19.王の逆襲
「クロード様は一時玉座を離れられましたが国王陛下であられるのですよ! 陛下の言うことは絶対です! 陛下が黒と言えば白であっても黒なのです。逆らうことは許されません。そうですよね、陛下?」
カロリーヌは親愛の微笑をクロードへと向ける。
「そうだ、いいことを言う。さすが俺の愛妾であるだけある」
その答えにカロリーヌは得意げな笑みを周囲にいる者たちへと向け、クロードへと頷きかける。
「ところで、お前は我が妻に対してずいぶんな態度を取ってくれたな」
クロードの鋭い視線がカロリーヌへと向かう。
「え……な、なにをおっしゃって……」
「我が妻に敵意を向けるということは、俺に敵意を向けるということだ」
「妻……そちらにいるブリジット嬢のことですか? そんな女、陛下のお母上があなた様に勝手にあてがっただけの女でしょう?」
「聞いていなかったのか? 俺が死の淵からなんとか戻って来られたのはブリジットのおかげだと。ブリジットは俺の命の恩人であり、俺の妻だ。お前ごときに侮られるいわれはない」
カロリーヌは蒼白な表情で、ぼんやりとブリジットを見つめた。
ついこの前まで自分が侮っていた者の立場ががらりと変わったことがなかなか理解できないといったようだった。
「それからお前は言っていただろう? 俺の身体が動かなくなったとき、今までさんざん振り回され、それでも国王だからと耐えて尻尾を振ってきたが、それももう終わりだ。こんな身勝手な男はもうたくさんだ、と」
「そ、それは陛下の意識がもうないと思っていたからで……」
「そうか、俺の意識がない、つまり、俺が聞いていないところでは今までもそんなことを言っていたのか。お前の本心を聞けてよかった。その言動だけでも万死に値するな」
そしてクロードが顎をしゃくると、騎士がカロリーナの両腕を腰に回させて、両手首をロープで縛り上げた。
「牢に繋いでおけ。どんな罰を与えるかは追って沙汰する」
騎士は了解したとばかりに頷いて、カロリーナを無理やりに歩かせた。
「そ、そんなっ、陛下! 私が今までどんなに陛下に対して尽くしてきたかお分かりなのですか。こんな仕打ちをするなんてあんまりです」
カロリーナは必死の形相で叫ぶが、
「そうか。では、今までのお前の尽力に感謝して、苦しまないように今ここで斬って捨てるか?」
クロードにそう言われ、カロリーナは神妙な面持ちとなって項垂れ、騎士に言われるままに広間から出て行った。
「クロード様……」
噂には聞いていたが、彼の厳しい態度を見て不安になったブリジットは、彼の背中にそっと話しかけた。
「そんな、罰を与えるなんて」
するとクロードは振り返り、ブリジットにだけ聞こえるような声で言う。
「あんな酷い扱いを受けたのに、あいつを庇うのか?」
「確かに彼女のことはあまり好きではありませんが、だからと言って酷い目に遭わせてやろうなんて思いません」
「お前は甘いな」
「そうかもしれませんが……」
そう言って俯くと、クロードは強張っていた表情を緩ませた。
「そうだな、お前に救われた命だ。お前には逆らえない」
そう言うと、クロードは再び広間に集まって者たちの方へと視線を戻した。
「この王宮内に俺に敵意を向け、俺を玉座から下ろして権力を握ろうと企んだ者がいるのが明らかだ。そして、それを見逃し俺の死を心待ちにしていた者も同罪だ。そんな者たちを一掃することも考えた」
その言葉に、広間に居る者たちが息を呑むのが分かった。誰もがクロードを怖れ、自分がこれからどうなるのかと心細く思っている心情が伝わってくる。
「そうすれば面倒がないのは山々なのだが、どうやら一度死んだも当然の俺を蘇らせた我が妻は、俺に生まれ変わったような気持ちで励めと言っていてな」
そしてクロードはちらりとブリジットをの方を見た。
「なにか知っていることがある者は申し出よ。悪いようにはしない。とりあえず、ここに居る者たちに騎士団の者たちが話を聞く。素直に話せばすぐに解放するが、虚偽の申告には容赦はしない。その辺りのことを心に留めよ」
クロードは一方的にそう言うと、玉座から立ち上がって広間から出て行ってしまった。
ブリジットはなおも不安そうな表情の人達を玉座の斜め後ろから見つめていた。
どうやらクロードはブリジットの言った事を聞き入れてくれたようで、きちんと罪の詮議をしてくれるようでその点は安心していた。
ただ、この中にクロードをあんな酷い目に遭わせた人がいると思うと、堪らない思いになった。
クロードもそうだっただろう。怒りを抑えて玉座に座って居たのかもしれない。
「……ブリジット様、クロード様がお待ちですよ」
不意に声を掛けられて見ると、そこにはエリーズの姿があった。彼女は広間にはいなかったはずなのにいつの間にここに、と思ってふとクロードが立ち去った扉の方を見ると、彼がブリジットのことを見つめていた。
まさか待たせているとは思っておらず、それからこういうとき、王が去ったら王妃も一緒に去るべきなのだろうということを思いつき、これからの自分の立ち居振る舞いについて不安になってきた。
「すぐに行きます」
ブリジットは広間にいる不安げな人々に躊躇いながらも背を向けて、広間から出て行った。
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