22.罪人への処遇1
「あの……ロラン様を処刑するなんて……いくらなんでもそれはやりすぎなのではないでしょうか」
王宮に戻ってからひと月ほど経った頃だった。
いつもの夫婦ふたりの朝食の席で、政治にかかわることには口を挟むのは止めよう、そもそも政治に関することなんてなにも知らないのだから、と心に決めていたブリジットだったが、さすがにひと言言いたくなってしまった。
「朝食の時にそんな憂鬱な話題は出して欲しくないな」
言葉は強いが、怒っているような態度ではない。
だが、不愉快に思っているだろうことは明白だった。最近、クロードの瞳を見るだけで彼の感情が読み取れるようになってきた。
「ごめんなさい……でも、どうしても気になって」
「午後に時間を取るから、そのときに話そう」
そして昼過ぎになってからクロードがブリジットの部屋へやって来た。侍女も警備の者も部屋から出て行くようにと申しつけ、ふたりで話す時間を持つことができた。
「ロランのことは……俺だってあいつがあいつのじいさんに乗せられて陰謀の片棒を担がされただけで、あいつ自身はなにも知らなかったと分かっている」
これまでの調べで、クロードに毒を盛って体の自由を奪い、王座から追い出した首謀者はジャン・フーリエ公爵だと分かっていた。
彼がシモンを実行犯としてクロードを亡き者にしようとした。それは自分の実の孫であるロランを国王にするためであった。シモンはただ機会を得たから自分が実行犯となっただけで、別にフーリエ公爵に命じられただけではないと主張しているが、シモンはフーリエ公爵から金品を受け取っていて、更に無事にクロードが死ねば伯爵の位を与えるとの約束が書面が発見され、それは共犯関係であることを裏付けるものだった。
なぜクロードを強力な毒でひとおもいに殺さなかったかといえば、フーリエ公爵はあまり多くを語らないが、自分の孫が国王としての土台作りをするのに時間稼ぎが必要だと考えたからのようだった。国王の急死で跡を継いだ新王は苦労を強いられることが多い。それに、クロードには実績があり、彼を慕っている者もいた。そんなクロードが死んだからと急に国王になったロランには反発が大きくなると予想した。だからそんな者たちにはゆっくりとクロードのことを諦めさせる時間を与えようとしたようだ。
そしてじわじわと政府に入り込み、信頼と実績を積んでから晴れて国王になる、との筋立てを考えていたようだった。
そして当のロランは自分の祖父がそのような企みをしていたとは知らなかったと一貫して主張している。もしそんなことを知っていれば祖父を止めていたし、自分はクロードの名代として立つことはなかった、と。
そしてフーリエ公爵はこの件には他にも協力した者がいたと何人かの名前を挙げ……それには思わぬ人物も含まれ、自分と道連れに自分の政敵だった者を葬ろうとしているとの疑いもあり詳しい調べが必要とのことだが、ただなにも知らなかったロランは無関係だ、と主張しているそうだ。
「では……ロラン様のことは」
「しかし、このまま無罪放免では他に示しがつかない。俺はロランのことをよく知っているし、あいつがそんな大それたことが企むはずがないと信じているが、それでも罪がないわけではない。自分の祖父の企みに気付かなかったと言っているが、それは気付くべきだった。生まれながらにして、自分は利用されやすい立場であると自覚するべきだったし、注意を払うべきだった。その点は過去に俺も忠告している。だが、それができなかった」
王族としての義務だとか責務だとか、その重圧についてブリジットは全て理解しているとは言いがたかく、クロードの言っていることに間違いはないと思えた。
思えた、が、やはりロランを処刑するのは間違っていると思うのだ。
「クロード様は……こちらにお戻りになってから本当に生まれ変わったようになったと評判です」
今までならば敵と見たら問答無用で斬り捨てるような人だった。
それが、自分が命の危機に晒された上に酷い辱めを受けたにも拘わらず、それを仕掛けた者に対する対応は温情に満ちている、とも言えるようなものだった。長い時間をかけて詮議を行った上で、フーリエ公爵の罪を明るみに出し、それに加担した者をあぶりだしていった。その結果、クロード暗殺に関わったのは二十人ほどと絞られた。今までのクロードならば、満足に取り調べもなくその三倍以上の人物を処刑していただろうに。まどろっこしい、という声も彼の側近から上がったほどだという。
「そうだとしたら、お前のおかげだな」
「私の意見を聞き入れてくださったのならば、こんなに嬉しいことはありませんが……」
「それから、今は戦時中ではないということもある。外国との戦争も、内戦もひと段落している。戦時中は早さが全てだ。ゆっくりと取調べなどしている時間がなかったこともある」
「左様でございましたか」
「まあ、俺が気が短いということもあるがな。不快なものはすぐさま排除したい」
こういうところはやはり油断ならない。
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