13話 洞窟で模索
洞窟に入ってから時間は結構経ったハズだが、教師が来る気配は無い。向こうも向こうで何か対策を立てているから下手に動けずにいるのか、それともオレが行ったから大丈夫だろうと世話を押し付けられたか。後者の可能性が高いな。
今オレは先頭を歩いている。最初こそファイパが威勢よく先頭を歩いていたが、結局ビビってオレに先頭を歩くよう言ってきたからだ。コイツ自分から教師の言いつけを破り洞窟に入るという所業をしといて、肝心な所でヘタレなんだよな。ソレは自他ともに認めてはいるが。
洞窟の方だが、実は入る事自体はオレは初めてだから中の構造がまったくわからない。だからファイパに知っているか聞いた。知っているらしいから是非先導してほしいんだが、当人がオレの後ろで縮こまっている状態で役に立たない。一応あっちだこっちだと口で教えられている最中だ。あと服引っ張るな動きづらい。代わりにアサガオが前に出そうなのを手を前に出して抑えてる。やることが多いな。
「中思ったほどジメついてないんだな。」
「何か、外につながってる空洞とかがあってそれで風通りが良いらしいよ?」
確かに、どこからか風が吹いてて少し肌寒くはある。遠くからは水が流れてる音も聞こえるから、水の出口でもあるんだろう。
思いのほか密閉感を感じない。生徒らの訓練所として使われているにしては、出口があちこちにあって入り組んだ感じでちょっと迷いやすい構造をしている気がする。むしろ出口が多く分散している方が非常時に何処からでも出られると考慮したなのだろうか。正確な事は知らないが。
「そういや、お前落とし主からなくし物どこで落としたかって聞いたんだろ?どこなんだよ。」
「あー、ここから1回地下を降りた所、開けた場所で多分落としたって。」
多分、とファイパは付け加えた。心もとないが情報がそれだけならソレを頼るしかない。問題は例の暴走した大型の魔法傀儡だ。彼女が言った場所にはソイツもいる事になる。
だから目的の場所に着いたら物を発見次第早々に立ち去らなければ危ない。さすがに魔法傀儡の相手は特殊過ぎてオレでも対処出来るかわからない。対処方法は教えられてはいるが、実戦経験が無い。
「ファイパ、お前魔法傀儡との実戦経験はあるか?」
聞いてみたが、ファイパも実戦した事が無いと言う。ファイパはこの学校に通う出して結構経つハズだが、実戦経験はまだ数えられる程度らしい。まぁコイツの今までの素行を考えれば経験出来ていないと言うか、させてもらえていないが正しいか。ならば戦いに巻き込まれる前に早く目的の物を見つけるに越した事はない。って言うかオレは探し物その物を知らないんだった。何を探せば良いんだ。
「えっとね、こんなちっこい鈴と三つ葉の形をした宝石みたいなのがひもにくっついてるの。」
特徴を聞いて、定番の装飾品だと思った。どんな由来で大事な物かまでは個人の情報なので詮索はしないでおくか。しかし、物が小さいと探すのが面倒だな。それに傀儡の件もあるから手早く探すにはどうするか。
そんな事を考えていると、ファイパの方から奇妙な悲鳴が聞こえた。見ればファイパの足元に弾力のある透き通った塊があった。
「なんだ?変な声上げて。」
「こっこれ!ふんじゃった!」
当人は塊を踏んだ事に驚き変な顔をしていた。アサガオもファイパが踏んだものが何かジっと見ている。
するとその塊はフルフルと震わせると、ファイパの方へと向かって突如飛びあがった。
「うえぇ!おそってきたぁ!」
ファイパを襲う塊の正体は粘体生物だ。この洞窟に生息している無性生物だと聞いている。粘体生物自体に意思は微量しかなく、今怒っていると思われるものも単純な反射からくるものだろう。
動きも単純だが、先ほどファイパが踏んづけた通り弾力があり、ほとんどの攻撃を弾いてしまう程の柔らかい体を持ち厄介な相手だ。本当は戦闘は避けたかったがそうもいかないらしい。オレは急ぎアサガオを安全な岩陰の方に誘導して隠した。
「粘体生物は倒しても問題無いハズだったな。」
「落ち着いてないでたすけてぇ!」
大して怪我を負っているワケでも無いのに、ファイパは粘体生物相手に怯えて逃げ惑っていた。
生き物の命を奪ってはいけない。それが絶対の掟だが、粘液生物は特殊で核を潰さない限りは倒れない『物体』に近い生き物だ。故に倒しても問題は無い。
とは言え、先ほども述べた様に粘液の体を持った粘液生物を倒すのは多少面倒が掛かる。
