疑問を投げかけた。何か巨大な力を持ったものがいる、という事は感じれるが、それを視認出来ず、しかも近寄る事も出来なかったという。
「結界、だったんだろうな。それに拒まれ私達では見る事も近づく事も出来ず、詳しく調べる事が出来なかったんだ。だが、辛うじて地中の『根』は認知出来てな。その周囲を調べられて」
「待て、アンタらには見えなかったんだよな?なら何故さっきからその存在の一部?とかそういった部分の事を植物の『根』と称するんだ?」
聞いていて気になった事を再び聞いた。話していたカナイ達はそう言えばそうだった、とでも言いたげな表情をして、オレの問いに答えた。
「それはその『存在』を唯一視認出来、近づく事が出来た『奴』がいてな、そいつの話からその『存在』は『木の姿』をしていたと聞いたんだ。」
あくまで人伝だから、見えないものをそうだとはっきりと断言出来ないが、言った当人の事をカナイらは信頼しているらしく、だから部分的に植物として言い表しているらしい。
よりにもよって『そう』くるか。…まぁ良いか。すっかり眠り込んだアサガオを木の陰に横たわせ、オレはその場を後退しつつ納得し話を聞いた。
「とにかく、私達は戦争中の異変をなんとか止めるため、我々はその『存在』の根の部分を徹底的に調べたんだ。」
「でも、やっぱり見えない触れないぼくらじゃあ、なかなか苦戦してねぇ。やっと見つけた打開策も、ちょっと納得はしていないんだ。」
打開策、という言葉をクロッカスは苦そうな表情で口にした。カナイもその言葉を聞いて、俯いてしまった。土地守らにとって、よっぽど打開策とやらは苦肉の策だったらしい。
それにさっき出てきた、カナイ達には見えない『存在』を唯一視認出来る存在。勘ではあるが、その人物とその打開策とは何か関係がある様に思えた。
「んで、その打開策ってのは結局やったって事なのか?」
聞いたら、今度は黙ってしまった。沈黙は大体肯定の意味にとられるが、やったとして余程嫌な結果になったのだろう。表情を見てすぐ察する事が出来た。
「さっき言っただろ?結末は世界が平和になっておしまいってな。やって、異変は治まったさ。おかげで戦争永久停止令が出てな、今後一切大規模な争うごとは禁止するって事も決まって、こうして戦争の影も無い世の中になったのだからな。」
何やら皮肉でも言っている様な言い方に聞こえる。そしてそれが、言っている本人を一番傷つけている体にもなって、聞いてるこっちが悪い事をしたとでも言われている気分になる。
だが、次の瞬間。カナイの表情がさっきと打って変わって、何か悪い事をして白状でもしたヤツみたいな、弱弱しく目を細めて遠くを見ている表情になるのを見て、オレは黙って話の続きを待った。
「…打開策と言うのはな?要は生贄さ。さっき言った、唯一『存在』を認知出来るソイツ、『あの子』が『存在』の中心へと行って『存在』の核を撃って、力の循環を一度初期化して自己再生を誘発させるというものだ。私らなりに言うと『浄化』と呼んでいたがな。
その『存在』は、力を大きい分、何かしらの自己防衛機能が備わっている様で、それを応用したものなんだがな。それだけ力を強い『存在』核を間近で害を加えるとなれば、当然加えた本人に強い反動がくる事は分かっていた。…分かっていて、私達は向かわせた。止めろ、行かなくて良いと口で言っておきながら、私達は何もせずただ黙って行く姿を見るどころか、見て見ぬふりをしたんだ!」
最初は絞り出すように声を出して、だんだんと声量が強く、大きくなっていった。言い終える頃は息を切らし、目には薄らと涙が貯まっていた。
言った事は大半事実だったのだろう。カナイの中で、自分は『あの子』を敵地へと追いやった悪者であると言いたいらしい。実際のところ、その現場を見ていないオレからは何とも言えない。何より、カナイの纏う雰囲気が何も言わせないというものに感じた。
少し口を出して、後は黙って見ていたクロッカスも、何も言わない。恐らくクロッカスもカナイと同じ心情なのだろう。
セヴァティアは、いつの間にかどこかに行って姿が見えない。もうアイツの事は知らない。
