19話 結界で足止め
一先ず大鳥の件は片付いた。今は先を急ぎたい。態勢を整えてオレらは山道の先を進んだ。大鳥との戦闘前に見つけた目印の所まで戻り、瞑想の場の前まで来た。
セヴァティアとは見知らぬ仲では無いはずだが、異様な緊張感が張っている気がした。アレもあんなだけど、やはり土地守だからか、その領域独特の雰囲気がオレらを見下ろす様な空気を感じる。
クーディは平気そうな表情ではあるが、内心はオレと同じらしい。手を握ったり開いたりと落ち着きの無い様子が見れた。アサガオはワケもわからず、オレらの後をただ落ち着き無く着いて来ていた。コレはいつもの事か。
ここまで如何に緊張しているかを説明したが、同時にやっとここまで来た、という安堵感もある。あくまで目的地は山頂ではなく山の中腹だから時間は昼前か、そこまで時間は経っていない。だが道中の石小僧や赤銅雷鳥、そして大鳥との戦闘もあってか永い間山の中を彷徨った気分だ。
道中の殺風景とした岩だらけの山道とは異なり、瞑想の場前は木々が妙な程に生えており、緑色の動かない門番が大勢で立っている様にも見える。奥は影になっていて見えない。少し先に進めばセヴァティアが瞑想をする石の舞台があったハズだ。
今クーディと隣り合い、その間の一歩下がった位置にアサガオが立ち、口を開けて立っている木を見上げていた。確かにココに立つ木はカナイの森の木とは少し違う。種類がとかでは無く、明確な事は説明出来ないが恐らく、元々のこの山の空気に影響しているのだろう。ここはそういう場所だ。
先を急ぐと自分で言った矢先だ。早くセヴァティアに会おうとクーディとほぼ同時に足を一歩踏み出した。
同時にぶつかった。
何に、というのはその瞬間にはわからなかった。本当に突然の衝撃で、オレも数秒程無言のまま何かぶつかった拍子に背中から転倒し、空を仰いだ。クーディも同様だった。アサガオはオレらとは一歩後ろにいたために何を逃れたが、オレらが倒れたのを見て仰天したまま、また口を開けて倒れたオレらを見ていた。
「いってぇー!ハナぜってぇつぶれたー!」
「安心しろ、お前の鼻は元から高くないから形状は変わらねぇ。」
クーディに言ってやったら、横っ腹を思いっきり殴られた。言ってはいるが、オレも鼻をぶつけてまだ痛む。クーディからの拳を合図に勢いよく半身を起こし、何処の何にぶつかったかを知るため、目の前を凝視した。
よく見て気づいた、目の前の光景がほんの少しだが歪んで見える。色も若干薄く、向こう側が見えづらい。これは結界魔法が張られている、簡単に言えば堅くて透明な壁が張られている状態だ。
「けっかい?だれだよ、こんな所にそんなの使ってんの。」
「今見てるから待て。」
妖精の目で観察してわかったのは、この結界はかなり雑に術識が組まれている。例えるなら形の合わないパズルのピースを無理やり合わせた様な感じだ。デタラメなのにやたら強固で、大量に魔法の力を注がれて結界を張ったのがわかる。滅茶苦茶なその魔法を見て憤りを感じたそんな状態の結界を見て、オレは既視感を感じた。
以前、ソイツに剣術は使えて魔法は使えないのかと聞いた事があった。そうしたら、魔法の力は持ってはいるが、ちゃんと使い方を習わなかったから、使ったら弱かったり強くなったりとデタラメに発動して、後始末が面倒になるから使わない様にしているという返答が返ってきて呆れたのを覚えてる。
セヴァティアが魔法を使えるというのはその時初めて知ったし、何なら身体強化も魔法の一環なのも知った。ただ本当に出来るのは自身の強化のみ。他は発動したりしなかったり、効果の強弱がかなりデタラメで実用性が皆無だとも自他共に認めている。そんな魔法を発動したところを一度だけ、一回見て記憶するのが苦手なオレでさえその特徴をよく覚えている。だからだろう、この結界がセヴァティアによって張られた魔法だと知る事が出来た。
「セバがこれハったのかよ。んじゃあセバいねぇのか?」
「…らしいな。」
そう言うしかない。何せ道中は一本道で人っ子一人見る事が無かったから。山自体には変化は無く、変化が見られるとしたら先ほど戦った微元素生物や鳥共、そして結界が張られて近づけない瞑想の場だけだ。
鳥共の方はあの大鳥を倒してからは襲ってくる気配は無いし、帰りは大丈夫だろうが、目的地となる場所がこんな状態ではあまり良い気で帰れる気がしない。とは言え、ここはもう引き返す他ないだろう。
「どちらにしろ、この結界をどうにかしないと何もわかんねぇな。」
「んじゃあ、ケッカイの方はシュロにまかせるわ。」
