25話 邸宅で会合
「待たせてしまい、申し訳ない。久しいな、カナイよ。シュロも元気そうだな。」
オレらと向かい合って座り、そう言ってどこか恭しさが感じられる空気を纏い、領主であるカダフスは挨拶をした。皆がカダフスを見ると目線を上げ、見上げる姿勢になる。それも当然で、相手は高い天井に頭をつけそうな程の竜族だからだ。
頭から2本の角を生やし、体の表面は鉄色の鱗で覆われ、見た目は2本の短い手足に3本の爪を持つ爬虫類だ。
だが、鋭いハズの目つきからは穏やかさが、佇まいや口調からは気品を感じ、もしヒトであったら優美な老紳士だっただろうと思わせた。
カナイも相手が領主であるから当然だが、いつものざっくばらんな態度を隠し、真摯な態度で挨拶をした。レンの方も騎士団の名を出し、王からの命で来たと強調して、先ほどまでのヒトを小バカにして微笑した表情は無く、どこか冷めた表情をしていたが、オレにはソレが無感情で無表情にも見えた。アイツは自分では無い別の存在を示す時、よくこうなる。
「洞窟小鬼の出没の話は私も悩んでおります。この土地自体は乏しくはありますが、ものの質は自慢です。そしてこのまちにはあらゆる土地から商品が集まるので、当然傭兵や護衛といった戦い慣れた者を雇っています。
しかし、丁度行商の護衛で手が足りず、突然の襲撃でこちらも混乱状態が続いています。新たに傭兵を雇う事は考えましたが、まさか先に騎士団の方が来るとは思いませんでした。」
「こちらから輸出される物資は王都でも大変好評です。更にここに集まる商品の中には、王都からの輸出品もある。小鬼によって商人並びに商品さえも駄目にされてはこちらも、そちら側にとっても仕事に支障をきたします。」
その土地の土地守と協力を仰げば、更に解決も早くなるだろう。というのが騎士団側の意見だとか。なるほど、オレには騎士団側が示した目的以外に思惑はあるかどうかは知らないが、一応互いに助力し合って今ある友好的な関係を確認しあおうという事だろうか。
そこはオレの上司であるカナイに判断を任せるが、もしそれに伴って同行する相手がレンなのだろしたら、オレはそう指示した騎士団を恨む。レンは元守仕だった故にカナイらと面識があるという事で選ばれたんだろうが、出来れば別のヤツに来てほしかった。
そんなオレの心境を知らずか、アサガオはヒマそうに足を揺らしつつも時折隣に座るレンが相手し、今は大人しくしている。さすがにアサガオには難しい話が続いて苦痛だっただろう。
カダフスもそれに気づき、アサガオを気遣ってか、菓子を持って来させた。それをアサガオの前に出し食べて良いかと聞くアサガオに良いと返事返しアサガオは嬉しそうに菓子を頬張った。
それを見てカナイとカダフスは緩んだ表情をし、あの菓子はどこで入手したのか?など関係無い話をし出した。まだ大事な話は続いているのだから、さすがに緩くなり過ぎだ。
軌道修正すべくワザとらしく咳をし、周囲の空気を一喝してやった。肩を揺らし、カナイも一度咳を鳴らしてから話をし出した。
「それでカダフス殿、貴方からの依頼は、こちらの騎士との共同で洞窟小鬼の討伐ですか?」
確認としてカナイはカダフスに聞くと、どうやら違う様だ。正確には洞窟に赴き、調査してほしいとの事だ。
「今まで川の土地守であるクロッカスさんの結界によってまちは洞窟小鬼の脅威から守られていました。それが何故急に洞窟小鬼が洞窟から出てきたのか。何かクロッカスさんの身に遭ったのか?それを確かめてほしいのです。」
それはオレらはこれからしようとした目的そのものでもあった。カダフスもオレらがこのまちに訪れた理由に関してもカナイから事前に交信魔法か手紙などで知っているハズだろう。
山の土地守であるセヴァティアが行方不明の状態になっている事や、謎の暴走による動物らの襲撃自体は知られていないが、もし知られて他のまちに話が広がれば、混乱も広がりかねない。
改めてカダフスからの依頼として赴いたとなれば、土地守のカナイがわざわざ関所を超えてこのまちに来た事に、他の住民が不安を感じる事は少なくとも軽減されるだろう。
「何か不足があれば此方で用意しますし、出来得る限りの助力は致します。」
