弟だけど弟じゃない
『異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~ルゥと幸せの島~』の第二部から登場するココが主役の物語です。
今から十二年前。
四大国の内の一国、リコリス王国の側室が拐われた。
航海の旅に出ていたわたし達海賊は、光に導かれ海を進むと、拐われた側室の乗る立派な船にたどり着いた。
側室は陣痛が来ていて、わたし達海賊がその出産を手伝い、双子が産まれた。
兄を産み、妹を産み終えると側室は息絶えた。
そして、わたし達海賊はその直前に双子を託された……
「姉ちゃん! 腹へった!」
キラキラに輝く銀の髪、海みたいなキレイな青い瞳。
十二歳になったヘリオスが汗だくで家に帰ってくる。
あれから十二年か……
あっという間だったよ……
「姉ちゃんってば! おばちゃんっ! 聞こえないのか!? おーい!」
「ヘリオス!? 今おばちゃんって言ったね!?」
「だって、もう二十歳だろ? あははっ!」
「こらっ! ご飯作ってやらないよ!?」
「ええっ!? ウソウソ! ごめんって! 姉ちゃんは世界一キレイだよ!? な? だからご飯作って!」
もう!
悪ガキなんだから!
それにしても……
キレイだな。
どう見ても海賊には見えないよ。
大国のリコリスの王子だからね……
亡くなったヘリオスの母親もすごくキレイだったな……
妹は、かわいそうな最期だった。
ヘリオスには、母親の事も妹の事も話していない。
わたしの弟って事になっているんだ。
まあ、誰が見てもわたしの弟には見えないけどね。
わたしも父ちゃんも赤茶色の髪に茶色い瞳だし。
ヘリオスは母親似って事になっているんだ。
わたしの母親も、わたしを産んだ時に亡くなっているからね。
ヘリオスを産んだ後に亡くなった事にして、ヘリオスによく似ていたって事にしたんだ。
でも……
ばあちゃんはヘリオスが十三歳になったら全てを話すって考えているみたい。
リコリス王国は、かなり腐敗が進んでいるみたいなんだ。
自分の子を妊娠していた側室の亡骸を、引き取りもしないようなクズが王だからね。
まともに国なんて治められるはずがないよ。
もしヘリオスがリコリス王になりたいって考えたら……?
ヘリオスは父親である王を倒さなければいけないって事?
いくらクズな父親でも、自分の親を倒すなんて……
それに、わたしの側からいなくなっちゃうなんて考えられないよ。
「姉ちゃん! 早くご飯食べたいよ! 夕方から夜の海の中で戦う練習をするんだ!」
「あぁ……そうだね。今日は遠くまで行くの?」
ヘリオスの好物の魚のフライをテーブルに出す。
「うん! やった! オレの二番目に好きなやつ!」
うわあ……
笑った顔が言葉にならないくらいキレイだ。
あれ?
でも……
「ヘリオスは魚のフライが一番好きでしょ? 他に好きな物ができたの?」
「ん? 一番好きなのは姉ちゃんに決まってるだろ!?」
「……え? なんだ……かわいい事も言えるんじゃないの。あ! 何か悪さでもしたの? ご機嫌取りなんかして怪しいな……」
「なんだよ、オレはいつでもかわいいだろ?」
ニコッと笑うヘリオスは確かにかわいい。
わたしの弟は世界一かわいいからね!
って、これじゃ痛い姉ちゃんになっちゃう。
「姉ちゃん、旨かったよ」
外に向かったヘリオスが、リビングの扉の前で立ち止まる。
「何? 忘れ物?」
「……オレ、本当に姉ちゃんが一番好きだから」
「え?」
慌てて外に出ていくヘリオスの耳が真っ赤になっているのが見える。
「また、変な事言って……」
一人になったリビングで異変に気づく。
……?
あれ?
わたし……ドキドキしてる?
まさか……
わたし、ヘリオスの事を?
そんなはず無いよ。
だって、ヘリオスは弟だし。
赤ちゃんの頃はわたしがオムツを取り替えて、ずっとお世話して……
弟……だよね?
……ヘリオスは王子なんだ。
これ以上考えるのはやめよう。
身分の差も年の差もありすぎる……
わたしは海賊なんだ。
ヘリオスのあの性格なら王になりたいって思うはず。
きっと、もうすぐいなくなるんだ……
ズキン……
胸が痛い……?
ヘリオスがいない生活か……
想像もできないよ。
こんな事を考えたらダメな事はわかっているけど……
これからも一緒に暮らしたいよ。
短編の『異世界で、人魚姫とか魔王の娘とか呼ばれていますが、わたしは魔族の家族が大好きなのでこれからも家族とプリンを食べて暮らします。~連れ去られた側室とココの物語~』で、ヘリオスの出産時の出来事を投稿しています。