15話 到着前が難題
東の大陸、山が連なる地方にある山小人の里の奥地。その更に奥へと進む為にカルミアとクレソン、そしてスズランはその奥地へと進む為の道が続く入り口の前に立っていた。
カルミアもクレソンも突入前の準備を済ませ、見た目は来る前と変わらない身軽なものだが、持っている荷物に確かな変化がある。カルミアの腕には来る前には着けていなかった籠手を装備している。この籠手は山小人の長からの餞別と言う形で支給してもらった長直々の贈り物だ。
クレソンの方は欲しかった火薬が購入出来、銃器も手入れされている。それぞれが武器を整え、奥地へと進む状態となっている。
スズランの方か変わらないが、そこは問題無いだろうと二人は判断した。後はスズランを守りつつ奥地へと向かい、雪山の様な場所を見つけ出すだけだ。
「お前らが行くべき場所は、恐らく魔法の力が強い場所。そこまでは道が入り組んでいるから、この地図を見ながら行け。」
そう言って山小人の長から、古びた羊皮紙をもらった。中には洞窟内部の地図が描かれており、羊皮紙自体は古いが、描かれている地図の線はくっきりとしており、十分に見られる状態だ。
「アリガトー…って、長さんあたしたちの行く場所ワカるの!?」
「当たり前だろ。魔法関係の異変とくれば、重要なのは魔法の力が充満した、自然が多く残る場所だ。お前らが魔法異変の話をした時点で、大体の目的は読めた。」
後は本人らが本気で目的を果たそうとしているか、それを確かめる為に話をしてもらい、相手の声色などを量っていたのだと言う。
二人は感心した様な声を上げた。そんな二人は置いといて、長はスズランを見て言った。
「その子が鍵だって言うなら、気を引き締めな。場所が場所だけに、私以外は近寄る事さえ無い神聖な場所であると同時に、何が起こるか分からない危険な場所だからね。」
言われた二人はその通り、気を引き締めた表情と姿勢となり返事を揃えて元気良く言った。スズランは結局一言も発さずにいた。
そして長が手を上げ合図を送り、奥地へと続く扉を開けさせた。長の号令で集められた山小人達が集団となり、両開きの堅い扉を押して、時間を掛けて完全に開き切った。
「スッゴイゲンジューだぁ。」
「使われなくなってから大分経つ坑道だからね。さっき話した事もあって、他の奴らが簡単には行けない仕様にしたのさ。まっ!不用心に道を解放しているよりは良いだろ?」
言われて納得した二人はスズランと共に開かれた入り口の前に立ち、そしてその奥へと歩き出した。後ろからは扉を開けたヒトの他に集まっていた山小人も一緒になり、声援を送った。
「気ぃつけろやー!」
「足元に気ぃつけて進めや!」
まるで既に親しい間柄にでもなったかの様な言葉に、二人は歩きながらも振り返って手を振った。
そんな明るき雰囲気の中三人は洞窟の奥へと進むが、進む先は当然暗く視界が悪い。もらった照明具に火を点け照らすが、それでも視界は狭く歩き辛い。だが、ここに来る前の山道と比べて、三人の足取りはまだ軽いものだった。だが、山道を歩く時よりも軽い筈の道であるにも関わらず、カルミアはスズランの手を握り引いて歩いた。
「何があるかワからないからね!あたしがついててあげるよ!」
すっかり年上気取りとなり、スズランを子どもか年下のキョウダイか何かと思っている様だった。そんな二人の姿をクレソンは微笑ましく見ていた。
そんな長閑そうな一向はさて置き、聞いて話によると過去に行動として使われていた事により多少は道として整備された跡があった。その跡を辿る様にして、持たされた地図を見ながら三人は坑道跡地の先を進んで行った。
坑道跡地は正しく迷路そのものだった。あちこちに穴があり、カルミアが気に成って穴を一つ覗いて見るとそこは行き止まりになっていたり、一つは先が大きな縦穴となっていて先に進めなかったりと、知らずに入れば行き来して歩き回る羽目になり、相当な労力を削る事になっていたと思われる。
地図を見ていたクレソンは坑道だった道を進みながら上をちらりと見て、一度足を止めて方向を変換し右に行ったり左に進んで行く。
カルミアは地図がどのようにして描かれているのか気になり、クレソンが持つ地図を覗き込んで見た。そこには細い線が網目の様に広がり、それぞれの道に数字が書かれていた。
クレソンが見ていた上の方を見れば、穴の高い位置に数字の書かれた板が打ち付けられており、これを頼りに進んでいたのがカルミアにも分かった。
クレソンであれば、数字を見間違える事無く正解の道を進めるだろうとカルミアは思っていた様だが、そう思っていた矢先に突然クレソンの足が止まった。いきなりの停止だった為に歩いていたカルミアはクレソンの背にぶつかり、何があったのか聞こうとクレソンを呼ぶと、クレソンはカルミアたちのいる方へと振り返った。
