33話 異変で翻弄される
槍が黒い木に当たった瞬間、轟音と共にまるで火花が散るようにして槍も弾け飛び、鉄よりも硬く見えた魔法の槍は簡単に崩れ去り、そして燃える火だけを残し、辺り一面を火の貯まり場を作り出した。
オレも魔法については散々習ってきた。オレの扱える属性は火属性ではないが、火の魔法を扱う者が多かったから、自然と火の魔法を目にすることが多かった。そんな今まで見てきた火の魔法の中でも、今見た魔法は遥かに強大で、それどころか規格外とも言える力だった。ソレは土地守が扱うものだから、では済まされない凄まじさだと感じた。
「あっつ熱!分かってたがあっつぅ!お前、妙に今回張り切ってないか!?」
「あっははっ!そうかもねぇ。魔法を使うの、結構久々だからさぁ!」
そんな魔法の威力に圧倒されているオレを置いて、土地守の二人は聞いてて気の抜ける会話をしていた。だが二人の目は決して木がある方向から外れてはいない。オレも同様だ。他の木とは違っても、見た目が植物のソレが、これだけの火に囲まれ、自身も炎上している状態で無事だとは思えない。
だが、頭の半分がまだ危険だと告げている。火が燃える中、一体あの向こうでは何が起こっているか。誰一人、セヴァティアの安否をまったく気にしていない中警戒を解く者は誰もいない。いやアサガオは気にしていた感じだったが?
「ってか、本当にセティー大丈夫か?コレ。さすがに火傷の一つは負っても可笑しくないぞ。」
「いやぁ、あいつなら大丈夫だろう。それに…『あれ』も。」
セヴァティアに対して楽観的に答え、すぐさまに意識を別の方に向けたカナイ。その目は先ほどから変わらず強い警戒心が宿っている。
結果はすぐに表れた。いや、現れた。ごうごうと音をたてて燃えていたその場所、その向こうに影が見える。パラパラと焦げた表面が焦げ落ちる音を微かにたてつつ、自身は無事だぞと言うかの様にそこに変わらず立っていた。ソレは見た目こそ変わらないが、最早木として見る事も認識する事が出来なかった。
ケモノだ。黒く蠢く全身が動物の爪か牙とでも言うかの様なその刺々しさ、そもそもあれだけ強力な魔法を受けて無事なのが本当に異様で異常だ。
「…やはりか。」
「いやいや、何なんだよアレ!?」
率直な感想を叫ぶようにカナイに言い放つ。クロッカスの魔法を受けても未だ無事な状態で、もう打つ手が無いのでは?と感じた。しかし、カナイはそうではないらしい。
「よく見ろ。見た目は大丈夫そうに繕ってはいるが、明らかに『ヤツ』の力は弱まっている。」
カナイの口ぶりから、妖精の目で見ろと言いたいのだろう。なるほど、と納得してから妖精の目で木を視た。先ほど見た時は魔法腺もどきが微かに生き物の血の筋流れる様に見えたが、今は流れをせき止められた川の様に、光の流れが遅くなっている。クロッカスの魔法の影響があの魔法腺もどきにも出ている。見た目だけでなく性質も魔法腺そのものなのか?
以前と先ほど説明した、強い魔法の力が頻繁に発動すると次に魔法を発動する時に支障を来すという話。
その詳細は魔法腺が魔法の素から作られ、完成された魔法の力の残滓という名の余波を受けて反響して魔法の生成の妨害となっている為だとされる。
よく見ると、見た目は無傷らしいその木は、今までよりも動きが遅い。周囲に生えている根の動きからも先ほどまで迫力や勢いが感じられない、ただの置物とも思えた。
クロッカスの放った魔法は無駄かと思ったが、そうではなかった。ちゃんと影響が出ている。確実に弱体化している。ヤツが持つ魔法腺もどきは、言ってしまえばヤツの生命線そのものだ。オレらが魔法腺に影響を与えられても魔法の使用に影響が出るのみだが、ヤツの魔法腺もどきに打撃を与えると本体にもモロに影響が出る。
もしや、さっきカナイが根を退けたのも、魔法腺もどきへ直接何らかの方法で攻撃を与えたからか。カナイはヤツやヤツの持つ魔法腺もどきに関してよく知っているらしい。後でちゃんと話を聞かなくては。
ともかく、弱っている今が好機だ。セヴァティアの状態はここからでは見えないが、多分無事だろう。
