32話 魔法で対処
再び木は根を伸ばし、オレに攻撃をしてくる。槍の様に先の尖った根が、手練れの槍使いの様な動きでオレを追い、突き立てようと根を地面に刺したり、空を突いたりしている。
それも1本だけではなく2本3本と増えていき、今は5本も相手にしている。このままだと襲ってくる根の数が増えかねない。
しかしどうすれば良いのか。本体を叩けば良い事だが現状全くの無策だ。カナイも苛立ちを見せている。
見た目は完全な木だ。さっき見た通りの黒々とした幹の色に、幹に反して神々しく輝く葉っぱは健在で、不気味な雰囲気の他には異変は無い。
普通の植物では無いならばとオレは、自身の持つ妖精の目で注意深く観察した。先程は他の木が邪魔をして見えなかったが、ある事に気付けた。ソレは、妖精の目で見ると黒い木が透けて見え、中に体中を巡る血の筋の様に光る線がある事だ。
アレには見覚えがあった。生き物なら何者も持つ『魔法腺』だ。空気中を漂う魔法の素を体内に取り込み、ソレを魔法へと昇華し顕現させるための見えない器官と言われているものだ。動物だけでなく、未発達ではあるが子どもであるアサガオももちろん有している。
唯一『魔法腺』を持たない生き物がいるとするなら、ソレは『植物』だ。植物は生き物であっても確固たる意志を持たないため、魔法を使うという行為が出来ない。
水や空気と同様に少量の魔法の素を取り込みはしても、貯め込んでそのままだ。取り込んだ魔法の素が多ければ、ソレが変異し魔法祝物になるのだが、詳しい事は割愛だ。
つまり、植物が待たないハズの魔法腺を持つあの木は、本当にただの木では無いという事が確定した。生態が謎過ぎる。
よく見れば魔法腺らしきものは地中にまで伸び、その先にあったのはオレらを囲うあの木の根だ。あの木がここいらの全ての根を持ち主なのは間違いないか。木から根が伸びている様に、あの魔法腺もどきも木と根と同様に繋がっている。しかし、繋がっていたとしてあの魔法腺もどきにどういった働きがあるのか、不明で恐ろしい。
再び根からの猛攻が襲う。手練れであるはずの土地守二人も、相手が生き物とは少し違う存在であるためか、手こずって見える。
「クロッカス!そろそろお得意の魔法が使えるようになっているはずじゃないか!?」
持っている剣でオレとカナイは根の攻撃を凌いでいる最中、カナイは後方で武器ではなくただ動く事で根の攻撃を躱しているクロッカスに怒鳴るように問いかけた。確かに、例の結界を解く際に反動で周囲で暫く魔法が使えない、と言っていた。あれから時間が経ったからそろそろ問題無く魔法が使えるはずだが?
「いやぁ…もう使えるっちゃあ使えるけど、皆もまとめてぶっ飛んじゃうよ?」
今サラリととんでもない事を言い放ったが、クロッカスの魔法は確かに強力だ。というのはカナイからの話を聞いただけで情報で、実際の魔法の効果や威力に関してはオレは知らない。そんな中、当の本人から皆がぶっ飛ぶ、なんて発言が出て正直驚いた。一体どれだけの効果の魔法が使えるのか、見たいと思う反面、恐怖心も出て来る。
「気にするな!シュロがお前の魔法を一度受けた位で膝を突く様に鍛えられていないさ!アサガオには私がいるし、問題は無い!」
カナイが更にとんでもない事を言い放った。オレらならどんな破壊力のある魔法が発動しても対処出来る、なんて無茶な事を言い出した。今もこちらに目配せをして無理やり同意させようとする意志を感じた。最早こちらの意見は受け入れない様子だ。
だが、今はあの根の攻撃を躱すか防ぐかで精一杯の身だ。いち早く倒す事が出来るのであれば、是非やってほしい所だ。クロッカスも魔法の使用を許可されて既に詠唱に取り掛かっていた。