「…大変だ。道が分からなくなった。」
突然の宣告にカルミアは唖然とした。直ぐ後に反響して耳を傷める程の大声を上げた。
「ナンでナンでナンで!?だって地図あるじゃん!見れば一発でワかるんでしょ!?」
「まぁ見ろ。」
クレソンがそう言って指し示したのは地図、ではなく上の方。数字が書かれた板が打ち付けられているであろう場所だった。しかし、確かに板は打ち付けられていたが、板自体がもうボロボロとなっており、何の数字が書かれていたか判別出来なくなっていた。そして進む先にはいくつもある穴という穴。しかも先はどれも真っ暗で、実際に進んで行かないと分からない状況となっていた。
「…ワからんなぁ。」
「分からんだろう?」
風化した為なのか、実質三人は進む先が分からず坑道跡地で迷子になってしまった。するとカルミアが何かに気付き、スズランの方を見た。スズランはある一点をジッと見て立っていた。
「スズちゃん!あたしたちがどこに行けばイーか指さしてくんない!?」
今にも掴みかかりそうな形相でスズランに詰め寄った。クレソンはスズランに坑道の道順までは分からないだろうと考えていたが、もしかしたらと思い様子を見た。
さすがのスズランもカルミアの勢いに圧されてか一瞬だけ表情が強張ったが、少し間をおいてから手をゆっくりと上げ、本当に行き先を指し示した。
その指した先はある穴と、もう一つの隣合う穴の間だった。しかも少し角度がある事から、上部に目的の場所があると言う事だろう。それを見たカルミアとクレソンは一気に虚無の表情になった。
「…うっうん!でもどこに向かえば良いか一応判ったし、こっち側にある穴を通って行けば良いな!」
「そうだね!あっちにムかって行けばいつかツくね!」
仕方がないとはいえ、スズランのあまりにも大雑把な指さし案内を前向きに捉え、三人は指差した方をひたすらに進もうとした。が、その時に音がした。
何か固いものが転がり、ぶつかる事。そしてその音が徐々に自分らの方へと近付いている気配を察した。何の音か確認する為にカルミアとクレソンは一緒に音のする方へと振り返った。
そこには形容し難い不思議な物体があった。それは岩の様な見た目だが、浮かぶ上がり表面は柔らかくうねり、羽の様な欲しい形状の石が羽ばたく様にして動いている。
そんな見た事も無く、生き物とも呼べないそれにはカルミアもクレソンも見覚えがあった。
「あれ、船でオソってきた粘体生物もどき、だよね?」
「あぁ。見た目は多少違うが、ほぼ同質の生き物、だなぁ?」
生き物、という呼称に違和感を感じつつも、互いに以前襲ってきた不定形の物体と同じものと気付いた。そして今目の前にいるそれらも、自分らに襲い掛かろうとしている事にも気付く。よく見れば暗がりで見えなかったが、奥の方からも多くいる事にも気付いてしまった。
「うわーん!また来たー!」
「泣きたいのは分かる!とにかく出来る限り倒そう!倒せない訳ではないし!」
突然の出現に驚きはしたが、カルミアもクレソンも既に戦闘態勢をとっていた。そして次の瞬間岩の姿をした不定形の物体は滑空する様に三人の方へと飛んできた。クレソンはスズランの両肩を持って支えてながら抱え、スズランと共に横へと動き距離をとった。
一方のカルミアは飛んできた不定家の物体に逆に向かっていき、自身の腕を振るった。カルミアの腕に着けられて籠手に中り、不定形の物体は削られたかの様に損傷を受けた。攻撃が中ってカルミアは息を吹き、拳を突き出し風を切る音を立てながら次の攻撃に備えた。
クレソンも銃器から弾を発射し攻撃した。放たれた弾が不定形の物体に着弾すると、砕けて動きが止まり蒸発する様にして消えていった。
「よしっ船で戦った奴と同じだ!」
攻撃が通り、倒されるのを見て安堵をした。しかしここで長期戦をする気が無い二人はスズランの両脇から腕を通し、持ち上げて先へとその場から逃走した。そんな三人の後を不定形の物体が群れとなって追いかけてきた。
「倒せるって判れば怖くは無いなー!」
「アンシンしてちゃっちゃと行こうねー!」
不定形の物体の群れから無事逃れる事が出来た、そう思った所で走る先に影が見えた。それが今自分らの背後から追って来る群れと同じものであると気付き、勢い余ってそのまま跳んで群れを越えた。
群れは跳び越えられることを想定していなかったのか、群れの動きが途端に狼狽えた様なぎこちない、ちぐはぐな動きをし出した。そしてカルミアとクレソンも狼狽えた。
「跳んだー!?」
「トべちゃったー!?」
スズランを除き、その場に居た全ての生き物、物体は驚きに満たされた。




