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妹が生きているかもしれないの!?

「ヘリオス……王になるのを諦めたの?」


「……だって、つまらないんだもん」


「このままじゃ、王になってから苦労するよ?」


「わかってるけど……勉強なんてした事無いし、何が何だかさっぱりわからないんだよ」


 ヘリオスが魚を追いかけて泳いで行く。


 そうだよね……

 王になるような人は小さい頃からきちんとした教育を受けているんだ。

 十三歳になって、いきなり勉強したって訳がわからないよね……


「ココ、やる気が出ないのに無理に勉強しても頭に入らないわ? 今は魔術や武術の訓練をしましょう?」


 白くてかわいいイルカが話しかけてくる。

 皆に『海の母ちゃん』って呼ばれている、すごく優しい魔族なんだ。

 大昔、魚人族の男の子と暮らしていたんだけど、大きい戦に巻き込まれて行方不明になったらしい。

 今でも、世界の半分の海を毎日捜し回っている。

 もう半分はヴォジャノーイ王国の領海で勝手に入れないらしい。

 わたし達人間は魔族の領海は関係ないから行き来できるけど……

 海の母ちゃんの代わりに捜してあげられたらいいんだけど、わたしは人間だから魔族にとっては食べ物なんだ。

 魔族の出る場所にいたら食べられちゃう。

 この島にいる魔族とは家族同然に暮らしているけどね……

 

「母ちゃん……わたし、心配なんだ。ヘリオスが王になった時に皆にバカにされるんじゃないかって……」


「ヘリオスはまだ十三歳だから……大人のようには考えられないわ? 何かやる気が出るような事があればいいんだけど……」


「やる気……かあ。うーん……おいしいご飯でやる気を出させる……違うなあ……」


「ココは……本当にヘリオスがいなくなってもいいの? 大切な人と離れ離れになるのは辛い事よ?」


 母ちゃんはその辛さに耐えながら暮らしているんだ……


「仕方ないよ……ヘリオスがそうしたいって言うんだから。ヘリオスの未来の邪魔をするのはダメだから……」


「ココ……側にいて欲しいって願うのはワガママじゃないわ? ヘリオスに話してみたら? ずっと側にいて欲しいって」


「……でも、わたしは……」


「ヘリオスも迷っているのよ……このままこの島にいればずっと幸せに暮らせるんだから。でも、困っているリコリスの民も放っておけない……ヘリオスは優しい子だから……」


「うん……母ちゃん、わたしね? ヘリオスへの気持ちに蓋をする事にしたの。王になればキレイなお貴族様の令嬢がいっぱいいて、わたしの事なんてすぐに忘れちゃうだろうから……」

 

「ココ……本当にそれでいいの?」


「うん。ヘリオスの邪魔にだけはなりたくないの。わたしは今までヘリオスにいっぱい幸せをもらったから、それだけでじゅうぶんだよ……」


「赤ん坊だったのに、すっかりお姉さんになって……」


「あはは。もう二十歳だよ? おばさんだよ……」


 そうだよ。

 ヘリオスとは年齢も身分も違いすぎるんだ……

 弟として大切に想って行こう……



 

 数ヶ月が経った頃、航海から帰ってきた父ちゃん達が興奮しながら話している。


「それで、その子がヘリオスにそっくりだったんだ!」

「ウソだろ?」

「雨が降ってたから見間違えたんじゃないか?」

「望遠鏡で何度も確認したんだ!」

「あの辺りは死の島のある場所だぞ? 人間が住めるはずがないだろ?」

「人魚でも見たんだろう?」

「イヤリングをしてたんだ! 片耳だけ! ヘリオスと同じだろ?」

「あの時の妹って事か?」

「……無理だ。生きてるはずない。魔族もいたし、あの荒れた海じゃあ……」

「そうだ。海に落ちたんだぞ?」

「でも、白っぽい髪に青い瞳で……顔だってそっくりだったし」


 今の話……

 本当なの?

 あの時の妹が生きているって事?  

 ありえないよ。

 あの荒れた海に落ちて生きているなんて……


「オレも見た……あれは、人魚じゃない……」


「父ちゃんも見たの? ……もう一回皆で行こうよ!」


「それが……あの辺りはヴォジャノーイ王国の傘下に入る魚族がいてな……普段は入り込む事ができないんだ。偶然入れただけなんだ。もう入れる事は無いだろう」


「そんな……それでも行きたいよ!」


「ダメだ。あの辺りの魚族は凶暴なんだ。人間の船なんて簡単に沈められちまう」


「父ちゃん! でも……」


「今の話……どういう事?」


 ヘリオス……

 しまった。

 聞かれちゃった。


「ヘリオス……あのね……えっと……」


 何て言ったらいいのかな?


「オレに妹がいる……って事?」


 産まれてすぐに海に落ちて亡くなったから秘密にしておいたんだけど……

 どうしよう。


「そうだ。ヘリオスが産まれた後、妹が産まれたんだ。双子のな……」


 父ちゃんが悲しそうに昔を思い出す。


「父ちゃん……それ、本当なの?」


 ヘリオス……

 知られたくなかったよ。

 母親だけじゃなくて妹まで亡くなっていたなんて……


「あぁ……妹はな、産まれてすぐ王妃の手先に連れ去られて……海に落ちたんだ。でも、今日見たあの子は……もしかしたら……海の母ちゃんみたいに優しい魚族に拾われて育てられたのかもしれないな」


「それ、本当!? オレに妹がいるの!?」


「え? ああ……ヘリオスにそっくりな女の子を見たんだ……」


「いやったあああ! オレずっと妹か弟が欲しかったんだ! しかも妹!? うわあぁ!」


 ヘリオスの瞳がキラキラに輝く。


「ヘリオス……もしかしたら人魚って事もあるかも……って聞いてるか?」


「ねぇ! 父ちゃん! オレが王様になったら妹とリコリス王国で一緒に暮らせるかな?」


「え? あぁ……どうだろうな。本当に妹かもわからないし……でも王になればもしかしたらあの海域に入れるかもしれないな……」


「よおおおし! オレ頑張るっ! 『兄ちゃんカッコいい!』って言われるんだ!」


 ヘリオス……

 急にやる気になったね……

 本当に妹なのかな?

 ヘリオスに似ていたのか。

 こんなにキレイなヘリオスに似ている人なんて、なかなかいないだろうし……

 まさか……

 本当に……?

 でも、違っていたらがっかりするだろうな……


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