予期せぬ力
「……ッ!」
西宮恭平が目を覚ました時、目の前に広がったのは暗闇、ただそれだけだった。
周りを見回すも、何も見えない。
ただ、狭い部屋の中にいるのがわかる。
ベッドで眠らされているようで、体中紐のようなもので縛られて身動きがとれない状況になっている。
普通の人間ならばパニックを起こして叫びだすだろうが、その時の恭平は不思議と冷静だった。
まず、自分のいままでの行動を振り返ってみる。
朝、七時頃に母親の声とともに目覚め、あくびを二、三度しながら食卓へ。
朝食はパンにバターを塗ったものとハムエッグ、それに牛乳だけだった。
日本人なら朝はご飯とみそ汁……と言う人間がいるが、関係ない。
美味しくさえあればそれでいいというのが、恭平の考え方だった。
といっても美食家でもないので、そこまでこだわりはしない。
回転寿司だろうが高級寿司だろうが味はだいたいおなじだ。
それから八時より少しばかり早めの時間に家からでて、学校へと向かった。
距離は自転車でだいたい20分、トバせば10分程度かかる場所。
30分までに到着できれば問題ないので彼はゆっくり、穏やかに向かった。
夏なので、とにかく暑い。
なにもせずとも汗がだらだらとでてくる。
私立高校に通っているので、冷暖房が完備されているのがせめてもの救いだ。
自宅近くの駄菓子屋でアイスを一つ購入し、それを味わいながら登校するのはもはや日課だ。
それによって毎月3000円近くの出費があるのが痛い。
しかも、冬にはそれが肉まんかタイ焼きに変わるのでその出費は毎月といっていい。
学校に到着するころにはアイスもすっかり無くなり、「当たり」と書かれた棒だけが残された。
それを右側のポケットへとしまい込むと、彼は駐輪所へ自転車を置いて教室へと急いだ。
のんびりしていたため、予想以上に時間をくったのだ。
授業開始二分前に到着、HRは既に終わっていた。
担任の志村―――今年で43になる独身―――に軽く叱られたが小柄の彼に何を言われようと怖くは思わない。
春の健康診断で身長174cmという結果が出た彼よりも、30cm近く担任は小さいのだ。
しかも性格は最悪、イライラすれば生徒の言葉は無視するし、
少しでもミスがあれば厳しく追及してくる。
1か英語のIかわかりづらい文字を見つけ、それを指摘された時は殴り飛ばそうかと思った……と恭平の親友の隼人は言っていた。
それから適当に授業をうけ、放課後。
特に何の用事もなく、帰宅部の恭平は自転車にまたがって自宅へ向けてペダルをこいだ。
自宅近くの交差点……そこが運命の分かれ道だった。
観たいTV番組の為に、彼は非常に急いでいた。
そして、次の瞬間彼の耳には車のクラクションの音と、体には強い衝撃が走った。