再始動! 我らブリッジス!(5)
こうしてオジさんイレブン、もとい旧四季橋商店街メンバーによるサッカーチーム「ブリッジス」が本格結成した……ところではあるんだけど。
「つってもだ。茜はいいが、最上さんたちと時間を合わせられるかどうか……」
やる、とは言ってないが、お母さんの口説きには完敗したお父さん。
居酒屋おおふねは原則、その日の仕入れ次第の不定休である。
「そこが問題だな。私の店は定休日が木曜だ」
最上さんのわくわくクリーニング「MOGAMI」は業界にならって。
「自分は美容室ですから、月曜休みですし」
末さんのサロン・ド・フェグリも業界にならって。
「悪いわね、ワタシは娘のおかげで土日休みよ」
八木原さんのルビーナは、娘さんの改革で土日休みにシフト。
「いいなあ、八木原んとこは娘が天才で。コンビニには休日なんかありゃしねえ」
「休んだらいいのに、トロリーマートなんて」
「なんだと服部ぃ!」
十塚さんのコンビニも、服部さんのスーパーも年末年始しかお休みはなし。
ほかにサンダーブラザーズの安田電気店、郷里さんの酒屋「四季」もお休みはないが、家族ルールに従って各自お休みを取る。完全に休みなしな幸腹亭で鍋を振るうことが責務だと自負する兼島さんは、取って半休くらいのもの。
このように。生業がバラバラなこともあって、メンバー全員で集まって練習となると難しい。かといって、日ごとに数人単位にばらけて練習するというのも、悪くはないんだろうけどね。この面子だとなんとなくパッとしない。
それで意気も続くかどうかもまた別問題になりそうだし。
「ほら、土台無理なんだ。サッカーチームなんて。練習時間がねえんだからよ」
お父さんが無駄に勝ち誇る。本音はやりたいくせに、強情なんだから。
そんな八方塞がりに見えた状況下で。
お母さんの一声が、オジさんたちの急所を突いてしまった。
「あらあ? そうでもないんじゃなーい?」
「いやいや美奈。分かるだろ? 休みが合わせられねえんだから」
「だってみんな、お仕事あるのに四六時中ウチに飲みにきてるじゃない」
「…………」シーン。
見事な静寂。オジさんたちの声がかき消えた。まるでお葬式のよう。
あっ、そろそろ縁起でもないから今のはナシで。
「だからー、おサボりの時間でサッカーすればいいんじゃなーい」
社会生活の前提からして、それはどうだろうかと思いつつ。
まあそれはそうだね、と納得してしまう。
「……いやーなあ、美奈ちゃん。それはなんていうか、なあ?」
「……ガッハッハ。それとこれとはあれっていうか、ガハッ」
「美奈、そうするとなんだ、あれだ、ウチの客が全員いなくなるわけだし……」
「まあ、大悟くんったらキモがないこと」
お母さんの妙案、というか揚げ足取りは、大船一家の今後の生活費にも関わってくる、ひじょーーーっにシビアな問題なのは分かる。
けれども「やりたいならやれるよ?」とお母さんがキリッと言いきるものだから、オジさんたちからはユルんだ甘えを捨てられなくなっているような情けなさを余計に感じてしまい、バツの悪い子供たちのように見えてくる。
でも、そこはさすがお母さん。
奸計もバッチリだった。
「なら、練習終わりにウチに寄りなさいな。スポーツ後の一杯は止められないだろうけど、体作りのメニューを提供するわよ。献立はこっちで決めるから作りやすいし、利益もちゃんと出すし、ご家族もお料理の定休日ができて楽になるわ。健康メニューに力を入れれば、オジさん以外も呼び込めそうですし、うふふ」
全方位に隙のない理論が、好きなときに好きに飲んでいる生活を続けてきたオジさんたちに刺さる。サッカーの練習日が、ウチの利益になるのも抜け目ない。
「渕山高の江崎くんを倒したいなら、それくらいしなくちゃねえ」
お母さんの言い分に悪くないと思ったのはお父さんをはじめ、病院勤務の優秀な奥さんを持つ専業主夫の千藤さん、お店はすでに息子さん任せの郷里さん、娘さん任せの八木原さんの計四人。彼らは「それならやれるか派」に移った。