「ありがとう。これから準備に取り掛かるから、必要になったらすぐに言おう。」
そう言い、再び挨拶を交わしてカナイと一緒にレンもすぐさま立ち上がり、オレも続いて席を立った。アサガオは周りが立ったのを見てから急いで椅子から降りた。
早々に部屋を出ようとしたところで、カダフスに声を掛けられた。正直無視したかったが、カナイに睨まれ仕方なく振り向いて返事をした。
「久しぶりだな、シュロ。最後の会ったのは、何時だったか。」
「…ひと月に一度手紙が来たから、そんなに久しぶりって気はしないが。」
自分でも分かる位素っ気ない返事をしたと思う。そんなオレにカダフスは気にもしてない様子で、先ほどと変わらずこちらを気に掛ける言葉をオレに掛けた。カナイの紹介で一時期世話になった事があるが、会ったその日からその扱いをされて変な気分になる。
「つうか、もしかしなくても宿屋の支払い云々の話って、まさかカダフスの差し金か?」
オレの考えを聞いて、カダフスは何故か誇らしげに笑い、強く同意の言葉を言った。オレらがこのまちに寄るとカナイからの交信魔法を受け、ならばと思って休憩場所を提供したのだとか。カナイはお礼をちゃんと言っておけよとオレに言うが、正直礼を言う気は起きないし、むしろ余計な事を、と怒りが込み上げてきた。そしてむずガユい。
「なんでもかんでも世話を焼こうとしないでくんねぇか!?何か居てもたってもいられなくて本当に会う度体が痒くなってしんどいんだが!?」
「まぁまぁ、そう言うな。しかし、あれからお前も丸くなったなぁ。」
「しんみりと言うの止めてくんね!?」
会話を続ける度にこっちがツラい目に遭っている気がして、今すぐこの場から立ち去りたくて仕方ない。カナイはさっきからこっちを見てニヤついてムカつくし、レンも無表情を装っているが、よく見ると口角が上がっている。
全員が全員オレの方を見ていて、更に居た堪れない気持ちになる。
「あれだな。普段からシュロは世話を焼き方だから、世話を焼かれるのに慣れないんだなぁ?」
確かに!とカナイの言った事に同意するカダフスが互いに笑い合っている中、オレは用が無いならサッサと行こうと部屋を後にした。世間話で時間を無駄には出来ない状況だと言うのに、このキツネと竜は呆けてのか?
オレの後に続きアサガオが着いて来て、更に続いてレンも部屋から出てきた。レンは変わらずオレの方を見てはニヤついた顔をしているが、興味を無くしたかの様にアサガオの相手をしだした。あまり見られるのは好きじゃないし、相手が相手だからその方が良いが、コレはコレで腹が立つな。
「そういや、騎士団では騎士同時二人組になって行動するって聞いたが、お前の相方はどうした。」
騎士団では、互いに不足な状況に陥らないために常に二人一組で任務に挑むとどこかで聞いた。だが、コイツをこのまちで見かけてから誰かと一緒にいる所をみていない。
コイツが一人でいるのを見た時から片隅で思っていた事を聞いてみたが、ソレにレンはワザとらしい溜息を吐いて掌を見せる仕草をしてから言った。
「オレの相棒殿は、不運な事に怪我を負って動けない状態でな。こうして単身で動かざる状況になった訳だよ。」
「いや、そんな状態でお前一人で行動なんて、騎士団側から許される事なのかよ。」
どんな理由があるにしても、一人で行動するのはコイツの今の上司が許すのは不自然だ。今回の任務が任務だから、コイツは適材適所かもしれないが、さすがに誰か他のヤツを代わりに組ませるとかするのではないか?
「それはあれだ。俺の実力が騎士団の中でも知られていて、隊長方にも認められて単独行動を許したんだろう。」
自画自賛、っと言いたいが、確かにコイツの戦闘能力は高いのは認める。コイツが守仕だった時一度だけ手合わせをしたが、勝つことは出来なかった。今も鍛錬を欠かしていないのであれば、その実力は変わらないだろう。
単独行動に関しては、土地守との同行するという事で、必然的に守仕とも協力する事になるから、それで一応の二人一組になるから許されたのだろうと予想した。そうだとしたら、レンの今の上司である隊長は随分と柔軟な思考をしている事になるが、果たして真相はどうか?
