見慣れた看板ではなく
キミはいつか、海沿いの場所でカフェをやりたいと言っていた
お互いがまだ夢を大事にあたためていた頃
キミが熱心にそう言ってくれたから
僕も自慢じゃないけど
キミに倣えで
小さいけれど
いつも夕日が見えるところで店を構えている
「いつか、ふたりでこんな店ができたらいいね・・・」
休みのたび
無理に休みを取った日
午後の少ない時間でも
できるだけ多くの店に立ち寄り
『二人の店』を考えていたね
「結婚とか意識したら、ぎこちなくなることもあるから・・
もうすこしだけ・・」
キミはそう言って
慎重にもなりながら
新作のパスタを僕に披露してくれた
「この味なら間違いないよ、お店でもきっと売れるよ」と
僕は笑顔で答えた
・・錆びれてきた看板
潮の香りは
嫌でも時の流れを教えてくれる
あえてキミの好きな文字を入れているわけでもない店の名前
「For Season」
とくに気に入っているわけではないけど
この名前に落ち着いた
今夜も最後のお客を見送ったあと
月夜に向けて乾杯
あの頃のキミの味を思い出しながら
これから新作のパスタでも作ってみようかな・・
だけど、
もう思い出せないくらいで
ちょうどいいとは思ってる
なんとなくだけど