14話 許可が下りる
山道を歩いて暫くして、開けた場所に出た。岩をくりぬいた様なその場所の岩壁に大きな穴が開いており、スズランはその前に立って穴の上の方を指さした。
「…この上、みたいだね。次のモクテキ地。」
「うん。…っとなると、やっぱり話して許可をもらわないと。」
二人はスズランが指した目的の場所の覚えがあるらしく、その事で一瞬だが出し渋る表情を見せた。そして目的の場所へ向かう為に、二人は目の前にある大穴に向かって歩いた。
歩いた大穴、洞窟の入り口に入ろうとする所で声を掛けられた。
「誰やお前ら!」
「この先に通りたけたら、身分証を見せんかい!」
声を掛けたのは入り口の横に立っていたヒト二人だ。そのヒトは三人と比べても小柄で、必ず目に入るであろう特徴的な長い髭を生やしている。その二人、山小人が洞窟に入ろうとする不届き者に警戒するのは、二人が門番という位置づけだからだろう。
クレソンは船に乗った時船員に見せたのと同じものを山小人に見せた。それを見た山小人に二人は納得した様で、渋々と三人が洞窟に入るのを許して道を譲った。
「なんや、堅物共の仲間か。そうは見えへんが。」
言われてカルミアとクレソンは納得しなかったのか、前に出てきた。
「いえいえ!俺らは立派な『堅物』の仲間で御座います!」
「ハイ!見ての通りシセーもマッスぐで服もキッチリ着てます!」
さっきまで着崩していた筈の衣装は留め具が上まで全て止められて、皺も伸ばされている。そして口調もワザとらしくですます口調で話して、声が上ずって聞こえた。
そんな二人の姿を見た山小人の二人は、カルミアとクレソンの素性など全て分かり切っているかの様に溜息を吐いて、二人が今言った事を全て素通りして洞窟の先へと誘導した。
洞窟の中は窮屈、という言葉が思いつかない程の広さだ。岩壁の高さはヒトの大人が十人縦に並んでも届かない程で、山の外程転がる岩も無く、ヒトが住んでいる為に整頓されていた。
山に住む山小人は洞窟の中で鉱石を採掘して暮らしている。掘った石を更に掘って、打って物に変えてそれを売る。山小人はそういう種族だ。
そんな山小人の集落であるこの場所に来たのは、偏に山の奥へ進む為だ。三人がいる山岳地帯は山小人の所有する土地であり、特定の場所へ踏み入れるには許可が必要となる。スズランが指差した場所も、その許可が必要となる場所でもあった。
洞窟内の集落を進み、枝別れたした様な道を進むとそこは山小人の住居する空間となっている。洞窟の部屋一つ一つが山小人それぞれの住む家であり、同時に作業場でもある。
山小人の仕事は採掘や鍛冶の他には機械部品の細工作りだったり、細かい作業も沢山する。手先の器用さでは様々な職に就く人間と比べ、金属細工に特に特化していると言える。
そして洞窟のある一画、そこは山小人という種族の長が住んでいるとされる場所だ。目的の場所へ入る許可を長から直々にもらえば簡単であると考えた故だ。そして、山小人の長は山の『土地守』でもあり、今回のカルミアとクレソンの指名の話を聞けば優遇してくれるとも考えた。
山小人の長が住む一画の前、洞窟の通路に扉を直接設置したその場所の前まで来て三人は立ち止まり、クレソンが扉を叩いて挨拶をした。
「失礼します。こちら、山小人の長様の住居と聞いて来ました。長様と是非お話をさせて下さい。」
旅の道中では見た事の無い真面目な口調で話すクレソンをスズランは見つめ、カルミアは体を揺らしつつもクレソンの隣に立ち、クレソンの声の答えを一緒に待った。
答え、と言うよりも代わりの者が扉を開けた。出て来たのは若者だ。肌の色が悪いと見えたのは種族故だと認めで判った。髪は薄花色で白藍色のメッシュが入っている。そしてその種族特有の縦に細い錐状の突起の入った目は不機嫌に見える目つきが訪問者である三人を見た。
