14話 傀儡で苦戦
地面に天井、辺りに置かれた岩に今この場に立つオレら。恐らくこの空間にあるもの全てが揺れに反応するであろう衝撃が来た。そして思い出した。ここに入る前、そしてさっきまでも話題にしていたもの。
オレは揺れの衝撃が来た原因があるであろうその方向を見た。まだ照明魔法で照らされ、影が出来ているせいで見えないだろうその場所。そこで確かに何かがあり、何かが動いた。
ソレは人目見てわかるのは大きなヒト型である事。遠目から見ても判断出来る程の大きさをしている。3メートルはあろうソレはこの天井の高い空間でも狭く感じる程で、無機物故に気配は無いがその大きさだけで十分存在感を出している。土を固めて作った様な大きな腕や太く短い土台型の足、胴体は巨大な柱に見える。
そして頭と言える部分だろう上部は口や鼻無い代わりに目の部位に当たる大きな宝石に様な石が顔の真ん中を占拠する様にはめ込まれている。
魔法傀儡は図書室に資料があり読んだ事がある程度で、実物は今まで目にした事が無い。実物の大きさに少々度肝を抜かされた。
そして傀儡の存在を完全認知した瞬間、心の中で本能的な叫び声を上げる。
死の危険。ソレだけが頭を占めた。
咄嗟にファイパの首根っこを引っ掴み、アサガオの腹に腕を回し込み抱きかかえて後ろに跳んだ。次の瞬間来たのは傀儡の大きな腕が先程までオレらが立っていた場所を叩き付ける光景。強い衝撃により地面は揺れ、破片が飛び散り大きな穴が開いた。
アサガオに飛び散る破片が当たらない様に庇う。ファイパは知らん。多分当たって痛みに悶えてる最中だ。見てる余裕無いから予想ではある。
今の一撃をまともに喰らっていたら確実に命は無い。デカい図体にお似合いの攻撃力をしている。だがそのデカい図体のおかげで狭い通路を通れず、今のこの空間からそれ以上先には出て行けない様だ。
だからと言ってこの場にこのままにしておくのも危ない。先ほどの怪力で暴れられてここを崩されでもしたら上はもちろんオレらも生き埋めだ。もう少し傀儡の仕組みをしておけばと後悔した。
「ファイパ動けるな?動けるならとにかく動けよ。オレは助けれねぇかもしれねぇからな。」
「事前の絶望的宣告!?」
ファイパが喚き出したが無視する。今は傀儡の攻撃範囲から出来るだけ離れたい。注視していれば躱せるが、生き物では無い相手と戦うのは小鬼の時とは勝手が違う。
読んだ書物には組み込まれた手順や条件の元動作をすると記載されていたハズ。まずは回避しつつ相手を観察する事に専念する。
アサガオはアサガオは、既に安全であろう場所に避難させた。
思考する間も傀儡はこちらに攻撃を仕掛けて来る。先ほどと同じ攻撃を仕掛け、その攻撃の余波で辺りが揺れる。天井から砂埃や小さな石が少し降ってきたが崩れる心配は今の所は無さそうだ。今の所は。
まだ傀儡の弱点が分からない。近い距離にいるヤツには打撃系の攻撃をするらしいが、他の行動条件を探る余裕は無い。
「ファイパ!今どこにいる!?」
「シュロから見てななめ右前ぇー!」
言われて少し目線を逸らすと確かにいた。オレは次にファイパに向けて言い放った。
「ファイパお前、『アレ』使って攻撃しろ!」
「こわいからやだ!」
即答した。ファイパが前線に出るのを拒否するのは分かっていた事だ。だが今回はそういうワケにはいかない。再びこちらに来る傀儡の攻撃を躱しつつファイパ時抜けて声を張って言った。
「良いか!?お前オレの魔法属性知ってるか!?」
「よっく知ってます!」
「ならわかるな!?魔法関係はお前に任せた!オレが物理で何とかすっから!」
言いたい事はとりあえず言い切ったと思うから、後は動く方に集中する事にした。さっきファイパに言った意味。勉強嫌いのアイツでもわかるハズだ。
各々が持つとされる属性魔法に適した潜在属性というもの。
属性は4つあり、オレはその中の『空』属性だ。簡単に言うと風と雷を操る魔法属性で、補助効果に特化し攻撃の決定打としては弱い。もちろん攻撃力のある魔法もあるが、防御力に特化した相手には効果が無い。
一方のファイパの潜在属性は『火』で攻撃力のある魔法が属性の中では多い。相手が見た目通り防御特化であれど、ファイパに魔法で対処してもらうのが今の所最適だと考えた。
それにファイパには魔法以外にもこの場で最も最適であろう『武器』がある。なので文句を言わずやってもらいたい。
ファイパはまだ怖がっていた。それもそうだ、この状況で怖がらない学生はいない。実戦経験ほぼ無しで知識も不足。危ない状況はオレ任せ。それが当然だ。
