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39.国王と王妃

「……すまない、まさか怒らせるとは思っていなかった。敵を欺くにはまず味方からと言うだろう? まさかお前が俺の敵であるなんて、欠片も思ってはいない」


 簡単な夕食を終え、今日は疲れているでしょうから早くお休みになっては、とエリーズが寝仕度を整えてくれた。でも、いつものように寝付くことはできないだろうなと思い、ランプが仄かに灯る寝室で物思いにふけっていると、急にクロードがやって来て、寝台に腰掛けていたブリジットの前に跪いてそんなことを言い出した。


「実のところを言うと……急に回復した俺を見せて、お前を驚かせて、喜ばせたかったのだ。お前は一心に俺の回復を願ってくれていたから」


 急にそんなことを言われて戸惑い、なんと言っていいか分からず、ただクロードの顔を見て頷くことしかできなかった。


「急にあんなことになって……事情を説明できずにすまなかった。まさか騎士団の奴らまでやって来るとは思わなかった」


「そ、そうでしょうね……」


 突然城に攻め入るようにやって来た死神騎士団の数は五十人ほどだろうか。ギーは声を掛けた、と軽く言っていたが、それだけのことで急にこの人数が来るとは驚きだった。そもそも、死神騎士団は精鋭揃いで数を限っていて、七十人ほどが所属している騎士団だと聞いていた。


 そして彼らは臨戦態勢でやって来るなり城のあちこちを荒らして回り、やがてクロードの無事を知るとその回復を大いに喜び、宴を始めてしまった。ブリジットの部屋にまで、笑い声や歌声が聞こえてくる。


「もっと早くに話に来るべきだった。しかし、騎士団の奴らが離してくれず……いや、そんなことはただの言い訳だな。……そんなに怒らないでくれ。口も利いてくれないだろうとギーの奴は言っていたが……」


「別に……怒っているわけではありません。ただ、驚いて。どうお話してよいかも分からず」

「そうか。ならばよかった」


 そう言ったかと思うと、クロードは寝台に座るブリジットの隣に腰掛けた。かなり近い距離である。思わず身を捩ると、クロードはブリジットの手に自分の手を重ねてきた。


「正直に言うと、お前が薬をすり替えてくれてから三日目には僅かに身体を動かせるくらいにはなっていたのだ。だが、本当に僅かだ。それから徐々に動けるようにはなっていったが……無様なものだった。立ち上がろうとして床に叩きつけられ、なんとかもがいて元のように寝台に戻って。そんなことの繰り返しだ。そんな姿をお前には見せたくなかった」


「そんな……、言ってくださったらよかったのに。私、クロード様のお手伝いがしたかったです」


 ブリジットの言葉に、クロードは不意打ちを喰らったような表情になり、ブリジットの手を更に強く握った。


「そうだな、お前ならそう言ってくれると思っていた」

「ええ、もちろんです」


「……すぐに身体を動かせるようになったのもお前のおかげだ。身体が動かせない間、身体の血の巡りをよくするために身体をさすったり揉んだり、関節を伸ばしたりしてくれたからな」


「お役に立てたならよかったです……。私にできるのは、本当にそんなわずかなことで……」


「わずかだと? そんな謙遜するな。俺の命が助かったのはお前のおかげだ。お前みたいに勇敢で、それであって慎重で、情けが深い者は他にいない。お前がいなかったら、俺は惨めに生涯を閉じていただろう。お前には感謝しかない」


「そんなお言葉、もったいない……」


 ほっとしたのか、急に涙が溢れ出した。

 なにより、クロードが自分が思っていたように話しづらい人ではなくてほっとしていた。こちらの言うことなど一切聞き入れてくれないような冷たい人かと思っていたが、そうではなかった。


「すまない。もうお前を泣かすようなことはしない」


 そうしてクロードはぎゅっとブリジットを抱きすくめた。

 思ってもいない温かさにまた涙腺が緩んで、ブリジットは今まで堪えていた悲しみも理不尽さも、全てを吐きだすように泣き続けた。

これにて第一部完になります。

第二部もすぐに更新始める予定ですので、引き続き読んでくださると嬉しいです!


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