これってプロポーズだよね?
「じゃあ、気持ちを切り替えて! ヘリオス、十三歳の誕生日おめでとう!」
「うん! 父ちゃんありがとう!」
さっきあんな話を聞いたばかりなのに、もう明るく笑っている。
ヘリオスは、ずっと捨てられるんじゃないかって不安だったから、やっと安心できたんだね。
「姉ちゃん! この魚のフライ世界一旨いよ!」
ニコニコのヘリオスが幸せそうにわたしの手料理を食べている。
「そんなの誰が作っても同じだよ?」
「違うよ? 姉ちゃんが作ったから旨いんだよ!」
「ヘリオス、父ちゃんの三段ケーキもあるぞ?」
「うわあぁ! やったぁ!」
こうして、賑やかにお祝いは終わった。
これからも、ずっとこんな幸せが続くんだね……
父ちゃんと乗組員がリコリス王国に出かける船の準備をする間、ヘリオスと木陰で話をする。
母親の形見のイヤリングがキラキラ光ってキレイだ……
「オレ、本当の父ちゃんを見てくるよ。それで終わりにする。だって、オレの父ちゃんは、今ここにいる父ちゃんだけだから……」
「そっか……うん。安心したよ」
「安心?」
「うん……ヘリオスが遠くに行っちゃいそうで怖かったの。これからもずっと一緒だよね?」
「もちろんだよ! だって……オレ……ずっと姉ちゃんの側にいたいから……」
ずっと側にいたい……?
わたしと同じ気持ちでいてくれたんだね……
「ヘリオス……わたしもだよ?」
恥ずかしいけど……
わたしの気持ちも伝えないと……
「オレもう自分の気持ちを隠さないよ! 姉ちゃんの事、他の奴に取られたくないんだ! だから……オレが幸せにするから……オレが大きくなるまで待ってて?」
「……うん。待ってる……でも、その頃にはわたしはもっとおばちゃんになってるよ?」
「大丈夫だよ? 姉ちゃんはすごくキレイだから! 世界一キレイだから!」
「わたしが……キレイ?」
ドキドキが早くなる。
わたしを見つめるヘリオスの瞳が真剣だ……
「うん! オレだけの姉ちゃんだからね? 他の奴と絶対結婚しないでね?」
「うん……早く大きくなってね?」
「ヘリオス! 出発だ! 金目の物を大量に頂戴してくるぞ!」
父ちゃんが海賊船からヘリオスを呼んでいる。
「あぁ……置いてかれちゃうよ! 行ってくるね?」
「うん! 見つからないように気をつけるんだよ?」
「あ! そうだ! 姉ちゃん?」
「ん? 忘れ物?」
つま先立ちになったヘリオスが、わたしのほっぺたに口づけをする。
「……え?」
今、何が起きたの?
ヘリオスが……
え?
「えへへ……行ってくるね! マイハニー!」
「はあ!? ちょっと! どこでそんな事覚えたの!?」
まさか、父ちゃんの大人向けの本を見ちゃったんじゃないよね?
帰ってくる前に全部燃やしてやろうか……
いや、でも……
前に燃やした時にショックで寝込んだっけ……
あの時は、船長の仕事をしなくて大変だったんだ。
ヘリオスもいつの間にかそんな年齢になったんだね。
いつまでも赤ちゃんじゃないんだ……
って、あれ?
今のってプロポーズ……だよね?
……ヘリオスのお嫁さんか。
きっと、毎日賑やかで、楽しくて、幸せだろうな……
側室だった母親が拐われた時に乗っていた船で、息子のヘリオスがリコリス王国に盗みに行くのか……
世の中は何が起こるかわからないね……
お腹をすかせて帰ってくるだろうから、ヘリオスの好物をいっぱい作っておいてあげよう。
喜ぶだろうな……