「……そりゃそうだけど、なあ?」
「……サボりの時間を合わせるってのも、なあ?」
「……これでも俺たち、店の要っていうか、なあ?」
ほかの七人もゴネはするが、普段の生活状況を考えると全員、実情としてはすでに店の看板を精力的にけん引するような立場でもなく、奥さんや家族などのスタッフに立場を取って代わられているお年ごろとあり、しばらくすると「そうか。俺はもう、そういう存在なのか……」などと勝手に折れて、うなだれた。
これはあれだね。中年の危機。ミッドライフ・クライシスってやつ。
働き盛りをすぎた男が、己のアイデンティティの喪失にうなだれちゃう現象。
「まあまあまあ、だからこそサッカーで青春を取り戻すって考えれば、ね~?」
我ながら、口当たりのいい口八丁だったけれど。
「……そうだな、そうかもしれないな」
「……そうだ、俺にはまだサッカーがあるんだ」
「……そうだよ、俺たちは生涯サッカー選手なんだから」
こんな気休め程度でどうにか立ち直ってくれて一安心。
「ほらほら、紗友ちゃんがここまで言ってるんだもの。あのころみたくサッカーがんばらないとね? 男の子なんですもの。もうオジさんですけど、うふふ」
それから彼らはあーだこーだと議論を重ね、こうやって飲む時間を代替すれば、朝・昼・夕・夜はバラバラになるかもだけど、週に三日や四日、無理すれば週七すら可能になりそうなほどまとまった時間を取れることに気付いた。
もちろん、普段の生活に新たな決まりをねじ込むわけだからね。
仕事や家庭の実情を踏まえると、そう簡単じゃないだろう。
なにより家族にしわ寄せが向かいすぎれば、商店街に不和が生じてしまう。
「ガッハッハ! これなら余裕でできるわい!」
ともあれ、実行の可否はお父さんを除く十人が家に持ち帰ってからだけど。
ブリッジスは思っていた以上に、普通に余裕で練習できそうであった。
「そうだ、紗友ちゃん」
二分前までうなだれていたが、元気を取り戻した最上さん。
「なんです~」
「マウントスの監督、江崎慶人くんだったかな。瞬くんの【四人デルタ】の」
「慶人くんです~」
「紗友ちゃんは、その、なんだ。ああいった現代サッカーを知っているのかな」
それはつまり、現代的なサッカーの戦術理論的なことかな。
ううん、申し訳ないけれど。
「いえ。私もサッカーあまり見てないので~。教えられるほどじゃなくて~」
「そうか。いや、そうだな。すまない、そうだった」
まずい。使えない監督だとガッカリさせてしまったかも。
たしかに、もしもマウントスと再戦の機会があるとしても、この十一人が本気で練習をがんばったところで、現代サッカーのシステマチックな戦い方には太刀打ちできないかもしれない。みんなどころか、私自身もそのクチなんだが。
ここにいる全員は確実に、サッカー観が古いのである。
なかには過去のプレイや思い出が金物の大鍋にこびりついている焦げ目のようになっていて、信念を簡単には剥がせない人もいるだろう。
「相手に対抗して、瞬くんにコーチしてもらうわけにもいかないだろうしな」
高校サッカー男子には同じものをぶつけよう、という狙いに関しては。
「そろそろインターハイ予選ですもんね~。慶人くんもそうなんですが」
「高校サッカーの一大イベントだ。俺たちオジさんの世話で邪魔しちゃ悪い」
若手の事情を考えると両チーム、息子たちを頼るわけにもいかない。
高校OBとしても、約四十年前までの同じサッカー選手としても。
「……あっ!」でも、最上さんのおかげで閃いた。
幸運なことに、私には最善の心当たりがあった。
「最上さん、私はダメダメですが、もしかしたらいるかもしれません」
「? なにがだい」
「コーチ。みんなを強くしてくれるかもしれない、四季高のサッカーコーチです」
確実に確定で絶対に嫌な顔されるけれど、一人、とってもいい子がいるのだ。




