20話 いつもの場所で会議
オレの運が悪いのは、前から知っていた。
森や山、川などの自然を守る土地守は各々、拠点とする場所が離れており、それ故最低限の魔法を会得している。それはもちろん交信魔法で連携をとり、互いの安否を確認するためだ。
そもそも戦闘能力が高く実力を持つ土地守ばかりだから、そこまでして心配する事は無いかもしれないのだが、それでももしもの時を考えての処置だった。
そして現に、そのもしもは起こった。
西の大陸の北に位置する山を拠点とする土地守のセヴァティアとの連絡が途絶え、同じ土地で土地守であるカナイは当然、この事態を重く見ている。
一応カナイの方からセヴァティアに対して交信魔法を使ってはみたものの、反応がまったく無く、魔法の力が途中で切られる様にして反応が返ってこないとか。なんだそれは。
「しかし、アイツが不慣れな魔法を使ってまで瞑想の場を封印する様な真似をするなんて、何があったんだ?」
山での事を大まかに伝え、これからどうするかをオレはカナイに聞いた。カナイは随分と悩み、何よりセヴァティアが張ったであろう結界が何を目的として使われているのかが気になる様子だ。
「…『コレ』、クーディには言ってないんだけどよ。」
うん?とカナイはオレの言葉に反応し聞く姿勢になった。
あの時あの場でクーディにも言わなかった事、ソレは結界に関してだ。確かにあの結界はセヴァティアの力によるものだ。妖精の目で何度も確認したから間違いない。そして、オレが気になったのは『力の働く向き』だ。
妖精の目で結界を見ると、川の水が流れる時の動く方向や火が燃えて煙が上に向かって昇る様に、力が働く時決められた方向に向かう。
結界から感じる魔法の力もまた動いていた。その動きはオレとクーディがいる方に向かっていた。つまり、あの結界の守る力は山の外へと向かっている事になる。それだけなら結界の力の働きとして不思議ではない。だが問題は張られた結界の内側、そこからも魔法の力の動きを感じた事だ。
あの結界は『内側にも』向かって働いているのだ。
「つまり、その結界は『中のものを閉じ込める役割がある』と?」
オレが勝手に解釈した仮定をカナイが代わりに口にした。あくまでオレの経験からきた解釈でもあるが、オレの妖精の目に対して信用しているカナイは、話を聞いてからうーんと唸り考え込む。
ちなみにクーディに言わなかった理由は、単にアイツには魔法云々の話は通じないしとオレが判断したからだ。ソレに聞いたとして、物臭のアイツがどうこうしようとしようと思わないだろうし。
「…あいつの事だから、また修行に明け暮れて連絡をし忘れているのかと思ったが、私は随分と慢心していた様だ。」
長く唸っていたカナイがやっと口を開くと、ヒドく沈んだ表情をした。この表情はシュロも滅多には見ない表情だ。そんな雰囲気にオレも気圧され、自分の顔が固くなるのがわかった。
普段からカナイの頓痴気な言動を見ていて、ソレが当たり前だと思っていたから急かす事もせず大人しくカナイの返答を待った。
土地守の一人が消息不明、しかも山の方にも謎の結界が張られて近づけないときた。確かにコレは異常事態だ。
アサガオはこの事態の意味をわかっていないものの、感じるものがあるのかオレの隣でソワソワと体を小刻みに揺らし落ち着かずにいた。
「しかし、アイツが不慣れな魔法を使ってまで山に閉じこもるとは、今度はどんな修行を思いついたのか。」
「いや、その発想に至るのはわかるが今度のは絶対違う。」
オレも同じ事を考えていたにも関わらず、思わずツッコミを入れてしまった。何故かはわからんが、オレの勘というか本能の様なものが訴えてきたというか、よくわからん。
話を戻して、今は結界を解く事に関してカナイから意見が聞きたい。同じ土地守としてソレをどうするか。セヴァティアが慣れない魔法を使ってまで、更にあの結界を張って何かを閉じ込めたとなれば、セヴァティア自身にそれ相応の異変が起きての事なのだろう。
そんな状態で、果たして結界を解くのは最適かどうか考えている。
「いや、解く。」
そんなオレの悩みを一蹴りするかの様に、カナイは矢を放つ様に言い放った。カナイには自信というか確信があるらしく、オレに向けて口角を上げて何やら腕組をしてだした。見ていてちょっとムカついてきた。
「確かに土地守が姿を消した事は異常ではあるが、アイツがピンチに陥る事はまず無いだろう。まぁお前は修行中にしかアイツを見ていないから、そんな面を見る機会は無かったろうがな。」