ファイパも学校に通っているならば、粘体生物との戦い方を分かっているハズだ。ちゃんと居眠りせずに授業を受けていればだが。
そんな思考をしてる最中でも粘体生物には関係は無く、容赦なくこちらに跳びかかってきた。粘るけのある柔らかい物体だが、勢いをつけて突進されると当然衝撃が体を掛かり、それなりに痛い。そんなのは当然イヤなので体を横に動かし避けた。
ファイパも変な悲鳴を上げながら転びそうな勢いで避けた。オレは避けた態勢から体を捻らせ、短い詠唱を唱えて宙から剣を取出し、握り引っ張り出す勢いのまま鞘から抜き粘体生物を切りつけた。粘体生物は大きな切り口を残した状態で地に伏せ、痙攣の様な動きをしてこちらに再び跳びかかって来る気配をなくした。
「よし、体を再生される前にここから―」
「おぉすげー!今の収納魔法!?詠唱速くて聞き取れなかったけど、めっちゃ使いなれてる感じだったね!」
「うるせぇ、置いてくぞ。」
こちらに感心を向けている場合じゃないと言うのに、このお調子者は。そう呆れつつ逃走しようとしている方向を見て唖然とした。
1匹しかいないと思った粘体生物が壁や天井から大量に湧いて出て来ていた。どうやら騒ぎで引き寄せられて集まって来たらしい。
「うぎゃああ!いっぱい来たぁ!」
1匹でも厄介な相手が群れで襲い掛かって来られると、さすがにオレ一人では対処出来なかっただろう。
さっきから騒がしいファイパには一働きしてもらう。
「とにかくコイツらを倒すにかねぇな。」ファイパを見た。
「えぇ!?こんなにたくさん、さすがに無理じゃない!?」
ファイパはオレの提案に否定の意見を出す。当然の反応だろう。実戦経験のほとんど無い生徒とケンカ慣れしているだけの一応の一般人がどうにか出来る相手じゃない。
以前相手した小鬼も数はいたが、アレとは勝手が違う。意思が弱く反射的に動く粘体生物には話は通じないし怯える事も無いから結局倒す以外に止める方法が無い。
しかファイパだってこうなる事は分かっていたハズだ。つべこべ言う前にとっととやってもらわねばならない。
「お前、得意な魔法の属性は『火』だったな。覚えてる限りで良い、威力だって出さなくても良い。最悪倒せなくても良い。」
「おっ…おう!やる!」
怯んだ様子だったが、言い聞かせたおかげかファイパもやる気になったらしい。今はこの場から離れる為にこの数をどうにかして捌きたい。
最初こそ粘体生物を相手に怯える事の無かったアサガオも、さすがに群れを見て怯えたか、オレにしがみつきほんの少しだけ恐怖が顔に滲み出ていた。
「えーっと、れ?…烈々なる熱、矢の如き速さでもって…放ちて…。」
たどたどしく詠唱を唱えるファイパに粘体生物がいかない様に、オレが防御を張り時間を稼いだ。っと言うかその詠唱の魔法って初級だから詠唱自体短いし覚えやすいものだよな。明らかに唱え慣れてないカンジだが大丈夫だ?
そう思うオレの心配を杞憂であったかの様に魔法は無事に発動した。ファイパの手に大きな火が点り、徐々に球体へと変化。そしてそのまま手を前に突き出すと火の弾が勢いよく放たれ、放たれた火の弾が一体の粘体生物に命中。隣接していた他二体の粘体生物を巻き込む、三体の粘体生物に火の魔法を当て動きを止めた。
「おっしゃあ当たった!しかも一度に減らせたんじゃない!?」
粘体生物数匹倒して大げさにはしゃぐファイパに呆れつつ、確かに魔法1回の発動で数体同時に魔法を当てるのは評価出来た。オレ自身そこまで魔法が得意ではないのだが、オレから見てもファイパの実戦魔法はそこそこ威力があり申し分ないと言える。
ただもう少し詠唱に自信と言うか余裕を持ってほしい。聞いてるだけで危なっかしく思える。
「とりあえず、その調子で魔法を使ってアイツらを蹴散らしとけ。」
「わかったぁ!」
ちょっと語尾が抜けた様に聞こえたが、いつまでもヒトの後ろでびくびくされるよりは動きやすくなった。ファイパの魔法に反射的に逃げようと粘体生物も動きから戦意染みた気配が薄れ、動きが緩慢になってきたところを狙いオレも粘体生物をけ散らすのに加わった。
そうして一匹ずつ確実に粘体生物を撃破していき、周りの粘体生物も火に怯え出して離れていった。そうしてやっと道が開けた所でアサガオを引っ張り突っ走りこの場から脱する。ファイパにはひと声だけ掛けて、気づいたファイパはオレの後に続いて脱出。ようやっと粘体生物の群れから抜け出し戦闘を終えた。