「…ラサさんに何の用?」
初対面である筈だが、タメ口で扉を叩いたクレソンに質問をした。声も低くさっきまで眠っていたかのように気だるげでやる気が元気の無い雰囲気のする喋りに聞こえた。
どこかヒトを拒絶している感じにも取られるその人物の態度を気にせず、カルミアとクレソンは扉から出て来た人物に詰め寄った。
「あっどうも初めまして!クレソンっていうんですが、長様は今ご在宅ですか?大事な用事があるので御目通しをお願いっしたいのですが!」
「キミ、もしかして守仕さんですか?初めまして!あたしカルミアって言うの!キミは竜人だよね!あたし竜人初めて見たよ!」
クレソンの方は敬語を使っているが、まくし立てる様に話し、カルミアは完全に相手がタメ口で話した為につられて自身もタメ口を言い世間話をしてしまっていた。
言葉の乱打を受け、相手の方は完全に参った状態になっていた。話をしてはいけない相手に声を掛けてしまった、という心境がありありと見て取れた。
「誰や?客でも来たのか?」
そんな混乱状態の中、相手の背後から話し掛ける人物が出て来た。今一方的にだが話し掛けている相手の背後から声が聞こえた事に二人は驚き、相手の背後を不躾ながらも気になった為覗き込んだ。
そこには明らかに二人よりも背丈が低く、見た目は今この場にいる中で一番若いと思える。赭の色をした赤毛を頭の上で一纏めにした髪型で、ツリ上がった目は人格が強そうな印象を受けた。
衣装は動きやすそうな銀朱の衣を羽織、大股で動いて歩み出て来た。そこからも勝気な印象を感じた。
その勝気そうな人物が薄花色の人物の傍まで来ると、その薄花色の人物の背を思い切り叩いた。その衝撃で薄花色の人物は倒れ込んでしまったが気にせずに勝気そうな人物が声を上げた。
「クラスペディア!自分、客が来たなら来たって先に言わんかい!後何ぼさっと突っ立ってるんや!早うお通しして茶の用意くらいせんかい!」
怒鳴り散らし、クラスペディアなる人物を急き立たせた。そうして叱った後、勝気そうな人物が今度はクレソンとカルミアの方へと歩み寄った。思わず身構えた二人だったが、二人に向けて発せられたのは先程とは打って変わって穏やかなものだった。
「どうもすまなかったね、客なのに何時までも立たせたままで。早く何かに入りな。」
そう言い、部屋の中に向けて誘導する様にして三人を歓迎した。先程のやり取りを見た後だったので、三人は拍子抜けして顔から表情が抜けた様な腑抜けた状態となってしまった。
そうして中に通され、大きな卓と向き合う形で椅子に座り勝気な人物、もとい山小人の長であり土地守であるそのヒトと話し合う事となった。
先程のやり取りを見た影響がまだ残っているのか、カルミアとクレソンはまだ呆けた表情のまま椅子に座っている。スズランは相変わらずの無表情で考えが読めない状態で二人に挟まれる様にして座っていた。
言われた茶を入れて持って来たクラスペディアなる人物は、その場を怱々に離れた。その姿を見て長は呟く様に愚痴を言い、三人の方へと向き直った。
話をする前に、目の前に座る山小人の長はクレソンから受け取った、自称『愛・緑の守護隊』の印であろうものを見てからクレソンに返却し、改めて挨拶を交わした。
「知っているだろうが改めて、私が山小人共とその里を治める長、ライラァ・サラだよ。これも知っているだろうが、この山の土地守でもある。そこの所、宜しくね。」
言われてカルミアとクレソンも自己紹介をした。スズランはカルミアが代わりに紹介した。全く喋らないスズランに長は不信そうな表情をしたが、今は置いておく事にしららしく何も聞く事はしなかった。
「さて、あんたらはあの『堅物』の仲間って事で集落に来たと言うが、何用で来たのかな?武器の滞納なら済ませた筈だが?」
本題を出され、二人も互いに頷いて返事を出した。
