眉毛サロンにて
洋楽流れる、待合室。先客の女子高生に15分待たされている。他人の眉毛に捧げる時間。花とピンクで彩られた小さな待合室で、雨音とビートルズが同時に耳の穴を通過する。
“バシャ、君の手を、バシャバシャ、握らせてよ”
ーきっと握った手がふやけてるだろうな。土砂降りのなか握られる手と、握る手を思い浮かべる。どちらの手も指先にゆるい皺が入っている。愛されて、愛して、そんなことは気にも留めないんだろうな。
溜息をついたら名前を呼ばれて、立ち上がった。
オーダーを伝えて目を瞑る。まずはワックスからだ。シアバターの香りが塗りつけられては剥がされる。鼻をくすぐる微妙な痛みをクイーンが追いかけてくる。
“ママ、ペリッ。僕は人を、ペリッ。殺したんだ、ペリペリ。”
ー銃の代わりにブラジリアンワックスを持って、泣き叫ぶ男。ママ、これで僕の脇毛を抜いてくれよ。
次は細かい毛を抜いていく。赤みを抑える冷えたカモミールの香りと、カチカチと小刻みに不規則な、金属の当たる音。急き立てられるようなその音を、さらに急き立てるブルーノマーズ。
“ほらほら逃げろよベイビー、カチカチ、俺が君を夢中にさせる、カチカチカチ、その前に”
ー自分に酔っ払う酔狂なナルシスト。それでいてその目は冷ややかに熱くて、その温度差をもっと味わいたい。逃げろと言うくせにこちらをとらえて離さない。こちらが熱をあげるまで。
意識がとろとろと溶けてきたころ、鏡を渡される。
綺麗な眉毛が出来上がった。
4000円の支払いをして外に出る。
雨が上がった。