今の状況だってオレが受け持つのが最適解となるだろう。しかし今オレ一人ではこの状況を解決出来ないと判断した。今のこの状況こそファイパの方が有利だ。まだ不安要素があるが、それに賭けるしかない。
もう一度ファイパを説得しようと振り返った瞬間、アイツが自分の両頬を両手で叩いた。音が響くほど強く叩いたのか、ファイパの頬が赤く染まった。そして最初、あの探し物の主である生徒から話を聞いていた時と同じ真剣な目つきになり前を見据えた。
「よし!当てれるだけ当てまくるから、シュロ手伝って!」
何時の間にやらやる気に満ちた声、聞いただけでソレが確信出来る。やはりこういう時のファイパは今までと比べて魔法に対する集中力がけた違いだ。
今度は大丈夫だろう。そう思いオレは再び目の前の傀儡の猛攻に集中すべく再び前を見据えた。
傀儡の腕が動く出すのを見計らって跳ぶか走るかを決め、そして動く。正面から剣を当ててもあの丈夫そうな体では小さい傷を付けるのがやっと。それどころか剣が刃こぼれすてしまうかもしれない。ソレも気にしつつオレはまた動いた。
一方ファイパは接近しているオレとは反対に傀儡から距離をとり、今までずっとベルトの後ろに下げていたものを掴み、ベルトから外し傀儡の方へとソレを向けた。片手で持ったソレは小型で筒状の機械仕掛けの塊であり、名前は『魔法銃器』と言ったか。ソレを両手で持って構えた。瞬間傀儡が突然向きを変え、ファイパの方を見た。
どうやら魔法の力を察知する仕掛けが内蔵されていたらしい。急いで傀儡とファイパの間に入ろうとしたが、その前にファイパが動いた。ファイパは横へと倒れるようにして跳んで躱し、機械仕掛けの魔法銃器の出っ張りに指を掛けて仕掛けを動かすと大きな破裂音と共にさっき使った魔法よりも速い速度で魔法が発射された。
そして発射された魔法は的確に傀儡の関節部分であろう場所を射貫き、爆発が起き火花を散らすと傀儡の腕が動きを止めた。
一時的ではあるが機能を停止した様だ。だが油断出来ない。決定的に弱点を突いたならまだしも、あくまで一部分の動きを止めただけだ。すぐさま走ってそこらの岩を踏み台に傀儡に向かって跳び、意味があるかわからないが目の部分に剣の柄の先で強く打った。宝石部分に大きなヒビが入った。途端傀儡がフラついた様子を見せた。どうやら宝石は目の部位としての役割を持っていたらしい。
ファイパも好機と見て再び魔法を放った。今度は魔法銃器ではなく詠唱で発動する火の魔法だ。時間をとれたから強い魔法を発動するための長い詠唱を唱え、傀儡の足元に放った。地面から上に向かって勢いよく炎の壁が発生し傀儡をそのまま火あぶりにした。さっきので感づいたが、傀儡の外装は魔法に弱いらしい。
更に損傷を受け動きが鈍くなっている。だがまだだ。後一歩弱点を突く一撃が欲しい。なにより傀儡はどうすれば完全に動きを止める事が出来る。生き物であれば急所を撃つのが良いが、傀儡の急所が何か未だ分からない。
傀儡の方は攻撃を喰らった上に視界を悪くしたせいか暴れ回って見える。おかげでこの空間もろとも崩しかねない勢いだ。
するとファイパが何かを見つけた、様に見えた。傀儡から目を離さず走りながら何かを捜している。そして目を見開き叫んだ。
「シュロ、後ろ!くぐつの頭の後ろー!」
叫びながらファイパは飛び跳ねながら指した場所をオレも凝視した。
そしてオレも気づいた。傀儡の頭部の後ろ、後頭部辺りに円形の模様が見えた。アレは詠唱の他の魔法発動の一種でもある光る円形の模様で描かれた『魔法陣』だ。これは傀儡に一定の損傷を与えた故か、ファイパが指した部位が怪しい光からは魔法の力が感じ取れた。
目標が定まった。後はひたすら作業をするだけだ。とは言えあれだけ暴れる巨体相手に攻撃を当てるとなれば、接近戦は厳しい。そうなれば、やはりファイパが頼りか。ファイパもそれをわかってかまた手に持った魔法銃器を構えて撃った。だが傀儡が動いた為に狙いが逸れて後少しの所に攻撃が当たった。傀儡には何の変化も無い。
「うわーん!はずしたぁ!」
「落ち着け!当たるまで当てろ!」
無茶苦茶を言ったかもしれないが、正直今オレも少し焦っている。あんなに暴れられたら本当にココが崩れる。そこまで考えて、アサガオの事を思った。
念の為に攻撃やその余波に当たらさそうな場所に隠れる様言ったが、今どうしてる。アサガオがいる場所に目を向けた。アサガオはしゃがみ込み、手を頭にやり目もつぶっていた。傷は負っていないらしい。少し安心してフッとアサガオを頭上に目を向けた。洞窟の天井が衝撃で少し崩れ、大きな破片がアサガオの頭上から落ちて来ていた。当たる。そう確信してしまい、オレは自分の周囲の事を考えず駆けた。
