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3.シモンへの尋問

 地下に入った途端にひんやりとした空気に身体全体が包まれた。どこからか水が滴り落ちているような音が聞こえる。


 先導するギーが持つランプの光だけが頼りの、暗い空間だ。周囲は細長い石を積み上げた壁になっていて、石の床には足音がやけに大きく響く。かび臭さが鼻をつき、あまり長居をしたくないと感じる。

 細長い通路をしばらく歩いたところに、鉄格子がはまった部屋があり、そこにシモンが捕らえられていた。


 天井から下がった縄で手首を縛られていて、猿ぐつわを咥えさせられていた。ブリジットが来たことに気付いたようで、少しだけ顔を上げたが、すぐに元のように視線を下げた。


「シモン、お前の優しいいとこ殿が会いに来てくれたぞ」


 ギーはブリジットを残して鉄格子の中に入り、シモンの猿ぐつわを外した。


「クロード様の最後の温情だ。親族の者に最後の挨拶でもしろ」


(さ、最後の挨拶って……)


 まさかシモンは間もなく処刑されてしまうのかと畏れたが、それを口にはしなかった。本当はそんなことはさせたくないが、彼の罪の重さを考えたら仕方がないかもしれない。

 ギーがこちらに向かって顎をしゃくったので、話せということだろうと了解して鉄格子越しにシモンに話しかけた。


「シモン……どこか痛むところはない? ちゃんと食べさせてもらっているの?」


 ブリジットの言葉に、シモンもギーも奇妙な顔つきになった。

 なにか変なことを言ったかと思うのだが、この状況を目前にして、まず確認したかったのが身体的なことであった。

 シモンの顔は大きく腫れ上がり、腕や腹や胸にも怪我をしていそうである。状況を考えれば仕方がないが、それでも苦しんでいるだろう人を目前にしたら、それをどうにかしてあげたくなってしまう。


「……変なことを聞くな。飯なんてもらえるわけないだろう? あんなことをして」


 吐き捨てるようにシモンは言う。すっかり卑屈になっているような口調だ。

 そしてその話し振りから、もう彼はブリジットが頼りにしていたいとこのシモンではないと分かった。それはとても残念なことだったが、覚悟はしていた。


「あんなことをして、ということは自分がどんなに大それたことをしたのかは分かっているのよね? どうしてなの、シモン。クロード様にお仕えできること、あんなに喜んでいたのに」


 シモンはブリジットに睨むような視線を向けつつ、首を小さく横に振る。


「そんなこと、聞いてどうする?」

「どうする? そうよね……。私は一体どうしたいのかしら?」


「なんだって?」


「理由はどうあれ、あなたはあんなことをしてただで済むはずがないわ。恐れ多くも国王陛下に毒を盛っていたのだもの。誰かに命じられたのか、それとも自分だけの判断でしたことか分からないけれど」


「あいつに……お前の夫に頼まれたのか? 首謀者を吐かせろ、とでも」


 シモンは苦笑いを漏らす。まるでこちらのことなど信頼していないという目つきだ。


「いいえ、違うわ」

「では、なぜこんなところにまで来た? 俺の両親には……そうだな、その身に相応しくない愚かな欲望を抱いた挙げ句にそれに失敗して断罪されたとでも伝えておいてくれ」


「ええ、それがあなたの願いならばそう伝えておくけれど。それよりも私が知りたいのは……大切だったはずの人に毒を盛るのはどんな気持ちなのかということかしら?」


 ブリジットの問いに、シモンは沈黙した。

 考えてみたら、一番シモンに問いたかったのはそのことだった。


 ブリジットの母はブリジットに長年毒を飲ませた。それはどんな気持ちだったのだろうとときどき考えてしまう。だから同じように大切だったはずの人に毒を飲ませるとは、どんな気持ちだったのか、そしてどんな理由だったのかと気になったのだ。


 薄暗く静謐とした地下室に、奇妙な空気が流れる。

 やがてシモンは喘ぐように息を吐き出してから呟くような声で言う。


「……なぜそんなことを聞く?」

「そうね、私も毒を盛られたからかしら?」


「……これはこれは……。王妃さまはとんでもないことを言い出す」


 鼻で笑ったシモンに、ブリジットは自分の秘密を話していった。母親にずっと毒を盛られていたことだ。

 初めは年頃の娘にありがちな妄想かと呆れた様子で聞いていたシモンだったが、話が具体的だったので信憑性が高いと分かったのか、神妙な顔になっていった。


「私は……もう二度とお母さまにそのことを……どうして私に毒を盛ったのか聞けないから。だから、同じようなことをしたあなたに、毒を盛るとはどのような動機で、どんな気持ちだったのか聞きたいのかもしれないわ」


 母が生きていて、話を聞くことができたら、どんなに酷い理由だとしてもその真意を尋ねてみたかった。

 シモンは沈黙を続けていた。


 そんなことを自分に聞かれても困ると思っているのだろうか。それはそうである。しかしブリジットは聞いてみたかった。


 やがて、シモンは決意したのように語り出す。

「あの優しそうなミレーヌ伯母さんがそんなことをしていたなんてな」

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