そう言いながら、クーディはオレに持っていた荷物を押し付ける様にして渡してきた。いきなりの事で思わず受け取ってしまったが、コイツ荷物をセヴァティアに渡す仕事を文字通りオレに押し付けやがった。
「セバがいないんじゃ、おれの仕事はまだおわらねぇが、お前がまだセバをさがすってならお前にニモツを持たせれば、そのままセバにわたせれるだろ?」
確かにそうなるが、お前も一緒にセヴァティアを探せば良いのでは、というオレの言葉が出るまえにクーディが言う。
「ほら、おれの上司…と言うかラサさんが待ってるかもだし、他にも仕事のこってるかも?」
「語尾にかも付けてばっかだぞ、かもヤロウ。」
クーディの口から、早々に山を下りたい気持ちが漏れ出ている。オレとしてはイラついたが、実際クーディは土地守であるラサが凄腕の鍛冶師故に仕事の依頼も多く、故に補助をしているクーディの仕事も多くなる。なのでクーディの言い方は悪いが事実なのは確か。そして現状セヴァティアを探すオレが荷物を預かるのも、合っていると言える。
「…わかった。まずはこの結界をどうするかで遅れるだろうが、荷物はオレが預かっておくよ。」
オレの言葉が言い終わる直前に、クーディは受け渡し完了したといった雰囲気になっており、オレの背を向けサッサと下山する姿勢になっていた。普段は気だるげで動きは常に緩慢なのに、そこだけ機敏なのはさすがと言ってしまいたくなる。
そんな中、さっき倒れて強く打った背中をずっとさすっていたアサガオは、クーディが帰ろうとしたを見た瞬間クーディ走り寄り、別れを惜しんでいた。
「おーなんだ?ちびすけ、そんなにおれとの別れがいやかぁ?」
どこか嬉しそうにアサガオの頭をかき回す様に撫でまわし、ちびすけと呼ばれて起こるアサガオは、撫でられる事だけは許容し頬を膨らませた状態で大人しく撫でられている姿はどこか滑稽だがアサガオらしいと安心した。
クーディもそんなアサガオを見て、歯を見せて笑った。アサガオ自身もちびすけと呼ばれるのは気に入らないが。クーディそのものには結構好きだと言ってたし、なんだかんだこの二人は仲が良い。
オレもあれこれ言いつつも、オレもクーディを共同者として強いヤツだとわかっているし、面倒くさがってばかりいるが仕事はキチンと終わらせるヤツだとも知っている。ケンカをよくするが守仕として組む事も多く、互いに知り合っているから動きやすい。誰かが言ってた、ケンカする程の仲ってこういう事なんだろうな。
さて、共同者との別れを惜しみつつも、優先すべき事に思考を傾ける事にする。肝心のセヴァティアが不在どころかその場所に足を踏み入れる事すら出来なかった。まずはそこをどうにかしたい。だが、現状オレにはどうする事も出来ない。なので、一旦は引き返してカナイに報告するしかない。
交信魔法でサッサと伝える事も考えたが、直接話した方が良いを思った。詳細はまだ不明だが、土地守に異常が起こっているかもしれない事態だ。あと個人的に顔を見ないで話すのは正直好きではないし。
「さてと、ここにはもう情報は無いし、とっとと下山すっか。」
あの結界が閉じ込めるための結界だとしたら、時間を掛ければ『どこかにいる』セヴァティアの身が危ういとされる。正直あのセヴァティアの身に危険が迫っても大丈夫な気がするが、ここは心配して急ぐ事にした。じゃねぇとオレが巻き添えを食いそうだし。
「おう、のんびりしてたら日が沈んじまうし、飯も食いっぱぐれちまう。」
「誰よりものんびりするであろうヤツが言うと、説得力無ぇなホント。」
言っても急ぎ足にはならないクーディの背を押す様にして、オレとアサガオはクーディと並んで山道を下り麓を目指した。
あの凶暴化した大鳥を倒したからか、敵意に溢れた山道やその周囲は今では静かになり、途中で見かけた石小僧共はすっかりよく見る臆病な挙動に戻り、オレらの気配に気づくとサッサとどこかの物陰に隠れてしまった。
アサガオが追いかけそうになるのを抑えつつ、結界が張られている場所がある方向をチラ見しつつ下へと歩いた。
「んで、下山途中だっつうにコレで何回目の休憩だオイ?」
「あーあれだよな。山はのぼりよりも下りるときの方がつかれるって言うよな。」
「お前、体力オレよりも有り余ってるの知ってんだかんな!?登りの時よりも物臭出すなよ、こっちは急ぎたいんだが!?」
「アサガオー、何か食いもんもってね?」
「聞け!」
ちなみに、気絶していた大鳥はシュロ達が下山したと同時に意識を取り戻し、ついでなので自分らが負わせた怪我の治療をしてやった。




