20話 仲間が散らばる
一方逃げた研究員を追いかけたクレソンは、跳び蹴りの要領で研究員に向かって跳び、思い切り体当たりをぶつけた。床を滑り、摩擦で止まり研究員を下にしてクレソンは起き上がった。
「いきなり飛び出して危ないですよ!怪我じゃ済まなくなります!」
「今あんたに怪我させられたよ!」
クレソンの言葉に反応して起き上がり、研究員は反論をした。それを見たクレソンは元気そうで安心したと言う。額を掠り痛めた研究員はクレソンの反応に呆れ、そのおかげか先程の恐怖心が薄らいだ様子だった。
「それで、さっきの話の続きなんですけど。」
「この状況下でその話ですか!?」
恐怖心が薄らいだ直後に話を続行し出し、更に呆れの表情をした研究員だが、気にせずクレソンは本当に話を続けた。
「あの不定形の物体、と俺らは呼称していますが、その正体は『精霊』で合ってますか?」
言われ、研究員はクレソンが決してふざけていない事を察した。そして研究員が黙った事で、クレソンは自分が言った事が当たっていると確信した。
「やっぱりな。既に存在するものが見える様になった。つまり見えない存在ってのは、通常ヒトには知覚出来ない存在、そんなものはこの世界じゃ数える程しかない。
そして今現在魔法が使えない、正確には不発してしまい、魔法に関係した異常が起きているこの状況下で、関係する見えない存在と言えば、それしかない。」
「…さすが、他部隊とは一線を画す集まりの一人という事ですか。」
クレソンの推理を聞いて、それに納得の表情を浮かべ感心した研究員は、周りを見渡して例の『精霊』が居ない事を確認した。
「先程は取り乱して申し訳ありません。今回の件で判った事をお伝えする為に、どうか着いて来てもらえませんか?お仲間の事は気になる所ですが、今は時間がありません。」
この状況下では、何時までこの場所が保つ分からない。それまでにどうにか情報を伝える為にその情報が整理された部屋へと行かなくてはいけないと研究員は説明した。
それにはクレソンは同意し、カルミアとスズランに関して聞かれ、あっけらかんと答えた。
「カルミアは大丈夫だ。もしかしたら何かの拍子に合流するかもしれないし、その時の為に情報を確保しておきたいです。どうか案内をお願いします。」
クレソンの表情を見て、研究員も意を決して、こちらですと先導し始めた。途中物音が聞こえて跳ね上がり、クレソンに先頭を任せるのはその数秒後の事だった。
一方のカルミアとスズラン。何とかカルミア目線で不定形の物体を撃破し、先に進めれるようになった。しかし、どこへ行けば良いか分からず、クレソン達もどこへ行ってしまったか分からず立ち往生していた。
「ウーン、ドーシヨー。案内板か何かあればイーんだけど、それっぽいのコワされちゃってんだよねぇ。」
カルミアが求めた案内板であっただろう残骸を前にして、カルミアは頭を悩ませ唸るばかりだった。スズランは黙ってカルミアが悩む姿を見ていたが、何かに気付きどこかへと歩いて行ってしまった。
「ウーン…って、スズちゃん!?まってまってアブないよ!?」
スズランがどこかへ行ってしまうのに気付いたカルミアはすぐさまスズランを追った。追った先には、物陰をジッと見ているスズランと、その物陰に隠れる様にして倒れるヒトがいた。
見て気付き、カルミアはその倒れたヒトの元へと駆け寄った。
「ダイジョーブですか!?どっかケガ…してるね!えーっとホータイはっと。」
カルミアが治療に使えるものを探している間、スズランはカルミアの動きに倣い、倒れたヒトに寄り添った。そして傷口に手を当て始めた。
「スズちゃん、何してんの?キズに触ったらそのヒトイタいと思うから、あんま触んない方がイーよ?」
カルミアが言っている事を聞いているのかいないのか、スズランは傷に当てた手を動かさず、何かを考えている様子となってカルミアは思わず黙って見守った。
少ししてからスズランは手を離し、そしてカルミアの方を見た。
「…スズちゃん?」
カルミアはスズランが何かを伝えようとしている事に気付くが、言葉を発しないスズランの心中まで量る事が出来ず悩んだ。すると、スズランは立ち上がり、再びどこかへと向かおうとした。
「あーまってまって!せめてこのヒト、どっか安全な場所で休ませたげよ!?」
言われてスズランは立ち止まってカルミアの方へと振り返った。そして倒れたヒトを支えながら移動し、比較的安全そうな一室に隠す様にして休ませた。
「とりあえず少しは保つかもだけど、もうちょっと何とかしてあげたかったなぁ。クレソンならイー案出せそうだけど。」
今は離れてしまったクレソンを思いつつ、カルミアはスズランが今にもどこかへ行きそうにしているのを思い出し、スズランを見て聞いた。
「スズちゃん、どうかした?どっか気になる事でもあんの?」
聞くと、スズランはどこか虚空を見て、ゆっくりと上げた手の人差し指をその見ている方向へと指した。
「…うん、もしかしてそっちに何かあり?そっち行きたいのね?」
返事をする事も、頷く事もしなかったが、スズランの目はカルミアから目線を逸らす事無く見ていた。その目線をカルミアはスズランなりの同意を捉え、カルミアが代わりの様に頷いた。
「よし!行くべきとこはワかった!じゃあいざ、シュツジン!」
意気揚々に言い、スズランの手を握って引っ張る様な形で二人は研究所内を歩き始めた。
進んで行く度に倒れたヒトを見つけ、そして安全だと思える場所へと匿いつつ先を進んだ。途中不定形の物体との戦闘が何度かあったが、カルミアが応戦し善戦していった。
「それにしても、このぶにょぶにょなの、一体何なんだろうね?…そういえば、さっきその話をしてるトチューだったんだよね。ちゃんと聞いとけばよかったよ。」
話を聞けなかった事に後悔しているカルミアの横で、スズランが口を小さく動かし何かを呟いた。スズランの呟きを耳にし、カルミアはスズランの口元に耳を当てて聞いた。
「…あれは、みな、やどしたばかりで、こんらん、している、だけ。」
か細いスズランの声を聞いたカルミアは後退り、大きな衝撃を受けた表情を見せた。
「すっスズちゃんがしゃべったぁー!…てぇ、もうしゃべってたっけか!?」
驚きで大声をあげ、その声に反応して再び不定形の物体との戦闘となり、その拍子にカルミアはスズランが言った言葉を忘れてしまった。
『ソレ』はもう気付いていた、知っていた。だけど、『ソレ』自身も自覚する事無く、ただ目的の為だけに進む事しか考えずに動いた。
傷に触って感じたものが、とても懐かしく、胸の内が痛むものだと知っていても―