「ユウシャがマオウを倒すって話。あれ実は私達が書いた話なんだ。少しでも『あの子』の事を誰かに少しでも伝え残したかったからね。いつの間にか話が変わって、今の『マオウが世界を悪くして、ユウシャがマオウを倒して世界は平和。』という話に書き換わってしまったのだがな。本当、世に中都合の良い方へと勝手に動くものだな。
何より『あの子』が『ユウシャ』とはな。聞こえだけは良いお伽噺になったよ。」
話して少し気が抜けたのか、どこか投げやりな雰囲気に変わり、そして落ち込んでいた様子からまた一変して、覚悟を決めた鋭い目つきになった。
「そういや、この異変が当時のものと似てる、と言うか同じって事は、またその『存在』が暴走し出したって事か?」
「また、と言うよりは、過去の事がそのまま続いていると言うのが正しい。実は、あぁは言ったが、『あの子』のやった打開策は、成功したとは言えぬかもしれないんだ。」
なにやらややこしい事を言いだした。さっき『あの子』なる存在のおかげで異変は治まった、と聞いたが、実の所万事解決とは言えない事になった様だ。
「確かに『あの子』は仮定した手順を行い、異変を治める事は出来たのだろう。だが、出来たのは『浄化』ではなく中途半端な『封印』だったのだ。」
つまり異変が治まったのは一時的なもので、今起きている異変はその時『封印』されたものが解けたもの、という事か。
「成功した、と最初は思った。だが、想定した変化とは違う状態となり、想定が間違っていたと言えばその通りだが、明らかに『浄化』したとも言えない、『存在』の力の循環が止まらず、ただ遅くなっただけに終わったんだ。だから、私達は『あの子』が失敗してしまった、と思ったのだ。」
カナイの言い方から、『あの子』が失敗したは大層心掛りな事だろうし、信じがたい事のはずだ。それでも、カナイ達は失敗したと見て、更なる打開策を講じたらしい。
「幸い、根の部分への接触は出来そうだったのでな。根の部分に流れる力を利用させてもらってな。本体ともいえる場所も一時的とはいえ止める事が出来たから、それでこちらも強い結界を張ったり身体能力を高める事が出来たのだ。」
カナイら土地守の力は、元はその『存在』の力を一部だけ借りていたものだという事か。なんともえらい事をしやがる。
「まぁ、力に接触してきた反動でかね。こうして年をとるも事なく生き続けてきたわけだ。」
さっきから聞こうと思っていた事を、カナイが先に答えた。『戦争時代』はもう千年も昔に事なのに、まるで当事者の口ぶりで話していたから、もしやと思ったが、当たっていたか。
カナイ達の言う『浄化』が失敗し、その後自ら土地守となる事で土地の安寧を守ってきたのは、『あの子』への贖罪なのだろう。
「確かにそれはある。だが、私達が土地守として活動したのは、異変を抑える力を補助するためでもあるんだ。」
そもそも戦時中の異変は、人々の負の感情が高まった事にある。『存在』は世界中に根を張っている。故に多くの負の感情を集める事が出来てしまい、結果として異変は大きなものとなり、解決が難航になった。
異変が再び起こる事を防ぐ、また封印を持続させるためには、ヒトが負の感情を出す事を抑える必要がある。だが当然ヒト一人一人に負の感情を抑えてもらう、なんて無理な話だ。
そこで、唯一接触出来る『根』の部分を利用し、負の感情を集める機能自体を抑えるという手段をとった、と言う。
「土地守が設けた瞑想の場というのはな、全て『根』が地上近くまで伸びた場所でもあってな、力を調整しやすい場所でもあるんだ。」
「字の如く土地を守るだけでなく、異変の再発防止を兼ねてるって事か。」
むしろ、土地を守る事が異変を治める事に繋がるって事か。だが、結果として、異変は起こってしまったワケだ。
だとしたら、今の状況は結構ヤバいのでがないか?オレから説明を求めておきながら言えたことではないが、サッサと何か行動を起こさないと異変が拡大するのではないか?
「それに関してはセヴァティアが手を打ってくれた様でな。解決法ももう考えている。」
アッサリと言い返された。それにどうやら以前の打開策とは違う手段を考案したと言う。その前に、セヴァティアが手を打ったって何の事だ?