何やら自慢でもするかの様に語り出した。カナイ曰く、セヴァティアが結界を張ったのは危機的状況などではなく、別の意図があっての事だと考えていると言う。
「仮にセヴァティアが何者かに襲われて、その襲って来た相手にどうしても勝てなかったとする。だとしてもアイツが結界を張って閉じ込めて終わり、なんて事アイツがすると思えんだろう?」
確かに。常に好戦的なセヴァティアの性格を考えると、消極的な行動をとるとはオレも思えない。相手が強敵だとして、その強敵をその場に残して自分は姿を消すなんて、セヴァティアならば絶対にしないハズ。
思い出すのもイヤだったが、防御するよりも攻撃を優先し、攻めて攻めて攻めまくるのがセヴァティアの基本の戦法だ。
結果の中にいるのがセヴァティアが相手にする程の脅威ではないとすると、結界は戦略の一部か何らかの策を講じた過程で結界が必要だから使ったと、カナイは予想してると言いたいのだろう。
「結界の中に何があるにしても、きっとアイツも私達が山に来て結界を見つける事は見越しているだろう。
何よりも先にこちらで迎え撃つ準備をして、セヴァティアと組めば恐れるものなど無い。」
確かに来ると分かっていれば、先に備えた状態で合流すれば例えこちらが勝手に結界を解いたとして何とかなりそうだと思えた。
むしろこちらが行く前にセヴァティアが先に仕留めている可能性だってある。元々今回の事はアイツが連絡を怠ったのもそもそもの原因でもあるし。
それにカナイもオレもセヴァティアが危険に陥っても平気だという根拠がまだあるという。
以前、修行の一環としてセヴァティアとの手合わせをした事が何度かあるが、セヴァティアが剣を抜くところは結局見た事は無い。
理由は聞いた事があるが正直理解出来るものではなかったとだけは覚えている。ともかくセヴァティアは滅多に本気を出さないし、カナイの話を聞いても、もしも本気を出せばどんな相手だってただじゃ済まないとの事。
何ともありえない事だらけなヤツを師範に持ったものだと思っていたが、フと剣と聞いてある事を思い出した。ソレはクーディに会った時に預かった荷物の中身だ。
「そういや、山でクーディに会った時に預かった荷物、中身剣だったなぁ。」
「…うん、何?」
預かったセヴァティアの剣を受け取り、呆れた様子でセヴァティアを思い浮かべて神妙な面持ちをしつつ大きな溜息を吐いた。
「あ…んの馬鹿ものが!大事な武器無しで何してんだ本当に!」
思い切り溜め込んだ感情を吐きだす様にカナイは怒りを露わにした。完全に油断したところにオレが提示した情報が叶いにとんでもない衝撃を与えてしまったらしい。
「あー…さすがに丸腰はヤバいか。」
「ヤバいどころか、あいつ素手で戦った事無いんじゃないか!?」
普段から自身を剣士だ、武器は剣が常識だと言っているだけあって、格闘術を心得ている素振りを見たことが無かった。案の定セヴァティアは格納術を会得しておらず、丸腰になると戦えない可能性が出て来た。
セヴァティアに対して高まっていた信用が今になってガタ落ちになった。
「…いや多分大丈夫だ!あいつ、一週間くらい山の中で野営した事あるって言ってたし、多分素手でも恐らく大丈夫だ!…きっと。」
さっきからカナイの言っている事が希望ばかりで何も確定していない。やはり本格的にセヴァティアの捜索をしなくていけないのではないだろうか。
「いや!…うん、大丈夫だ!ちょっと狂ったが予定通り結界は解く!…うん、問題は無い…無いよな?」
「答えハッキリしろよ土地守。」
言葉尻がだんだん弱くなりつつ、結局結界は予定通り解くらしい。まぁ、詳細が分からない以上、オレも一応結界を解くことは同意した。
結局カナイであっても、あのセヴァティアの行方と結界を張った理由は分からない事がわかった。行き先に関してもまったく検討がつかないが、ここは上司であるカナイの意向に従う他ない。
結界の目的を判断する材料はやはり直接自分から動いて探す他無いらしい。そのために結界を解くと決めたのだ。何より、結界を解いた先にセヴァティアの行き先の手掛かりがありかもしれない。あくまで仮定だが。
そうと決まれば、どうやって結界を解くのか、ソレはオレもカナイもとっくに検討がついている。魔法には魔法。専門家に聞くのが手っ取り早い。そしてその専門家は、カナイと同じ土地守だ。
