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18.王の帰還

 まだ日付が変わって間もない深夜、突如としてロザーヌ王国の王都キリアに姿を現したクロード国王率いる死神騎士団は、目にも止まらない速さで王宮を制圧をしたと伝えられている。なにも知らない市民たちは、夜いつも通りに寝て、起きたら王宮のすべてが変わっていた、という具合だ。


 死神騎士団は王宮の正面門からから堂々とやって来て、門を開けるようにと城門を守る者に要求した。最初はその正体に気付いていなかった近衛兵がそれを拒むと、馬車に積まれていた大砲で門を破壊した。

 その音に驚いた王宮の者たちが起きたときには、もう戦いの火蓋は切って落とされていた。

 死神騎士団は抵抗する者は殺す、素直に降伏しこちらに従えば危害は加えないと叫びながら行進し、彼らに剣を向けた者は容赦なく斬り捨て、降伏すると手を上げた者は広間へと連れて行った。


 誰もが彼らの目的を訝しがっていただろう。

 彼らが死神騎士団であることは、彼らが名乗ったことで分かったが、なんのために今更王宮に攻め入ったかは分からなかった。彼らを率いていたクロード国王はもう余命幾ばくもないと言われている。彼らは失意のうちに解散したはずだ。それが今更なぜ、と多くの者が思っただろう。


 そして、死神騎士団に広間に連れて行かれた者たちは、床に直接座るようにと言われた。

 誰もが焦燥し困惑しきった表情の中、驚愕の瞬間が訪れる。

 広間にある玉座に向かって、女性の手を引いて歩く者の姿が目に入ったのである。

 それは、死の淵にあるはずのクロード国王である。

 クロードは縛された者たちを見回してから王座にゆっくりと座った。

 そして彼に促されるようにブリジットはその斜め後ろの席に座る。まごうことなき、王妃の席である。


「……さて。聞きたいことはたくさんあるわけだが……」


 そのひと言だけで広間に居る者たちが震え上がったのが分かった。

 ブリジットもクロードの言葉には冷や冷やしていた。


「そっ、そんなことよりもクロード様……!」


 玉座の側近くに居た貴族の男が不意に立ち上がり、声を上げた。


「ご無事だったのですね! すっかりお元気な様子で……安堵いたしました! やはりクロード様があのままお亡くなりになるようなことはないと私は信じておりました!」


 クロードは頬杖を衝きながらその男の様子を観察するような瞳で見ていたが、途中で近くに居た騎士に向かって顎をしゃくった。騎士はその男の背後から近づき、首に腕を回して無理やりに引きづるようにして広間から連れ出してしまった。


「……さて、うるさい者がいなくなったところで話を続ける」


 その言いように、もう彼になにかを言おうとする者はいないようだった。皆一様に怯えきったような表情をしている。


「俺は妻の献身的な看護によって死の淵から蘇ることができたわけだが、どうやら俺が身体の自由を奪われたのは戦での怪我のせいではなく、そう仕向けた者がいるようでな」


 動揺が広がる。その場に居た、二百人近くの者たちが、近くに居る者と顔と顔を見合わせた。


「身体の自由がきかなくなる特殊な薬を盛られていた。共犯者は捕らえてあるが、首謀者は不明だ。……まあ、だいたい見当はついているが」


 クロードは広間をゆっくりと見回してから、脚を組み替えた。


「政治的な思惑が働いていることは間違いない。ならば、この王宮の者が俺を玉座から引き摺り下ろそうとしたことは明白で、それを見逃した王宮の者たちは全て共犯者と見なしてもよかったのだが」


「……そっ、それはいくらなんでも乱暴です……! 私たちはなにも知りません」


 とうとう堪らなくなったのか、侍女かと思われる女性が声を上げた。


「そうです! 我々はクロード様がご病気だと聞いて疑っておりませんでした!」


「なにも知らない我々を断罪なさるのですか……!」


 悲痛な叫びが次々と続いていった。

 今までのクロードのやりようからして、この場にいる者を皆殺しという畏れもあるのだと皆知っているようだった。現に、かつて反乱を起こした諸侯に対して、そのような措置を取ったことがあった。


「お黙りなさい!」


 突如立ち上がり、突然叫んだ女性がいた。

 誰だろうと声がした方を見ると、なんとカロリーヌであった。

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