「この里、山の上の方に続く道を通させて下さい!」
言われ、長の表情が変わった。
「駄目だ。」
眉を顰めたまま、長は即答をした。その反応に二人は分かっていたという感情と悔しさ、残念だと思う気持ちが表情に出て項垂れた。だが、次に長が口にした言葉に二人は顔を上げる事となる。
「…っと言いたいところだが、『あんたら』が来たって事は、いつもの不躾な調査とは違うんだろう?何が目的でこの上に行きたいのか聞こうか。返事次第では通行許可を出そう。」
聞いた二人は一瞬だけ安堵の笑みを浮かべたが、次には顔を引き締めて事情の説明を始めた。
「昨今、魔法が発動しないという現象が続いていると言う話は知っていますよね?」
「あぁ、人間のまちの方でそんな事が起きてるって話は聞いてるよ。日常的に魔法を使って仕事をしている奴らにとっては厄介な異変だよね。まっ魔法も何も関係の無い山小人にはこれといって問題の無いことだけど。」
確かに山小人は鉱石の採掘に加工、武器生成の仕事が主な生業で魔法関係の職業や生業をする山小人は少ない。今回の魔法に関した異変とは関わりが薄いだろう。
だがやはり魔法を日常的に使う者は多く、山小人の中にも多少は魔法を使う者もいるだろうから、長を始め異変に気付かない者はいないだろう。
「で?その異変とあんたらが山の方に行くのには関係があるって言うのかい?」
「はい。実はその異変を解決するかもしれないものがこの里、集落の先にある筈なんです。そしてこちらにいるスズランが、異変解決の鍵となる人物となります。」
言ってスズランの手で指し示した。聞いていた長は訝しげな表情でスズランを見た。スズランは表情こそ変わらなかったが、見られている事に何かを感じたのか、体を少しだけ仰け反らせていた。
「異変を解決するかも、か。随分と曖昧だが、確かにその子には何か異様なものを感じる。」
「土地守さんもそうオモうんだぁ!やっぱ魔法がツカえる事とカンケーしてるのかなぁ?」
「…魔法?」
カルミアの発言に反応を示し、クレソンも同調する様に口を開いた。
「そうだ、実はスズランは魔法が発動しないという異変の中で魔法を問題無く使う事が出来るんです。本人は魔法酔いで体調悪くしちゃうけど。」
スズランが魔法を使える、という言葉を聞いて、長は口に手を当て考え込んだ。少し時間を掛けて答えを出した。
「分かった、進む事を許可しよう。」
許可と言われカルミアとクレソンは見合って喜び合った。ただし、という言葉が続いたのを聞くと長の方へと向き直り、二田に表情を引き締めた。
「進んだ先でやるべき事を終えたら、私の所にまた来る事。そしてその成果を私に見せろ。」
まるで親が子どもに言いつける様な、厳しい雰囲気が漂うのは変わらないが、声がどこか優しいものに感じた。それは種族を束ねる長故か、理由はさて置き言われた事を守るために二人はすぐさま立ち上がり礼をして準備に取り掛かった。
スズランは一人、する事も無く二人を待つ事となった。そんなスズランに長が話し掛けた。
「…まさかヒトを連れて来るとは思わなかった。良いのか?このまま巻き込んだりして。」
長の言葉にスズランは返事は返さない。だが言われ、何か思う事があるかの様に目を伏せて俯いた。
「まぁあの堅物共はそれが仕事だろうし、私からはこれ以上口出しはしないさ。あんたがこの先どうするかは、あんた自身が決める事だろうし。」
言いたいことを言い終えて、長はスズランから離れた。長自身も仕事があるという事で、二人が準備を済ます間にそちらも色々とやってしまおうと自信の作業場へと戻った。
スズランは結局長に何も言わず、ただ俯いたまま二人を持った。
言われて『ソレ』は初めて考えた。考える事など、『ソレ』にとっては未知であった。確実に何かが変わりつつも、流れは未だ穏やかであった。まるで嵐の前の静けさと言う様に―




