35話 局面で呆れる
倒した?と頭に疑心を生じさせ、周囲の反応を見渡した。オレらを囲っていた大量の木の根は炭にでもなったかの様に先から徐々に崩れていき、塵となっていた。
木の幹も同様で、枝の先から崩れていた。あの異様な気配も、本体であろう核を射貫き消滅したからために感じなくなった。
「はぁ…やっと終わったか。」
盛大な溜息を吐き、手に弓を持ったまま地面に座り込んでオレの体を支えて見上げた。何も無い空が見えた。さっきまでは木の根が天井代わりとなって見えるづらくなっていたのもあるが、根と根の隙間から見えた空はどこか薄暗く曇って見えた。
そんな風に見えたいた空が、今ではここを訪れる前に見えた青色の空に戻っていて、その変化が今回の戦いが確かに終わったのだと確信する後押しとなった。
そんな終わった事に安堵に一休みしているオレの下に、アサガオが駆け寄ってオレの背後から抱きついた。一波乱終えた後でアサガオも周囲の空気が緩くなったのを感じてか、戦闘中ずっと緊張した表情だったのがウソの様に消えて、元気に楽しげに笑っている。
「アサガオもすっかり安心した様だな。何はともあれ、お疲れ様だ。」
オレと同じく、カナイも一仕事終えて溜息を吐きつつ手首を回しながらオレの方へと歩み寄って来た。今は疲れが貯まった状態でサッサと帰って寝たいところだが、それよりも今、カナイには聞きたい事があった。
「カナイ、あの木が何か…ってか、今までの異変云々もなんで起こったか、もしかして分かってたんか?」
「うわっと直球だぁ、相変わらず言い回し出来ない奴だなぁ。」
少しふざけた態度を見せた後、観念した様に表情を整えてから、オレに向き直り口を開いた。
「あぁ、分かっていた。っと言ってもな、異変が起き始めた事に関してはお前からセヴァティアが山に結界を張ったという話を聞いてからだがな。」
やっぱりその時には気づいていたか。知らぬふりをしてオレと話をしていたと思うと憤ってくる。そんなオレの心情はカナイには分かっているのだろう、次に出したのは、言い訳染みた言葉だった。
「すまんな、何も教えんで。事が事だけに、どこまで話して良いかと考えあぐねていたんだ。まっ私なりの親心だ。」
何が『親心』だ?親がいないオレでも、こんな親を持ったら早い段階で反抗期を迎える事になる。
「あんま責めないでやってよ。ボクでも説明するか悩むところだからさ。」
オレらの話を聞く姿勢だったクロッカスも、こちらに歩み寄り話し出した。同じ土地守だからか、どうやらカナイを庇う側であるらしい。
「実際、『コレ』はぼくらが『自分ら』だけで解決しなければならないからね。」
「オレが今この場にいて、トドメもオレが刺してんだが?」
事情でオレを巻き込まない様に配慮したつもりだったのだろうが、現状からしてソレは意味が無かったのは一目瞭然だ。これでは何がしたかったのかワケが分からない。
「いやー私達だけでやるつもりだったんだが、この場所に近づくとどうにも力が出なくてな?お前が一緒じゃないと正直負けてたな!」
胸張って言う事ではないだろう。自分らでやるという決意らしい決意が意味を無くし、土地守としての威厳も何も無くこっちが頭を痛める始末だ。頼りない。
しかし、聞こえた情報には引っ掛かる。力が出ない、という所だ。この場所、というかあの戦った謎の存在が何かしら土地守と関係があり、しかも土地守の力に影響を与えるだけの力を持っていたのがこの時点で分かる。
オレは土地守として戦うカナイを間近で見てこなかったから、そもそもカナイ達がどれだけの実力を知らない。だから力が出ないと言われても信用し難いが、あれだけ異様さを放つ相手では、その事情に信憑性が出る。
そうなると、やはりあの木がどんな存在なのか気になる。好い加減話して欲しい。
「…あれは突然変異では無い。昔から存在し続けた存在だ。まぁあくまで『一部』だがな。」
やっと答えが聞けると思い聞いたのが、突拍子もない規模の内容だった。自分が相対していた存在が、既に在り続けていた大きな何かであると、自身の上司の口から語られた。実際目にしているから否定も出来ず、仕方なく黙って話を聞いた。
「あれが生まれたのは何時かは詳しくは分からない。少なくとも戦争時代以前からも永くあると思われる。あれは地中深くに自身の一部を広げ、力を吸い上げつつ自身の力を他へと分け与える程の潜在能力を持っている。」
