表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

姉だけど姉じゃない

 ヘリオスの十三歳の誕生日、わたしは早朝からごちそうの準備をしている。

 海賊の船長だけど、お菓子づくりが趣味……と言うよりはストレス発散? の父ちゃんも朝から三段のケーキを作っている。


 ヘリオスは朝が弱いからまだぐっすり眠っている。


「父ちゃん……今日ヘリオスにあの事を話すの?」


「……ああ。ばあちゃんはそうしたいみたいだな」


「やめようよ。ろくでもない奴だって父親だよ? 倒す事になったら……」


「それは、ヘリオスが決める事だ。ココも見ただろう。シャムロックのばあさんが、ヘリオスの母親の亡骸を抱きしめて泣く所を」


「見たけど……でも……このままこの島で海賊として……」


「ココ。これから先の生き方はヘリオスが決める事だ。オレらが口出しする事じゃ無い」


「父ちゃん……父ちゃんはヘリオスと離れて暮らしても辛くないの? わたしは辛くて耐えられないよ……」


「元々、身分も住む世界も違うんだ。でも……力は貸すつもりだ。シャムロックのばあさんも力になってくれるだろう」


「シャムロック……? ヘリオスのおばあさんの国……」


「ああ。小国だが武力に優れているからな、大砲が大量についた船もあるんだ。あんな船が欲しいもんだ」


「父ちゃんはヘリオスの母親が乗ってた豪華な船を勝手に使ってるでしょ? あれ、リコリス王国にバレても平気なの? 海賊が乗る船のレベルじゃ無いでしょ?」


「王妃が嫉妬心で側室を拐ったんだ。海賊が乗り回してた所で何も言えないさ」


「……まあ、そうだけど」


「父ちゃん達に出来る事は、ヘリオスが思う道に進めるように手助けする事だけだ。ココ、余計な事を言ってヘリオスの未来を奪ったらダメだぞ?」


「……ヘリオスの未来?」


「そうだ」


「その未来に、わたしはいないんだね……」


「ココ……お前……まさか……やめとけ。ヘリオスは王子なんだ。いずれは大国の王になるかもしれない。海賊の娘は王妃にはなれないぞ? 側室になった所で王妃にイビられるのはわかりきってるぞ?」


「……王妃? そんなんじゃないよ……わたしはずっとこの島でヘリオスと穏やかに暮らしたいだけなんだよ」


「それを決めるのはオレ達じゃ無い……わかるな? 今日、ヘリオスの母親の形見のイヤリングを渡して全てを話すぞ? 辛いならどこかに出かけてくればいい」


「……そんな逃げるような真似しないよ。わたしはヘリオスの姉ちゃんなんだから。きっとヘリオスは傷つくはずだからわたしが側で支えてあげたいんだ」


「そうか……ココは、いつの間にか大人になったんだな。今日全てを話すのをもっと反対するかと思ったが……」


「ヘリオスの母親とおばあさんが苦しむ姿を見てきたからね……わたしもリコリス王は大嫌いだよ」


「リコリス王は、素直でかわいいヘリオスとは大違いだからな。ヘリオスは王宮で育たなくて幸せだったのさ。あんな奴らの中で暮らしていたらどんな酷い性格になっていたかわからないからな」


「……うん」




「父ちゃん! 姉ちゃん! おはよ!」


 しばらくすると、元気いっぱいのヘリオスがリビングに入ってくる。


「おはよ。よく眠れた?」


「うん! 姉ちゃん、ごちそう作ってくれた? オレの好きな物いっぱい作ってくれた?」


「もちろん! ほら、魚のフライもあるよ?」


「やったあ! 父ちゃんは?」


「キッチンでお菓子を作ってるよ? 覗くなら気をつけなよ?」


「うん! 三段のケーキをお願いしたんだ! 見てくる!」


 ふふっ。

 瞳をキラキラ輝かせて……

 かわいいな……

 

 全てを知っても今まで通り笑ってくれるかな?

 騙していたって嫌われないといいけど……

 


 キッチンにヘリオスの様子を見に行くと父ちゃんの声が聞こえてくる。


「うおおぉぉっ! こうしてやる! 参ったか! はあはあ……」


 父ちゃん……

 パンの生地を叩きつけているのか……

 作るお菓子は最高においしいけど、ストレスの全てをぶつけて作るからね……

 顔が怖いよ……?

 

「ヘリオス! 父ちゃんが、かわいいくまちゃんのパンを作ってやるからな! はあはあ……」


「くまちゃんのパン? やったあ!」

 

 あぁ……

 喜んでいるヘリオスがかわい過ぎるよ!

 まだまだ赤ちゃんなんだから……

 

「うおおぉぉ! くまちゃんんん!! はあはあ……」


 いや父ちゃん、顔も声も怖いよ……

 息切れもすごいし。

 もう若くないんだから……

 無理しないでね。


「あ、姉ちゃん! 見て見て! オレもパンを作ってるんだ! ほら姉ちゃんの顔だよ?」


「え? わたしの顔?」


「うん! ほら! かわいいだろ?」


「いいなあ。父ちゃんの顔のパンは無いのか?」


「うん! 姉ちゃんだけ特別なんだ!」


「わたしだけ特別……?」


「うん! もし姉ちゃんがおばさんになって誰も嫁にもらってくれなかったらオレが嫁にしてやるよ!」


「……え?」


「えへへ」


 嬉しそうに笑うヘリオスにドキドキが止まらない。

 やっぱり、わたしはヘリオスが好きなんだ。

 でも、ヘリオスは真実を知らないからわたしを姉として好き……なんだよね?

 恋心とは違うんだよね?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