ファイパは次の攻撃の準備を手早く済まし、再び構え放った。内心当たれと、ただそれだけを考えていたと後に言っていた。そしてその時の言葉は現実となった。破裂音がした時には傀儡の後頭部の陣に攻撃が当たり衝撃が音となってオレの耳にも届いた。その衝撃音からほんの少し経って、傀儡は何かに押さえつけられかの様にして動きを止め、全身の力を抜いた態勢となって完全に機能を止めた。
その後すぐに声が聞こえた。ヒトの声に聞こえたが、ソレは傀儡から聞こえた何とも感情のこもっていないヒトの声に似た音だった。
「弱点ニ指定サレタ部位ヘノ攻撃ノ命中ヲ確認。コレヨリ、『魔法の使用による実戦試験』ヲ終了致シマス。」
確かこの傀儡、実戦を想定した試験用に置かれていたヤツだったか?つまりオレらはその試験に合格して、動くを止めたって事か。今までの緊迫とした雰囲気が空気でいっぱいになった布袋から一気に空気を抜いたみたいな気持ちになって、思いっきり地面に座り込んで息を吐いた。
ファイパも攻撃を当てた直後は真っ直ぐと傀儡を見据えて立っていたが、数秒して足が小刻みに震え出し、大量の汗を流しつつ何を言ってるか全くわからない奇声を上げながら膝から崩れ落ちた。
「試験ヲ終了致シマス。試験ヲ終了致シマス。」
それにしても、ファイパの武器のおかげで今回は場を治められた。ファイパの持っている『魔法銃器』と呼ばれる機械仕掛けの発射武器は、相変わらず仕組みはわからないが威力は高い。
機械仕掛けの銃器というのは本来ファイパくらいの細腕では扱えないと聞くが、魔法銃器は仕様が違うらしく、何かしらの仕組みでファイパくらいの身体能力の持ち主でも扱いやすく簡単に魔法の力がこもった弾という物を発射されるらしい。
ファイパの方がその辺を詳しく説明出来るだろうが、今アイツは放心状態でまともに喋れないだろう。
「試験ヲ終了致シマス。試験ヲ終了致シマス。」
考えてから自分の懐の熱を感じて、今やっと自分がアサガオに岩が当たりそうなのを見て、急いで駆け出しアサガオを抱きしめて岩から回避した事を思い出した。抱きしめて直ぐに横に動いたおかげでオレにももちろんアサガオにも当たらず怪我は無い。まぁ少し破片が当たって、今は確認出来ないがオレの額にかすり傷が出来ているだろうが今は良い。
念の為にアサガオに痛む所は無いか確認しようと覗き込んだが、アサガオはオレに力いっぱいしがみ付き離れるどころかオレの声を聞こうとしない。さすがに困ったので、もう大丈夫だと言い聞かせてもアサガオは手の力を緩めない。どうしようかと思考していると、目に涙を貯めてアサガオは顔を上げた。
「試験ヲ終了致シマス。試験ヲ終了致シマス。」
アサガオはオレに痛くないか何度も聞いて来るので痛くないと正直に答えた。その言葉を信じてか、アサガオは手の力は緩めたもののオレからは離れないままだった。まぁ良いかと、態勢を立て直してからファイパの元に行こうとした時、さっきから傀儡の音がずっと聞こえて来る事に思い出した。いつまで鳴るんだあの音、と呆れつつ傀儡に目をやった。
「試験ヲ終了致シマス。試験ヲしゅっ…了イ…タシ…マス。試験…試験シケンヲシュっ了…」
途端に音の様子が可笑しくなる。イヤな予感がする。目を凝らすと傀儡の関節部分で何かが動くのが見えた。影になってよく見えなかったが、ソレが傀儡に入り込んだ様に見えた。
思い出した。そもそもこの傀儡が勝手に動き出した原因は何か。誤作動にしても、結局は傀儡は外から魔法の力を送られてソレを原動に動く仕組みだ。つまり第三者がいなくては勝手に動く事は無い。そしてさっきの傀儡に入り込んだであろう影。
「ファイパ!!立て!離れろ!」
オレはファイパに向けて力いっぱい声を張り上げた。ファイパは疲れと突然の事でオレの言葉を頭に入って来ず混乱して立ち往生してしまっている。その間にも動かないハズの傀儡の体が揺れた。早く動かないと非常にまずい。
オレはアサガオを手だけで制止させてから直ぐに駆け出し、剣を再び構えて傀儡の腕から飛び乗り胴体に向かって走った。今傀儡に入ったであろう場所を思い出し、見定めてから思い切り剣を突き刺した。その時傀儡は既に動き出していて、オレを掴む直前だったのをその後に後ろを振り返って見てから気付いた。
ファイパは顔から血の気が引いて気絶する寸前だったし、アサガオは降りた後にまたオレに力いっぱいしがみ付いて来て色々と大変だった。
剣を突き刺した事で傀儡は今度こそ完全に沈黙。オレが突き刺した場所には見覚えのある枯れた木の根があり、剣はその根っこを貫いていた。