魔法学校の校長かその教師というあるが、あのセヴァティアの魔法だから、何があっても対処が出来そうな同業者に頼る他ない。
「んで、その土地守とは今話せる状態なのか?」
「今交信してみるから、ちょっと待ってろ。」
カナイが連絡をとろうとしている相手、そして今回助けを乞う相手は川の土地守、川守のクロッカスだろう。オレの知る中でもかなり魔法の使い手で、常に魔法の力を体に貯める体質だと聞いている。性格は誰に対しても友好的で、それ故近隣のむらやまちの人々から親しまれている人格者と、他の土地守からも好感を得ている。ある『悪癖』を除いでだが。
その悪癖を除けば、確かに魔法関係の異変や事件解決に助力してくれる人物だろう。今回も恐らく断られる恐れは考えなく
ても良いハズ。なので、実質カナイの連絡待ちである。
少し経って、クロッカスとの交信はどうなったかと思いカナイの方を見たら、明らかにカナイの表情が芳しくない。まさか話を断られてのかと思ったが、交信を切ってこちらを見たカナイが、どこか晴れやかな表情に変わるのを見て断られたのとは違う展開になったのを察した。何故そんな表情に変化するかまったく予想できなくて不安が増す。
「何があったんだよ。断られたとかか?」
「いや、断られなかった。その代わり迎えに来て欲しいと言われた。」
カナイの言葉を最後まで聞いて、一瞬だけ何が聞こえたのかわからなかった。すぐに理解し、またかと思う気持ちと何故そうなったのかという思考に変わって頭が痛くなった。明らかにセヴァティアだけでなく、クロッカスの方でも何かがあったという証じゃないか。
「『今度』はどこで何をすれば良いんだ?」
何かが起こったのであれば仕方ないと諦めた様にカナイに問えば、カナイもオレの心情を察して、まぁまあと宥める様に言いつつオレに今度の仕事内容を説明し始めた。
まず『迎えが欲しい』というクロッカスからの願いだが、どういった経緯で土地守が迎えを欲するのか。
土地守の中にはラサの様に土地守以外の仕事を受け持っているため、安易に他の土地やまちに移動出来ない事があるが、クロッカスは別に別の仕事を受け持っているワケではなく、むしろ川の流れに沿う様に旅をしつつ巡視している。
つまり、クロッカス自身は自由に移動出来るにも関わらず、誰かの迎えを欲しているという事になる。という事はクロッカスはセヴァティア同様に異変が起きたか巻き込まれたか。とにかく動けない状態になっている状態だという事だ。
「何があったのか、聞けたのか?」
「いや、とにかく来てほしいと催促されて、その後すぐに交信が切れた。」
なんじゃそりゃ。理由を言わず、自分から交信を切ったのか?それとも切らざる状況になったか?それを知るにも結局クロッ
カスの要望通りに、会いに行かなければいけない様だ。
「場所は『洞窟』で良いんだな?」
「あぁ、正確にはクロッカスの奴が定めた瞑想の場の奥、洞窟小鬼のナワバリがある階層だそうだ。」
一体どこにいるかと思ったら、とんでもない場所にいやがった。洞窟小鬼はカナイの森でナワバリを張ってる小鬼とは違い、攻撃性が高い上に、他種族の言葉が通じず目に入る同族以外の生物全てを獲物に定め襲う残虐性を持つ。言葉が通じるってだけで森に棲む小鬼共がカワイく見えてくるんだから、その差は歴然だ。
なんでそんな洞窟小鬼の棲む洞窟内に瞑想の場を作ったか、理由は逆でソイツらのナワバリがあるからだ。要は洞窟小鬼共の牽制であり、見張りとして瞑想の場を洞窟の入り口、ナワバリの前に置いたって事だ。
あくまでここまでの説明はカナイ伝いで聞いた事だが、理にかなっているし、実際そのおかげで人里に洞窟小鬼が出没したという話は聞かない。あんだかんだ、クロッカスは正しく土地守として働いているというワケだ。そういう所だけ見たら、カナイよりは土地守『らしい』よな。
「今失礼な事言われた気がしたが、まぁ良い。とにかく早くクロッカスと合流して結界を解かなくてはな。」
カナイの台詞を一部素知らぬ顔をしつつ、後半の部分には同意して早速洞窟のある東のまちを目指す事になった。
アサガオはオレらが難しい話をしている間、ヒマだったのか辺りに生える草やら花を摘んだりしていて、話が終わったのに気づくと、積んだ草花を持ったまま一目散にオレの元に走り寄った。よく見たらエプロンに付いたポケット周りに土汚れがあり、ポケットも若干膨らんでいる。またポケット中に石やら何やらを入れたな。後で言って出させないと。




