34話 不思議な力で対抗する
カナイに言われて囮役を引き受け得ると、カナイはしゃがみ込んで地面に手を当てた。
「よし…んじゃあサッサとアンタなりの掘削作業始めてくれ。」
「掘削…とまでは言っとらんが、まぁ良い。それに、そこまで時間も掛けん。安心しろ。」
そして次にカナイは詠唱らしき言葉を小さな声で唱え出した。この詠唱はさっき木の根を退けた時に唱えたものと似たものだと感じた。
瞬間、突如木の根が尋常ではない動きでオレら、もといカナイの方へ襲い掛かった。明らかにカナイの行動に危機感を察して狙って見えた。コレはカナイの行動に期待が持てると確信し、カナイと木の根の間に立ち壁役となった。
弱体化はしているハズなのに、剣で受けた木の根の突き刺す攻撃の威力が、弱体化前と変わらない威力だった。攻撃を受けた反動で後ろに下がったが、注意していないと突き飛ばされてしまいそうだ。正面から攻撃を受け続けたら、剣の方がダメになってしまう。何とか受け流して攻撃力を分散しようと、剣を構え直した。
正面から根が先をオレに向けて突き出してきた。ほとんど本能と言える動きで枝を剣で払ったが、死角からも来ていたらしく、動けはしたが先の方が腕を掠った。袖を切り裂き、腕にキズが出来、痛みが来る。だが我慢出来る痛みだ。そんな様子をみたアサガオは、自分が傷を負ったワケでもないのに、痛くて泣いている様に顔を歪めている。
再び猛攻が来る。あちこちキズを作りつつも、何とか耐えて息を切らしつつ立ち続けた。カナイをチラリと見たが、詠唱は唱え終わっている様に見えた。だが、まだ核への攻撃が行われていないらしい。何をしているのか、と怒鳴る所だったが、表情を見て止めた。
「思ったり深いな。…まだちょっと掛かる。任せた。」
カナイのか細い声が耳に届いた。こっちまで任されて、今回は本当にしんどい仕事だ。今度はアサガオの声が響いた。見れば根が束になって形を変えていた。それはまるで巨人の腕が地から這い出た様だ。あんなのに掴まれば全身の骨を砕かれてしまう。ソレは御免だと尻込みしかけたが、視界の端にアイツの姿が入って押しとどめた。
正直オレの魔法の力は弱い。魔法を得意とする妖精種の話は有名だが、肝心のオレはその魔法の修練をあまりしてこなかった。というよりは剣の訓練ばかりやらされた、という方が正しい。だから使える魔法も初歩的なものといつか使った、強風を起こして相手の動きを制限するもの、ソレがオレは使える中で一番強いものだ。
効果は言った通り、防御と相手の行動制限と妨害。まださっきクロッカスが使った魔法の力影響は出るだろうが、使えないワケではない。むしろ、使える手段を使わなければこっちが不利だ。
「…吹き荒れ、盾となり、牙を遮り断つっ!」
詠唱を唱える時に力が入ったが、魔法に大事なのは知識と想像だから、効果に悪い影響は無いはず。魔法は発動した。以前と同様に周囲に風が渦を描く様に巻き起こり、オレと木の根の間空気の壁となった。だがやはり、クロッカスの魔法の影響で以前ほどの強さは出ない。とは言え、これだけの風が吹けばオレとしては上々だ。
この風の魔法はただ同じ方向に風を吹かすワケではない。多少は操作が出来、例えるなら大きな布を振り回す様な構図になる。当然だが難しい。だが、今のこの状況ではこの魔法が一番良いと考えた。
ふんっ!と声を上げ、前方の文字通り束になって襲い掛かってくる木の根共に向けた手に意識を集中して、ただ渦を巻くだけだった風を操作し、前方を力いっぱい撫でる様にして分厚い風の幕を張った。こちらに向かってきた木の根は風の幕に圧され、若干動きに変化が見られたが、変わらずオレに向かった。
が、オレにその攻撃は当たらず、オレのすぐ横の地面に当たり、地面をめり込ませた。魔法で上手く攻撃の軌道を逸らせた様だが、攻撃による風圧というか、衝撃がオレの体には届いていた。重く体が軋んで、そのまま骨を折らんばかりの圧力が掛かった。それだけだ。それだけならまだ耐えれる。
「届いた!出るぞ!」
そう思った矢先、今度はカナイが声を張った。それはカナイからオレへの合図だ。例の核への攻撃のための謎の詠唱が核に届いた、ととれた。だが、届いたというのは分かるが、出ると言うのは何だ?核がか?ここでか!?
