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11.王都への道中、新たなる計画

 クロードたちの一行は、リュートブルグ古城を出て王都キリアへ向けて密かに行軍を続けていた。


 人目を避けるために商人であるように装って旅を続けていた。じゃがいもや小麦を載せていると装った荷台には大砲や銃などの武器が詰まっていた。五日ほどでキリアまで辿り着く予定になっている。

 ブリジットもドレスではなく町娘のような格好をして同行していた。ブリジットが頼み込んでエリーズも一緒であった。


「それにしてもまさか……こんな展開になるとは思ってもいませんでしたわね」


 エリーズはこの旅に出てから何十回目になるだろうことを言って、また深々とため息を吐き出した。

 ブリジットとエリーズは五台ある馬車のうち、前から三台目の馬車に乗っていた。警備のための騎士も同乗している。元は荷台であるが、敷布を敷いてクッションなどが積み込まれていたため、意外と乗り心地は悪くない。整備された街道を進んでいたのもその理由のひとつだろう。


「そうね。私も辺境の静かな地で一生を過ごすのかしらと思っていたのに、まさか王都へ行くことになるとは。きっとお父様たちは驚かれるわ」


 ブリジットは苦笑いを漏らした。

 驚くどころか、衝撃のあまり立ち上がれなくなるのではないかと思ってしまう。


「結局、あの城でこの件に拘わっていたのはシモンだけで、他の人たちは疑いが晴れてよかったわ」


 そのシモンは後から来る馬車に乗せられていた。王宮に一気に乗り込み、謀反人を捕縛してから、その証言をするために連れて来られていた。そのことにブリジットは安堵していた。そうならば、シモンは彼の両親や兄弟に会う機会があるかもしれない。


「左様ですね。ただ、王都までの同行は許されたなかったのでフィリップは嘆いていました。彼はクロード様を敬愛してらして、最後までお世話をする心づもりでおりましたのに、こんな辺境に取り残されて、と」


 フィリップや他の数人はまだリュートブルグ古城にはクロードが居ると装うためにあれこれ手配するという役割を請け負ってくれた。王宮から届く手紙をやり過ごすのも彼の役割だった。彼はシモンの企みに気付かずに結果協力させられてしまっていたことを悔いていた。

 クロードは自分が意志が表せない間、フィリップは自分を威厳ある『人間』として扱ってくれたから、とても有り難かったし信頼していると彼に告げ、それがフィリップにとってはとてつもない喜びだったようだ。


 本当は途中で扱いが雑になっていったので、ひと言言ってやりたいこともあったが、とクロードはこっそりブリジットに語った。それでもフィリップの世話は、他の者に比べたら段違いに丁寧なものだったそうだ。ブリジットには敵わないけれどな、と付け加えられたけれど。


「なにより、無事に済めばいいけれど……。心配だわ」


「無事で済むはずがないではありませんか! もちろん私たちではなく、王都でふんぞり返っている人たちですけど」


「ええ、そうなのよね」


 クロードは想像を絶するような辱めを受けたのだ。それを企んだ者をただで済ますだろうかという心配がある。まさか、王宮に居る者を問答無用で斬り捨てるようなことはないか……そのようなことはしないで欲しいと伝えてはいるが、激情に駆られた彼がなにをするのか心配なのである。


「まあ……クロードをあんな目にあわせたのだ。それなりの覚悟はあるだろう」


 そう言ったのはギーだった。

 ブリジットの警備は日替わりで、今日はギーだった。どうやら彼は騎士団の副官という立場でありながらサボり癖があるようで、なにかと楽な役割をやりたがるようだ。今日も、王妃様の無事を守るという名誉ある、そして重大な役割を拝命してこそ、国王の信頼を受けた者として光栄だとかなんとか言っていたが、こんなところで襲われる可能性は低いし、楽だということで役割を引き受けたのに決まっていた。


「やはり……そう思うわよね?」


「まあ、愛する王妃様が口をすっぱくして平和的に事を収めて欲しいと言っても、あいつの性質からして難しいだろうな。一度なにかを始めると歯止めが利かない奴だ」


「あまり大事になってくれないといいのだけれど」


「それは無理な話でしょう。考えても見てください? 王座をかけた戦いなのです? 長い歴史の中では王座を争って何十年も身内で争ったなんて話もあるくらいですから」


「……そうよね」


 それでもなんとか、できる限り穏便に済むことを願いながら、ブリジットは馬車に揺られていた。


        ★・・◇・■・◇・・★


「少し作戦を変えることにした。お前の出番だぞ、ブリジット」


 森の中の広場に張られた大きな天幕の中で、ものものしい作戦会議の場に呼び出され、なにかと思えばそんなことを言われた。


「あの、どういうことでしょう?」


 厳しい顔をした騎士たちを従えるようにして座るクロードに問うと、彼は不敵な笑みを浮かべた。


「やはりこのまま攻め入るのは得策ではないということになったのだ。少しなりとも内部の様子を確かめたい。それで、俺とお前が先に王宮内に出向き、内部の様子を探ることになった」


「……やはりそのようなお戯れはやめませんか? 結果は変わりますまい」


 クロードの側に控えた騎士がそう言うが、クロードは無言でそれを制する。


「あの……確かに、私が王宮の様子を確かめに行きます、とは言いましたが。私とクロード様が?」


「大丈夫だ、俺はお前の従者ということにする」


「まったく意味が分かりません。クロード様が私の従者ですって? すぐに正体が露見してしまうに決まっています」


 クロードは身体が大きいし、持って生まれた王者の風格というものなのか、とても目立つ。どんな変装をしても無駄だと思うのだ。


「見損なうな、これでも変装は得意だ」

「……それは存じ上げませんでしたが」


「それにもし正体が露見したところで、大した問題ではない。そのときには騎士団の者たちをすぐに王宮に突撃させる手はずは整えている」


 クロードは不敵な笑みを浮かべた。


 これは無茶苦茶な提案であるように思えて、もしかしてできるだけ平和的にことをおさめたいと主張する自分に配慮してくれているのかもしれない、と思い至る。


「どうだ? やるのか、やらないのか?」


 そう迫られて、頷く以外の選択肢はブリジットにはなかった。

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