23話 出口で油断する
結局川クジラとは何か。カナイの説明によるとここよりも広く深い河に棲んでいて、滅多に姿を現さず影だけが目撃される事多い。つまりヒトを襲う事が無い大人しい水棲生物だという事だ。つまり今回も例の謎の力によって暴走していたという事だろう。予想はしていたが、原因だろうあの枯れた木の根は水に沈んでしまっているだろう。
ちなみに火と言うか熱が弱点らしく、オレにあの木の実を燃やし爆発を起こす提案をしたのもその情報を知っていたからだと言う。
それと爆発と表してはいるものの実際は大きな火花程度で、大きな生き物を倒すほどの威力も無く、軽い火傷を負わせるので精いっぱいだ。それを川クジラはひどく敏感で、少しの熱でも驚いてしまう程で、木の実五個でのあの大きな火花を見たら、そりゃあ気絶もするだろう、との事だ。
そんな風に簡単に気絶させられた川クジラとの戦闘さえ避けて、カナイが急いでこの場を離れる事を提案したのも、その川クジラに警戒してでの事だと言う。
「あのクジラ、身を守るために表面が硬くてな。恐らくだがお前の剣も通らなかっただろう。」
聞いていて確かに危なかったと思う。収納魔法で防御力のある相手にために槌に装備を替えるという手もあったが、正直槌は未だ使い慣れていない。しかも相手は水中にいるから戦いづらかっただろうし、相手にしていたら最悪長期戦となっていたと思う。
何よりその体の硬さで突進を喰らっていたら相当のダメージを負っていただろう。あの壊された石橋がその威力を物語っている。カナイが焦るのもわかる。
オレもいくつか魔法を使えるが、ファイパの火魔法の様に攻撃力のあるものを会得していないし、カナイは魔法を使えないし、先ほど動きを止める術も連発は出来ないと言っていた。こう言ってはあれだが、アサガオがあの木の実を持っていて助かった。
気絶していた川クジラは正気に戻るとどこかへと泳いで行ってしまった。この辺りの棲息ではないらしいし、無事巣に帰れることを祈る事にした。
橋での騒動は治まったし、先を急ぐ事を思い出してこの林を抜けるため急ぎ歩いた。走ったらアサガオを置いて行ってしまうし、いちいち抱きかかえて行くワケにはいかない。
アサガオはまだ怒っている様だが、さっきより治まっているらしく、表情は不機嫌そうだがカナイの言葉にポツリポツリと返事をしている。
オレ自身も一度謝りはしたものの、どうも締りが悪いから今度何か代わりのものでもやろうかと思考していると、アサガオの方から裾を引いて呼んできた。
「なんだ?…あぁ、あの実はさっきの川にいた大きな生き物を倒すために使ったんだ。悪かったな…ん?」
あの実を何に使ったのかとアサガオが聞いてきたから、アサガオにわかる様に要約して説明すると、次に役に立てたかと聞
いてきた。実際あの実のおかげで戦闘は避けれたから、役に立ったと言うと、本当かと何度も聞いてきた。
アサガオのこういった問いかけはよくある事だから満足するまで肯定してやったら、3回程で納得したと言うか満足したと
言うか、頬を薄紅色に染めて満足気に笑った。
「おっシュロもアサガオに許されたか?」
「…むしろアンタの方はちゃんと許されてんのか?」
「うっせぇ!今度好きなもの食べさせてやるって約束したんだもん!」
だもんじゃねぇよ。情けねぇ声出すなよ。それより、川クジラの件も今回の土地守不在が関係してるって考えて良いんだな
?いくらなんでも異常が起き過ぎだ。コレ以上異変が起きる様なら説明を先延ばしするのは感心しない。
「すまん、今回は本当に待ってほしい。」
「この期に及んでまだそう言うのか?一体アンタらに何があるってんだよ。」
「…本当に…すまない。」
さっきから俯いて声もだんだんと小さくなっている。もしや今カナイの身に異変が起きているのか?少し焦り気
味にカナイの様子を伺う。
「オイ、どうした?さすがにそんな状態で何も無いは通じねぇぞ。」
カナイの様子が様子なだけに、今度は冗談も許さないとキツく言った。オレの言葉を聞いて俯いたカナイが更に暗めの雰囲気になり、声すら出さなくなった。《
「…もうだめだ。」
「お…オイ?」
黙っていたと思ったら、何か深刻な表情で危なそうな台詞を吐いたカナイに並々ならぬ気配を感じ、思わず後ろに一歩下がった。まだ何か喋っている様だからあえて黙った。
「…もう…我慢出来ん!早くしないと漏れる!」
「…なんだって?」
詳細を聞こうとしたが、言って直ぐにカナイが林の出口へと一目散に走って行ってしまった。あの様子だとオレの予想は当たっているだろう。当たってもまったく嬉しくないが、とにかく追いかけないと置いて行かれる。
「出掛ける前に済ませておけよ、ソレくらい!」
「急を要すると自分で言った手前、私用で時間をとっては申し訳ないと思ったんだ!」
「そうして今こんな状態になってんじゃ世話無ぇだろ!やっぱアンタ、アホだ!」
「何おう!…あっ本当にやばい、シュロお前私抱えて走れ!」
「アサ一人で精一杯だ!自力で走れ!」
一人を抱え、一人と一頭が疾走しつつ漫才する異様な光景を繰り広げながら、林を抜け、その先にある川辺のまちを目指しただただ走った。
ハッキリ言えば格好悪いが、どこかそんな光景に可笑しさや憂いを感じるよりもどこか穏やかに達観していた。そんな心境に陥るとは、オレも重症だな。
一方、関所にて。
「そういえば、さっき横入りして来たきつねって、あれもしかして土地守さま?」
「あぁ、兵士さんがそう言ってたの聞こえたな。」
「ふーん…土地守さまもそういう事するのかぁ。幻滅ってよりは、俺らと同じって親近感湧くな。」
「あははっ!確かに…あれ?でもここの土地守って、髪の長いのが二人…まぁ良いか。」
「そういや橋、いつ直るって?」
「あぁ、ちょうど近くに騎士団が来てっつって、今昼過ぎだから夕方前には修理終わるだろうって。」
「早いなぁ!さすが騎士団というか、騎士団の魔法使い様々だなぁ。」
「だな。しかし、土地守さまが関所に来た事と言い、騎士団まで動いてるなんてな。」
「確かにな。何か良くない事でもあったのかねぇ。」