詠唱中のクロッカスの周囲で、魔法の力の増幅が肌にも感じたが、ソレが今まで魔法の力の流れとは違い、荒々しくオレの体まで物理的に引き寄せられそうな気分だ。更にどこからか暑苦しさまで感じてきた。そういえばクロッカスは火属性の魔法使いだったか。遠く離れているワケではないが、そんなに近いワケでもないのにこの熱さ。一体どんな光景が出来上がるのだろうか。
「幾百もの光、幾千もの輝き、滾る大熱を、猛炎を、今命じし我が掌中へと集い穹へと突貫すべし。」
今まで聞いた詠唱よりも長く、それ故か悠長している様に見え、今のこの状況とのかみ合わなさに焦る気持ちが湧くが、同時に相手がクロッカスという土地守の一人である事から感じる信用の様な強い感情もある。しかし、唱える詠唱はまだ続いている、長い詠唱だ。つまりそれだけ強い魔法なのだろう。
詠唱は魔法の形を言葉で可視化したもの。ソレを対象に伝え、自身が魔法の形を想像すると同時に相手にも魔法の形を想像させるのが詠唱の役割だ。長ければ長い程、言葉に込める魔法の意味も強力に、具体的で大きなものとなる。
だが、強い魔法を使うために長い詠唱を唱えれば、当然隙が生まれる。現にこうして無防備に立っている。魔法を使わなくても体術で対応出来たとしても、詠唱を唱える間は術者は皆こうして弱点を晒す事になる。その時動くのがオレらだ。
クロッカスが詠唱を唱えている最中にも当然襲い掛かって来る木の根の攻撃、速さもさっきよりも速くなっているから、相手もクロッカスが使おうとしている『もの』の脅威に感づいたのだろう。オレとカナイではなく、クロッカスに攻撃が集中している。だが、攻撃がどこに向かっているか分かりやすくなって、動きの先読みが出来る。クロッカスに今まさに突き刺さろうとしていた根をカナイの剣が遮り、いなしていく。オレも対抗する様にクロッカスに襲い掛かる根を剣で防いだ。やっぱりさっきよもの攻撃の重みが違う。相当強くなっている。
しかし、その木の根の猛攻を防ぎ切り、クロッカスの詠唱もいよいよ終わりに差し掛かっている。あの長い詠唱を唱えたからか、その最中にも感じたクロッカスを取り巻く魔法の力も強く、圧し出されそうなものが全身に感じる。
何より、今視認出来る光景で一番変化があるのは、クロッカスが唱えていた中掲げていた手には、激しく燃え上がる炎、その炎が形を変えてまるで巨大な矢か槍の様に見える。
「回禄よ、その熱を持って邪な躰を貫け!」
言い終える直前に魔法で生じた燃える槍を持つ腕を背の方まで逸ら様にして構え、言い終えた直後に勢いよく腕を前方に向けて振り、槍を目の前の黒い木の方に投擲し、炎を散らしながら槍が宙を飛んだ。その勢いは風圧と共に熱が顔や胸、腹を服を通して伝わり、とても目を逸らさずに槍が飛ぶ様を見る事が出来ないほどだ。正しくクロッカス自身が言った、皆が吹っ飛ぶと言っていたのが比喩の様で比喩では済まされない光景だ。
カナイは半身でアサガオを隠し守っているのが視界の端に見えた。オレ自身、魔法の力に耐性のある性質ではあるが、ソレを軽く飛び越え、当たっていないのに力による損傷を簡単に受ける気がした。
周りの木々はどうか?普通の植物は意思も無く茫然と魔法の力の影響を受けて、少し焦げ付いているだろう。だが、あの明らかに意思を持つ黒く異様な木はどうか。あれだけ強大な魔法の力が今自身を貫こうとしている状況に、どう応えるか。
視て分かった。動かない。もうどうしようも無くて諦めた故か、それとも真正面から受けて耐えれる自身故か、言葉を持たない木の姿をしたソレの表情なんて分かるハズが無い。魔法が命中し、その結果勢いよく燃える光景を目にしながらただ立ち尽くすオレの経験不足の頭では、ソレ以上考える事は出来ない。




