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30.お茶会での噂話

「……まったく驚きでしたわ。まさかレリアがロラン様に毒を渡すなんて」


 ロラン自殺から半月ほどが経った後、ブリジットは王宮内のテラスで、カロリーヌをはじめとする貴族の娘たちとのお茶会に参加していた。

 このような場は慣れずに緊張していたが、いつまでも体調不良のことにして自室に閉じ篭もっているのもよくない。クロードの妻として、王妃として、有力貴族たちとは懇意にしておいた方がいい。


 今日は六人ほどの女性がいた。皆、公爵や伯爵の娘だった。結婚している者もいるし、まだの者もいた。初めての王妃主催のお茶会で、集まるのはブリジットと年が近い者の方がいいだろうと、カロリーヌが集めてくれたのだ。


「ええ。レリアは陛下の愛人で、まさかその弟と恋仲になっていたとは……と、失礼いたしました」


 ブリジットの顔色を窺いながら謝るが、レリアがかつてクロードの愛人であったことは事実であり、気遣ってもらう必要はない。


「ブリジット様も驚きになったのではないですか? 王宮に来られたばかりで衝撃的なことばかりが起きて」


「……ええ、そうですわね。思ってもいないことばかりです」


 そうして少し困ったような顔をしておく。

 そうすれば大概のことは対応できると知っていた。


「でも、最後にどうしてもロラン様と面会したいと申し出て……その席で毒を渡すなんて」

「ええ、驚きましたわよね」


「まあ、大衆の目前で処刑されるなんて事態を避けたかったという気持ちは分かりますが」

「ええ、恋人に毒を渡すなんて……どんな気持ちだったのかしら?」


「自分もそれを追うように毒を飲んで……」


「見つけた侍女も驚いたでしょうね。ロラン様の一大事を知らせに部屋に行ったら、まさかベッドの中で冷たくなっているなんて」


 ロランはレリアが渡した毒を飲んで獄中で死に、レリアは自室で同じ毒を飲んで死んだ、とされている。

 そしてレリアの自室には遺書があった。


 ふたりは恋仲であったこと。


 ロランの罪は仕方のないことだが、せめて尊厳のある死を望んでいたこと。

 この世で結ばれることはできなかったが、せめて天国で幸せになる。

 その遺書の内容もまたたく間に王宮に広まり、ふたりの死は悲劇的なものとして語られることになった。自殺したロランの遺体を、通常通り広場で見せしめにするべきだなどという案もあったが、それは多くの反対にあって却下された。結局ふたりはひっそりと葬られることになった。


「まさかフーリエ公爵の最後の仕事が、実の孫の死を確認させられることだったなんて」

「そのフーリエ公爵も翌日には処刑されて」


「どんな気持ちだったのかしらね? 自業自得だとはいえ、お気の毒だわ」

「ブリジット様はどう思われてらっしゃるの?」


 女性たちの会話に入っていなくとも、なにかと話を振られてしまう。みんな、ブリジットがどんな考えなのか知りたくて仕方がないのであろう。


「あの……せめてお二人を近くのお墓に埋めてあげてほしいと、クロード様にお願いはしてみましたが……どうなるか」


「なるほど。そうでしたか」


 その場に居た女性たちは大きく頷き、紅茶に口をつけた。


(今頃ふたりはどこに居るのかしら? 外国に移り住むようなことを言っていたけれど)


 ブリジットも彼女たちにならうように紅茶に口をつけた。

 共犯者のレリアの存在があったからこそ、この計画は進められたと言っても過言ではなかった。

 ブリジットが毒を渡すことも、クロードが毒を渡すことも憚られた。誰か他に、と考えたときに信頼できるのは、自分の望みを強く持っていてこの企みが自分に理がある者である。

 だからレリアに任せた。彼女はなによりロランを助けたがっていた。


 服毒自殺をして身元を確かめられ、棺に納められたロランが棺の中で目覚めたときに、それを迎えに行って外へと逃がす者が必要だった。身軽に動けて決して外に情報を漏らさない者、それは同じように周囲に死んだと思わせたレリアしかいなかった。

 ふたりが無事に逃げ出せたら、合図に王宮の敷地内のどこかの木に青い花柄のスカーフを結んでおいて欲しいと頼んだ。そのスカーフは、後日クロードが見つけてブリジットに届けてくれた。

 ふたりの行方は知らない。きっと知りたがってはいけない。ただ、遠くからふたりの幸福な逃亡を願うだけだ。


「それから、ソレーヌ皇太后のことは……」


 ソレーヌは全ての取調べがまだ済んでいないという理由で、まだ処刑されずに獄中にいる。

 だが、処刑は時間の問題であるとされている。


「まさか、実のお母さまが息子の暗殺にかかわっているとは……」


「クロード様のことが恐ろしかった、とおっしゃっているようですね。そしてこの国にとっても脅威となっている自分の息子を、なんとかするのが母親としての役割である、と」


「そこまで思いつめていたのですね」


 王宮内ではそういうことにされていた。

 クロードも多くは語らないから、ブリジットも本当のところを知っているわけではないが、自分の実の妹まで手に掛けたクロードを恐ろしく思っていたことは事実のようだった。そして、皇太后でありながら王宮内でまるで存在感を示せないことを不満に思っていた、と。元々は派手好きな人だったが、クロードが禁じたために自分主催の舞踏会も晩餐会も開けない、と。そもそも先代の国王のときにその王妃の浪費について議題に上がるほどだった。


「悲しいことがたくさんありましたが……」


 不意に口を開いたブリジットに、皆の視線が集まった。


「これからクロード様のことを支えて、ご立派に国を治められるよう務めていければと考えております。なにも知らない私ですから、皆様の助けを借りられると嬉しく思います」


 本音か、それとも本音を隠した巧妙な演技か分からなかったが、その場にいた者は皆、笑顔で頷いた。

 そうして和やかな雰囲気で、初めての王妃主催のお茶会は終了した。

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