まずすべきは、弱点を見つける事だ。あれだけの魔法を受けて弱体化はしても未だ撃破に至ってないとなれば、急所を撃って確実に討ち倒す所までいきたい。魔法腺もどきは見えても、ヤツの弱点らしきものまでは見えなかった。単純に見損ねただけか、他に弱点と言えるものがあるかは判断しかねる。だから、分かるであろう相手に聞いた。
「おい、カナイ。さっきどうやって根を退けた。教えろ。」
「…『核』だ。恐らく奴のどこかに心臓にあたる場所があるはずだ。そこに一撃でも良い、強力なのを叩きこめ。」
言って顎で木の方を指した。カナイの方もまだ核は見つけれてはいないらしく、次の行動を決めかねているとか。オレの目でも未だ核と言われてる場所が見つからない。やはり見損ねているのか?どこかの陰にでも隠れているのか、よく目を凝らした。
だが、その間再び根の攻撃が始まった。本体が弱体化しているため、先ほどと比べて遅く簡単に躱せそうだが、それでも攻撃の手数が多いのは変わらず、数で押されて探す事に集中出来ない。
クロッカスの方は、魔法を使って反動で暫くは相手から離れて避難する事に専念するらしい。同様に根の攻撃を避けて、俺らから離れた場所へと移動していた。いや、十分動けている様に見えるのだが。
さておき、本体の内部に核となる部位がなるとなれば、他にあるとすればどこか。ここから目に入らない場所、核である故に、あまり本体から離れる事はないだろうが、それでも探す範囲は広い。それも根の攻撃を躱しつつだ。難易度が高い。
「クッソ…探し物はよくすれど、その相手が思考の読めない植物もどきじゃ考察も何も無ぇ。」
「いや、植物だからこそある本能からくる特徴的な行動があるはずだ!」
「植物学なんぞ、自分が普段使う分しか覚えてねぇよ。」
食用の山菜やキノコ位しか重点的に調べてこなかったから、他の薬草、特に樹木に関する情報何て本で読んでチラと目にする位しか知らない。今更植物の特徴と言われても、まったく知識らしき知識が湧かない。分かると言えば、日の光を得る為に葉をつける事と、土から栄養を得る為に根を伸ばす事位か。
根を張る、その言葉を思い出してから何かが引っ掛かる感触を感じた。妖精の目で本体である木の他に見たのは本体から伸びる木の根、だがその時見えた木の根以外にも例の魔法腺もどきが伸びているのが見えていた。まだ土の中に出てきていない木の根があるのかと考えて、それ以上は出てきた時にでも対処を考えようと思っていた位だった。
まさかと思い、妖精の目で再び見た土の中、木の根は蔓延るそんな悍ましい空間の奥深いその場所に、脈動する光のカタマリがあった。
「あった!…ってか深っ!」
やっと見つけた目的の物が地中深い場所にあり、見つけた時の若干の喜びは一瞬で消え失せ、多大な絶望感が湧きあがる。安全地帯に自身の弱点を隠すのは生き物としての性であっても、コレは非常にやりづらい状況だ。
「オイどうすんだよ?まさか今から穴掘りでもすんのか!?」
「そうしたいのは山々だがな、生憎と掘削道具は持っていないからな。ここは私なりの『力技』を使おう。」
余裕ともとれるカナイの態度とセリフに、イヤな予感が出た。実際はどういう感情で出たセリフかは知らないが、何か地中深くにあるものを地上に出す方法があるなら、是非やってもらいたい。だが、そうなった時には必ずオレにはある仕事というか役割が課される。
「『これ』をやるには時間が掛かる。さっきクロッカスの詠唱の時間稼ぎした時の様に、お前には囮役をしてもらうぞ。」
ハッキリと囮役をしろと言われた。だが、今この状況で相手の弱点を晒す手段をとるとなれば、相手が黙っているワケがない。妨害は当然起こる。さっきの魔法の詠唱とは状況が違う。相手がさっきとはとる行動も変わるだろう。もう一つ殺気と違うものと言えば、動けるのがオレだけという事だ。
アサガオは非戦闘員なので不参加なのは当然だが、クロッカスの方は言っていた通り、魔法の使用による反動が残っているだろう。今は代わりにアサガオを守ってくれている。そうなればオレが必然的にカナイを守る唯一の立場なワケだ。
自信が無いか、と聞かれれば意地を張ってそんな事はないと答えるだろう。相手が異様で不気味な植物もどきな黒い樹木となれば、その意地も揺らぐ。襲い掛かる木の根の数は相変わらず多い。だが、もう言っているヒマは無い。サッサと状況を打破するために、ありがたく囮役を担ってやる。