「うひゃあーっ!抜け出せたよ!」
「あぁ…その様だな。」
互いに息を切らしつつ現状を確認し合い、粘体生物の群れから十分距離を取った事も確認した。走って来た後ろを見ても粘体生物が追って来ている気配も、他の生物の気配も無い。一先ず安全な場所まで来れたと一息ついた。
アサガオは手を引っ張ってからはそのまま抱き上げ、オレが抱えた状態で走ってきたから疲れてもいないし当然無傷だ。疲れているオレらを見て心配そうな表情を浮かべてオレやファイパの背中をさすっている。
「ハァ…ったく、探し物しに来ただけなのに初っ端から疲労ハンパ無ぇな。」
愚痴を零しつつ、先行きに不安を感じ正直捜すもの云々がどうでも良くなってきていたが、ファイパはそんな気が更々無くして無いらしくオレとアサガオに向かって鼓舞して来た。
「戦闘がなんとかなったんなら、探しものだって大丈夫!さっ早く行こう!」
さっきまでオレと一緒に息を切らしていた様子はどこへやら。呆れつつもコイツの根性と言うか、根の強さに感心しつつ先に進んでいくファイパを先頭にオレも歩き出した。動き出したオレらを見てアサガオも小走りしつつ後に続く。
さっきまでの粘体生物の群れの襲撃から一転、洞窟の静かな雰囲気が移動中続いた。だが異変の空気は感じた。まだ何かがある、何かが起こる、そんな予感が頭を離れない。
以前小鬼に家を壊されたという理由から小鬼のナワバリ赴き、そこで遭遇した巨体のオオカミと対峙した時のソレ。様子の可笑しかったその姿から一戦闘終えてから落ち着いてからの様子の変わり様。先ほどの粘体生物の好戦的な動きと重なって見えた。
しかし、あの群れからはあの巨体オオカミの様な強い力は感じない、そもそも粘体生物自体が力を持たない生態であるから、もしかしたらアイツらは別の要因の影響で可笑しくなっていたのかもしれない。粘体生物共とは違う、強い力を持った何か、それこそが異変を起こし周りの生物が感化され結果の襲撃かもしれない。だとしたら今の状況の原因は?そこまで考えている最中に、ファイパが到着と声を上げ、思考停止を余儀なくされた。
件の生徒が物をなくしたとされる、天井も高く開けて空間。あちこちに展示物の様に大小様々な大きさ、形の岩が鎮座していた。障害物のある場所での実戦を想定した訓練を行う場所でもあるのだろう。洞窟の中という事も合わさって視界が悪い。火属性の初歩となる照明魔法を使い、手のひらに光る球体を出し辺りを照らしても、岩が壁となり影が出来るばかりだ。ここのどこかに生徒の探し物があるにしても探すのは一苦労だと考えつつファイパを見ると、何かブツブツと言いながら歩いては戻りを繰り返しながら下を見ていた。
「あの子は友だちと話しながら、たしかこっち側…かな?それでこう…。」
言いながら歩き、急に立ち止まり辺りを見渡す。そんなファイパの姿を見てオレは何をしているのか聞こうとすると、突然勢いよく顔を上げ、さっきよりも機敏な動きをし出した。
「んで、話に出てた魔法のくぐつってのに驚いて、こう飛びのいてからにげようと足を出したらここに大きな石がある。」
ファイパの言った通り、逃げるような態勢にし足を逃走経路であろう方向に足を出したすぐ先に大き目の石があった。もしそこで走り出していたら足を石にぶつけ躓く事になるであろう位置だ。ソレをファイパも視野に入れてか躓いた様な態勢をとったと思うと、転倒する事無くそのまま足を進めてまた立ち止まった。そこには先ほどの石よりも大き目な石があり、足を少し曲げれば手を付けれる位ある。その石の周りをファイパは覗き込んだ。そして声を上げた。いきなりだからちょっと引いたが、見たらファイパの手には探し物である小さな鈴と三つ葉の石を細い紐で括った装飾品があった。
「よかったー!傷は…うん、あんまついてないね。」
「…正直見つけれるとは思わなかった。よく見つけたな。」
こうは言ったが、本音を言うとそこまで不思議には思っていない。普段のファイパの素行を見ると、周りはコイツが正確に物事を解決出来るかと問われると答えを言いよどむ事がほとんどだろう。学校前で会ってから今までのやり取りを見ればわかるハズ。とは言うもののコイツが探し物を発見した事は事実で、オレもファイパならオレよりも先に見つけていただろうと予想していた。とりあえず今は無事解決出来た事に安堵しよう。
瞬間、揺れた。ホラ、絶対こうなると思った。