何があってそんな状態になるか分からないが、カナイの声色から考えるに、必要だからそう獲物を『誘導』したと見れる。
「上手く外へと誘導出来た!今私はちょっと動けん!だからシュロ、代わりに頼むぞ!」
またヒトに託す様な事を言って、大役を押し付けてきやがった。実際今のカナイは、大分力を消費したのかフラついている。仕方ないから木の根の攻撃に備えつつ、核の出現を待った。字にするととんでもなく忙しい状況だ。魔法でやっと攻撃を防いでる最中に敵の弱点を突きに行くというのは、あまりに重労働だ。
地鳴りが響いた。地面が揺れて音が聞こえる。音はだんだんと大きくなり、この空間の中央の地面が盛り上がった。出てきたソレはあの木の根と変わらないが、違うのはソレには攻撃の意思が無く、何かを守る様にして伸びた根が内側に丸まり、どこか祭壇めいた綺麗さを感じた。そしてその中心、脈動する球体状の何かがその根に絡みつかれ、守られるかの様な状態で根を支えに宙に浮く様にして在る。
言われたからには、言った相手が土地守でオレの上司であるのなら、面倒でも、イヤな気分が増しても、オレは剣を構えた。一層にも増して殺意を持ってこちらに向かってきた木の根の束を横目に、その球体の『核』に向かって駆けだした。
根の攻撃をギリギリまで寄せて、当たる、という距離になった瞬間自分の体を強制的に地面に伏した。躱す、とは少し違う攻撃の命中から逃げるその無理やりな方法に対応出来なかったであろう、木の根の攻撃は誰もいない空間を撃って終わった。 オレもいきなりの状態で地面に倒れために、その時の転倒の衝撃を体にモロに受けて、肩やら顔半分やらが少し痛かったが、気にしない。気にせず収納魔法を使い、素早く中から剣とは別の形状の武器を取り出して、瞬時に構えた。
「良いか!?魔法の力を一撃に込めて、一気に叩き込むんだ!」
カナイからの恐らくこの戦いにおいて最後の助言であろう言葉を信用し、構えた武器の『先』に魔法の力を集中して込めた。そして、その魔法を込めた一撃を、放った。
物体としての武器に魔法の力を込めて戦う戦法は、オレも知識としては頭に入っていた。だが、入っているだけで実践した事は無い。まだ武器に込める魔法の力の調整に関して感覚が掴めずにいるため、後はとある剣術好きのせいで魔法を使った訓練がほとんど出来ずにいるためだ。
だから、今回魔法の力を武器に宿して実戦で使うのは初めてだ。成功するかと言うよりは使えるかどうかが重要だ。しかも使う相手が生き物とは呼べない、オレにとっては未知の物体だ。反応があるとして、どんな反応になるのかまったく分からない。
そんな中で実行された魔法武器攻撃、この離れた距離のままでも攻撃が可能である『弓矢』での攻撃は、どうやら魔法を矢に宿す事と当てる事は出来たらしい。当たったと思った瞬間、まるで脆い結晶でも砕いたかのように割れた。その次に何か狂気じみたケモノを射貫いた様な、生き物が痛みに苦しみ悶えるけたたましい雄たけびに似た大きな音を聞こえてきた。
その叫びに似た音は暫くの間オレらが立つ空間に暫く響かせた後、最初からそこに何も無かったかの様に静寂になり、核と呼ばれた球体があった場所には、球体諸共に支えていた木の根も消滅しており、最初から何も無かったかの様な空気が一帯に流れた。




