28.助けたい人
「いえ、真剣にお願いしました。朝食の後に時間を取って、なんとか命だけは、と。王宮から追放の上、幽閉では駄目なのかと食い下がってみましたが、クロード様は頑なで。それだけはできない、と」
「……ふん! なによ! 国王は温情ある国王に生まれ変わったなんて評判だったけれど、結局前と変わらないじゃない!」
不意にレリアは立ち上がり、興奮した様子でぶちまけた。
その豹変ぶりに驚きながらも、そもそもレリアはこういう人だったと思い直した。
「どうしてロラン様を処刑する必要があるのよ! 彼はなにも知らずに利用されただけなのに! 結局、自分の玉座を脅かす者の存在を由としないってだけでしょう? 彼が利用されたのをいいことに、将来の頭痛のタネを排除したいってだけで!」
レリアは落ち着きなく部屋を歩き、腕を振りながら更に熱弁を振るう。目をカッと見開き、頬を紅潮させている。こちらがなにかを言っても冷静に受け止めてもらえなような様子である。
エリーズがこちらのことをちらりと見てきた。
ブリジットの体調不良を理由に退室してもらうかどうしようかと尋ねているようだが、ブリジットは首を横に振った。
「あの……もしかしてレリア様はロラン様のことを……?」
恐る恐ると聞くと、レリアは立ち止まり、それから少々迷ったような様子を見せながらも口を開いた。
「ええ、そうね。だから、彼を助けたいなんて思うんでしょうね。格下だと思っていた者に頭を下げるようなまねをしてでも」
レリアはふと口許に笑みを浮かべて、天井を見上げた。
「最初はあんなひょろっとした男、好みではないと思っていたのだけれど、私もクロード様のことがあって疲れていたのかしらね? 彼と一緒にいると落ち着くのよ。違う自分になれるような気がする」
レリアは眉尻を下げて、鬱々としたため息を吐き出す。恐らくレリアにとってロランは、やっと出会えた運命の人なのだろう。その人を失うことになって、なりふり構っていられなくなった。
「クロード様の暗殺は、フーリエ公爵とソレーヌ皇太后が企んだことでしょう? 首謀者がふたりもいるのだから、そのふたりを処刑すれば済む話では? 実行犯であるシモンの処刑は免れないでしょうが、ロラン様は……」
ブリジットはそうもクロードに聞いてみた。
だが、クロードの返事は変わらなかった。なににしろ、ロランが利用されやすい立場にあることに変わりがない。
(本当に、どうにか……ならないものかしら)
しかし、クロードがロランをそのままにしたら他に示しが付かないという気持ちも分かるのだ。クロードの今までのやり方は乱暴で人々の理解を得るのが難しく……そのやり方を軟化させたにしても、やるときはやる、毅然としたところは見せないと人の上に立つ者として面目が立たないという事情も分かる。
では……とふと天啓にも似た考えが脳裏に浮かんだ。
要はロランが死んだという事実を他に示せばいいだけの話で、本当に死ぬ必要はないのではないか。
(でも、そんなことできるかしら……?)
偽物の遺体を用意してそれをロランだと思い込ませるか、と考えてみるが、確かにロランは死んだのだと皆に思わせる必要がある。少しでも疑わしい状況は作れない。
なにかいい方法はないか、クロードに相談して、と思ったところでとあることが頭に浮かんだ。
しかし、そんなに都合のいい方法があるだろうか。上手くいく可能性はとても低い気がする。
それでも、なにもしないよりはましだと考える。
それに協力者もいる。
レリアはロランを助けるためならばなんでもしてくれるだろう。彼女は次期国王と目されたロランではなく、今は処刑犯であるロランを愛している。
「そうね、私……もう一度クロード様にお話ししてみるわ。なんともならないかもしれないけれど、もう一度」
レリアにはそう言うに留めておいた。変に期待を持たせてそれが無理だとなったときに落胆させてはいけない。彼女の大切な人の生き死にがかかっているのだ。
「本当に?」
レリアはブリジットの足下に跪き、その手を取ってぎゅっと握ってきた。
「ええ……それでクロード様の気を変えられるか、自信はないけれど」
「それでもいいの。あの方の命が救えるかもしれないなら、どんな可能性の低いことでも」
懇願を繰り返すレリアの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
王宮内では泣くのも笑うのも演技であり、信用してはならないとは知っているが、今のレリアの涙はとても嘘だとは思えなかった。
「ええ、できるだけのことはするわ」
そのときはそう言うに留めておいた。
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