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混迷の元凶

 ――世界はいま、最初の種族である竜族によって創世を迎えている世界創世期。


 世界の《()》であり、竜族の《祖》である《原始(げんし)》の咆哮から始まった創世だが、数多の種族が誕生し、安定した繁栄を迎える時期にはほど遠く、創世期自体も安定とはほど遠い混迷がつづいていた。


 ――そう、混迷。


 本来の姿が自然そのものである竜族にとって、いま、世界を形成する自然は適度な環境であるのだが、他の種族にとってはあまりにも自然濃度が強すぎるため、一度は誕生を迎えても繁栄には至らないこともめずらしくはない。


 ――生命はつねに生死をくり返す。


 これが現状の認識で、これに首をかしげる者はいない。


 ――だが、それを差し引いても混迷と言わざるを得ない元凶がある。


 その最たるが、世界にはいまだ安定した大地……大陸が創成されていないという現状だ。

 これは「(りゅう)五神(ごしん)」と呼ばれる五つの自然元素を司る竜のうち、大地神にあたる主神の《()(がみ)、従神の《()(がみ)の役割が大きく、この二神が大陸を創成しないかぎり生命は誕生する場もないのだが、


 ――どれほど心血を注ぎ、大陸を創成しようと、悉く破壊されてしまうのだ。


 おなじ「竜の五神」である《(すい)(じん)に。

 世界は最初、《空》の天上と《水》の天下に分かれ、その空間に《風》が流れて広がりが定まった。

 天下は天上の天空とおなじ広さの海洋の世界で、早くから多くの生命が誕生し、生き生きとした活力に満ち溢れていた。

 それを領域とするのが、水を司る《水》神。

 彼は永く天下の一強を誇っていたが、世界の《祖》である《原始》がこの天下に大地……新たに大陸を創世すると言って、大地の基盤となる流動のマグマを地上めがけて溶岩となり、世界のあちらこちらで噴出させて誕生したのが《火》神。

 つぎにこの地殻変動や溶岩を即座に大地、大陸へと創成することができる唯一の「竜の五神」――《地》神が最後の一席に座するため産声を上げたのだが、《水》神が思わぬところで異論を放った。


「我が海洋の領域を犯し、数多の生命が住む安寧を削り取ってまで大陸を創成するとは何事だ!」


 と。


 ――天下はもともと海洋だけの世界。


 そこに最後の「竜の五神」である《地》神が大陸を創成しようと動き出したので、《水》神はこれを領土侵略と見なし、《地》神が大陸を創成するたびに悉く大津波で破壊するようになったのだ。

 これには世界の《祖》である《原始》も想定外のことで、説こうとするも聞く耳持たず。

 領土侵略は外敵と見なし、自身の領域と生命を護るのが本能。

 けっして個人を恨み、いがみ合うつもりはないのだが、本能には抗えない。

 失うわけにはいかない生命、護る者が背後にあるかぎり、おなじ列に座する「竜の五神」であろうと容赦はしない、と咆哮したのだ。


 ――その本能は、大地神たちにはよく分かる。


 それは間違ってなどはいない。

 けれども、大地神たちの本能もまた、大陸を創成して数多の生命や種族を誕生させようとする動きを止めることができないので、こればかりは折り合いがつかず、正面衝突だけが互いの主張を守り抜く手段となってしまった。

《地》神は自身の部族である《地》族の雄たち――竜騎兵や竜騎士を率いて。《火》神もおなじく《火》族の雄たちとともに防御、阻止しようと挑むのだが、これに勝てたためしはなし。

「竜の五神」最凶ともいえる圧倒的な力技に《地》神は成す術がなく、創成した大陸を失っては同調連鎖する身体に大怪我を負って敗走する、それだけがむなしくくり返されて、いつしか終わりの見えない戦争状態となっていた。



□ □



 幼い子ども――《地》神が目を覚ましたのは、あれからしばらく経ってのことだった。

 枯渇しきり、地割れを起こして崩れる大地のように身体を失いかけていた《地》神の身体はどうにか原形をとり戻してはいたが、先の戦争で疲労しきった心身……とくに精神状態の安定が追いつかず、寝床で上体を起こしてはぼんやりとし、そして「竜の五神」であり、《地》族族長でありながら何て不甲斐ないのだろうかと自身の力量のなさを嘆き、涙していた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 大陸を創成しなければならないのに、ただのひとつも満足に創れず、そのたびに多くの《地》族と《火》族の一族たちを戦争に駆り出しては失うばかりで、


「俺は、ほんとうに《地》神なのでしょうか……?」


 あまりの悲観に、部族の族長だけを支えるために存在する雌――女官たちに泣いては詫びていた。


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