天が明日落ちても
宇宙に幽霊はいるのか。
少なくても私の耳にはまだ届いていない。
怪談話に科学が顔を出すと情緒が無いというのだろうか?
パニックホラーならエイリアンという不朽の名作を知っているが、こと幽霊となると思い当たる節は無い。
スペースゴーストとかコスモゴーストとか、なんとも語呂が悪い気もするが、こういう物は耳に馴染むか否かの気もする。
死の間際に立って、冷静になるというのはこういうものなのだな、と実感しつつも周りを見る余裕まであるのだ。
見渡す限りの星空と、眼下には青く光る地球が美しい。
一筋のロケットが、その地球に向かって突き進んでいる。
あと、数分後には大気圏に入るだろう。
犯人は私では無いのに。
いくら議論しても、状況証拠は私を犯人だと示していた。
一緒に行動していた彼女が無惨にも死を遂げた時には、停電していたのだから、無茶と言えば無茶なのだが、犯人が二人組で口裏を合わせていたらアリバイなど無いようなものではないか。
緊急脱出ポットをこんな風に使われるとも思っていなかった。満場一致で追放が可決された時の皆の安堵の顔が頭から離れない。嫌がる私を拘束して、ボタンを押された時……。
そう言えばアイツは笑っていた。安堵とは違う表情で、どちらかというと悪戯が成功したような悪ガキの様な顔だった。
おそらく奴が犯人だったのだろう。
今となってはどうでも良いのだが。
酸素が少なくなってきた。
そういえばギロチンというのは、火刑や磔などの拷問に比べて人道的な観点から開発された安楽死的な意味合いを持った刑具だと何かで読んだ事がある。
しかし、人は首をはねられたとて、中々意識は消えないという事を瞬きによって証明した人物がいたが、あれは都市伝説だったか。酸素の無い頭が少し朦朧としているのは認識している。
火だるまになって死ぬ時は長らく意識があるという。
苦痛があるのは嫌だが、この死に方も真綿で首を絞められる事と似ているだろう。自分の呼吸音がうるさい。
意識が残っているうちに呪詛を吐き切ってしまおう。
あんなロケット爆発すれば良い。
私の身体は宇宙のデブリとなり地球を旋回しながら包み込む幽霊となろう。エイリアンの様に、次に宇宙に来る奴らを襲ってやるのも良いかも知れない。
遠くで何かが激しい光を放った。
あぁ、神を信じた事は無いが、死ぬ間際になって信仰心が高まったのだろうか。
そんなくだらない事が最後に思い浮かぶなんて自分をまだ理解していないのだな。
……あれはロケットの方角。
宇宙に神はいたのか。