雑談を終えて、洞窟に行くという事で必要な物をまちの店で揃える事にした。本当なら来る前に村で済ませておきたかったが、カナイが現地で準備すれば、ここに来るまでの荷物が少なくて良いとか。カナイの今の容姿ではそもそも荷物を持つ事が出来ず、オレが持つ事になるからその案は良いが、持つ事になった時オレが結局荷物を全て持つ事になるから意味無いのでは?まぁ良いか、諦めた。
騎士団であるレンとは屋敷を出た時点で別れ、集合場所はまちの入り口という事にした。まずは狭く暗い場所での戦闘は避けられないのは当然だろう。明かりは魔法で灯せす事も出来るが、使いっぱなしでは魔法を使うための活力の消費が嵩んで疲労も早く貯まってしまう。嵩張るが松明を用意しておくのが良いだろう。
他にカナイから事前に知らされていた物を購入していき、自分の使う武器も狭い洞窟内でも扱える短めの剣を用意した。ある程度道具を揃えた所でカナイから交信魔法を受けた。
「言った物は揃ったか?」
「あぁ、言われたものは揃えた。って結局オレ一人でやっちまったじゃねぇか。」
カナイはどうやら今屋敷を出た所だとか。つまりそれまでカダフスと話をしてオレに仕事を任せたという事か。大事な話をしていたとしても、ソレを口実に準備をサボられたみたいで怒りがこみ上げる。カナイ自身はサボっていないと弁明するが、信用出来ないので聞き流して。
準備も整ったので、レンとの待ち合わせ場所へと向かって歩いた。向かう途中あちらこちらに騎士団の者達が見回りをしていたり、これからまちの外に出るであろう商人に数名の騎士団員が付き添っていたりと、どこもかしくも洞窟小鬼を警戒しているのが目についた。
それも当然だ。一般人からしたらカナイの森に棲む小鬼だって十分脅威になるし、非戦闘員ならどんな相手だって戦う事は難しい。住民らや騎士団一同が緊迫した空気を纏うのは生きていく上で当たり前と言える。
しかし、そんな雰囲気をいつまでも続けさせるワケにはいかない。早く洞窟に赴いてクロッカスの元に行かねばならない。ただでさえ森の土地守であるカナイが森を離れ、自ら他の土地守の守る地に来たワケだした。
オレは当初森に残っていた方が村のヤツらも他の所のヤツも安心するのではないか?と聞いたが、カナイ曰く土地守として、村やまちの住民はもちろん、同じ土地守の仲間を支えるのも土地守の務めと言って残る事を拒否した。
無理がある言い分を思ったが、他の土地守が何か遭った時、どうにか出来るのも同じ土地守だから仕方ないと言えるか。
待ち合わせ場所には、既にレンが腕を組んでヒマそうにして立っていた。オレらが来た事に気付くと、無表情だった表情に感情が宿り、いつものヒトを見下す笑みを浮かべた。
「おやおや?随分待たされたと思ったが、見た感じそれ程荷物を持っている様子ではないな。一体何に時間をとられていたのやら。」
「普通に買い物してただけだよ。お前がせっかちなだけだろ。」
確かに今の手荷物は洞窟に赴くにしては少なく見えるが、あまり手荷物が多くても困ると、ある程度の荷物はオレの収納魔法に納めているからだ。オレが収納魔法を使える事は元守仕であるレンは当然知っているし、手荷物を魔法で少なく出来るという事だってレンはわかっている。つまりこのレンの語り掛けはワザとだ。
態々オレに話し掛け、からかう為だけにワザと疑問を投げかけ、反応を見ているのだろう。
「おやっ悠長にしていられないとそっちが言っていたはずだが、聞き間違いでもしたか?」
「こっちは悠長にしているワケじゃ…ハァ、もう良い。」
言い返してもまた何か言われ返してくるとわかっているから、この会話はここで区切る事にした。話を無理やり終えてレンつまらなさそうな顔をして肩をすくめた。レンの態度に腹を立てつつカナイとも合流し、レンの方も用意出来ているのならと、出立し歩き出した。