「…力を吸ったり分け与えるという性質なのは納得だが、アレの力はアンタらの力を上回る程強大なのは納得出来ねぇ。一体何があって、そんなのが今異変を起こすまでに至ったんだ?」
「…それは。」
また何か言いよどむ素振りを見せて、やっと言いかけたカナイを視界に捉えていると、その視界の端に何かが動くのが見えた。一瞬アサガオがまた動き回っているのかと思ったが、オレの服の裾を引っ張る小さい存在を察知して、すぐにソレがアサガオでは無い別のものと分かって、咄嗟に話している最中のカナイを思いっきり突き飛ばした。
少々乱暴だが、突き飛ばして正解だった。カナイが立っていた場所に突然何かが刺さった。黒く尖った何か、ソレは刺さる以前から崩れているのか、刺さって直ぐに燃え尽きる様にして崩れ去った。
ソレが飛んできたであろう方向を見た。見て衝撃が走ったし、信じられずにウソだろ?と思わず声が出た。さっきまで自分らと相対し、そしてオレが核へと攻撃し無力化したハズの黒い木がぎこちなくも枝を震わせつつ動いて、感情が出ないハズが枝の先をオレらの方に向けるなどをしてオレらに明らかな敵意、殺意らしきものを出して、再びカナイに仕掛けた攻撃を繰り出そうとしている。
「オイ!核撃ったハズだよな!?なんでまだ動くんだ!?まだ何かし忘れてるのか!?」
当然ながらオレは混乱したし焦った。ヒトで言えば急所に攻撃を入れてピンピンしている様なものだ。
「さすがの私も予想外だな。生き物で言う所の最後の悪あがきって所か?」
陽気そうに振る舞って言って聞こえるが、カナイが最初に言った予想外という言葉はその通りで、少し冷や汗をかいて見える。
しかし、襲い掛かって来る木をよく見れば、先ほど見たままで枝先はボロボロと崩れており、ほとんどの枝は崩れてなくなっていいる。幹の方もヒビが入って崩れかけた箇所が見られる。
「奴さん、倒れかけなのは変わらんままの様だな。この攻撃を耐えれば後は時間の問題だ。何としても耐えるぞ。」
カナイは言うが、今オレはまだ焦っている。さっき弓を使うために剣を捨てたままだからだ。ソレを拾って構え直すヒマがあるか、一瞬考えてからすぐに駆ける体勢になったが、直後に木の枝の鞭が来て態勢を崩された。やっぱ向こう、多少ながら知恵がある。正確には条件反射に近い、触られた事に反応し動く植物みたいだ。
核が健在だった時も動くオレではなく、動かないカナイを狙っていたから、分かっていたが本当に厄介だ。こうなったら早く全身崩れ去ってほしいが、まだ時間が掛かるらしい。どんな意地というか根性だか。
カナイとクロッカスも、さっきまで軽口を叩いていたハズなのに、見ただけでも弱っているのが分かった。膝をついた姿勢のまま息を切らしている。冷や汗も焦りからではなく、疲労から出たものだったらしい。どおりで何かをした後、なかなか復帰しないと思った。
どうやら先ほど言った『この場所に近づくと力が出なくなる』というのは真実で、今までの様子はオレに隠すための振る舞いだったらしい。ヒトには隠し事をするなとか説教をするクセに、自分らでそんな事をしているから、信用が無いというのに。
そんな事を考えて時間を潰していても、まだ黒い木は健在だ。確かに徐々に崩れているのに、こちらに向かう攻撃は威力は変わらず、下手に受ければ骨を折られそうだ。一体いつになったらこの戦いは終わるのか、という焦りが出てきて動きづらい。
オレ一人でこの場を凌げる気が削がれ、不安が込み上げていく中、突如ヒトがこちらに近づいて来る気配がした。
「ちょっと借りるぞ。」
カチャリとオレが落とした剣を誰かが拾い、オレに問う声がオレの耳に届いた。突然で驚いたが、誰の声かすぐに分かり、言葉への返答として黙って『ソイツ』の動向を見守った。
『ソイツ』は向かってきた何本もの木の枝を物ともせず、一回持った剣を振るっただけで全ての枝を滅多切りにした。いや、オレの目では一回に見えたが、もしかしたらほんの一瞬の時間で何度も剣を振るっていたのかもしれない。三回や五回などではない、何十回と瞬きの間に切りつける事など『アイツ』なら出来かねない。
そんな異常とも言える剣術を披露した後、オレらの方へを見返りってから軽快な歩みでオレらの方へと近寄った。
「おぉ、シュロ!なんだ自分からここに来るなんて、お前もしっかりと鍛錬を積んでいる様で安心したぞ!」
「言ってる場合か!」
緊迫した空間で手を振りながらこちらに近寄る女性。濡羽色の長髪を靡かせ、服の色も黒く動きやすそうな作りで、如何にも健康そうなはきはきとした動きを見せた。頭には二対の檳榔子黒の角を生やし、頭角人としての特徴も健在だ。
楽観的なセリフを言われ、思わずツッコミを入れてしまったが、こっちもそんな場合ではない。冷静になろうと頭を振っている最中に空気を切る音が聞こえた。反射的に腕を伸ばせば、先ほど『ソイツ』が拾った自身の所有物である剣が飛んできて、伸ばした腕で思わず剣を柄を掴み取っていた。
いきなり投げるな、と注意しても聞く耳を持たない『ソイツ』はオレに向かって剣を投げて直ぐに、錆浅葱の目をカナイに向けて言った。
「カナイ!持ってる!?」
「あるよ!クーディが届けにきたの、シュロ経由で受け取っておいたよ!」
そう言い、森から洞窟へと出かける前にカナイに渡しておいた物を、カナイは収納魔法で出して『ソイツ』がした様に物を『ソイツ』に向かって投げて渡した。
難なく投げられた物を受け取り、包みをとって中から出てきた見事な装飾が付いた、それでいて長過ぎず、短くもない立派な片手剣を持って構えた。
「おーさすがラサだね!ピッカピカの新品になって戻ってきたよ。ありがとね、カナイ!」
「お礼とか後で良いから、サッサと済ませてくれよ、セヴァティア!」
言われた『そいつ』もとい、セヴァティアはカナイに向かってほほ笑むと、目つきをキツくして木に向かって睨みつけ、構えた剣をゆっくりと下に向け、次の瞬間地面を蹴って駆けだしていた。
あまりにも速く、駆けだしたとこちらが認識した時にはセヴァティアは既に木のすぐ近くにいた。そして下に向けた剣を振り上げた、思えばまた下に向けていた。どこをどうしたのか見て分からなかった。そう思った瞬間木の幹にいくつもの切り傷が出来上がっており、その傷によって木の動きが緩慢になった。
本当にどう動けばあんな状態へと成す事が出来るのか、視認してもまったく検討が付かない。とオレが悩んでいると、セヴァティアが突如オレの方へと向き直った。
「シュロ!止め刺しに行くぞ!まずはお前からだ!」
「来ると思ったよ!つうか、トドメいるかぁ!?」
突然の譲りに短い時間悩んだが、言ったら止まらないセヴァティア相手なら、言った通りにさせてもらう。とは言え、核も既に討ち、崩れかけている相手にトドメを刺すとなったら、どこをどうすれば良いのか迷う。
そんな中、幹から伸びた枝の一本がまだ長く残った方が伸びて、こちらに向かって来た。
いや違う。
よく見たら枝はオレのすぐ後ろのアサガオを狙っている。オレはすぐに横に動き、枝の伸びた先の正面に立ち剣で受け止めた。
やはり崩れかけて速さも強度も落ちている。おかげで簡単に受け止める事が出来、踏み込んで刃を押し込めば刃が食い込み裂け、そのまま薪割りの要領で枝を両断していった。
枝は切られた事で二つに分かれてたが、割れたまま動く事もなく硬直し、次第に崩れていき木の屑が地面に落ちていく。
オレは枝を両断してすぐに剣を払い、アサガオを後ろに下げてから走りセヴァティア同様に木の幹の近くへと行った。
近くに来たとは言え、何をすれば良いのだろう。とにかくボロボロの状態で残った枝を根元から剣で切っていく。
枝を全て切り、残る幹の部分に向かって剣を両手で持って振り上げた。そんなオレの動きに続き、セヴァティアも剣を振り上げて合図も無く一斉に剣を振りおろし、交差する様に幹をオレとセヴァティアの二人で一緒に切りつけた。
二人分の斬撃を喰らい、もう無事と言える木の部位が無く、鈍く木が軋む音を響かせて、限界を迎えた木は遂に全体が崩れ落ち、後には砂の様に木の屑が山となって地面に残った。
風が吹けばそのまま屑が飛んで行ってしまうだろう。害と思われる気配も感じないからと、オレは一瞥してすぐに視界から外してふうと息を吹いた。
「よっし!やっと討伐で来たぞ!よく来てくれたな、カナイ!シュロも、よくやったな!」
溌剌とした態度で、セヴァティアは既に体力が尽きて今正に崩れ落ちる時だったオレらに話し掛けた。疲れてはいるが、今どうしてもこの人物に言いたい事がある。
「今まで何してたんだよ!」
オレ一人だけでなく、カナイも一緒になって叫ぶようにセヴァティアに問いかけた。オレとカナイの声が重なり、結構な音量となってこの空間に響いた。アサガオは耳を塞いで小さな悲鳴を上げつつ、どこか楽しげな表情でオレらを見ていた。セヴァティアに限らず、当然だが元気なヤツだ。




