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35.すべては見破られていた

 今までの彼の優しげな口調から、触れるのすら恐ろしい、ひりつくような口調になる。


「裏手の森で薬草を摘んでいたな? それから、中庭でも薬草を摘んでいる姿を見かけたことがある。森にも中庭にも毒になるような草は生えていないと聞いた」


「聞いた……とは、誰に?」

「それから、お前の部屋に薬草に関する本があった。あれは毒ではなく薬だろう?」


「それを知っていて、どうして毒だなんて……」

「お前が余計なことをしているからだ。陛下に薬を飲ませるだと? せっかくここまで弱っているというのに」


 そうしてシモンが浮かべた悪辣な笑みに、気が遠くなってくる。

 彼がクロードに毒を盛っていたのだ。


 毎夜、クロードに薬と偽って毒を飲ませるようにと指示していたのはシモンだったのだ。灰白色の外套の男から毒を買っていたのは彼だったのだ。


「あなた……あなたがクロード様に毒を……?」

「ん? なんのことだ……? と言いたいところだが……。どうして気付いた?」


「まさか、そんな恐ろしいことを……。クロード様の妹の家庭教師から、クロード様の従者となれたこと、あんなに喜んでいたのに」


 ブリジットはかつてのシモンの様子を思い出していた。

 シモンはクロードの元で働けることを喜んでいたはずだった。真面目で実直で……そんなところをクロードに買われたのだろうと彼の父も喜んでいた。彼は一族の誇りであったはずだ。


「なぜ? そんなことをお前が知る必要はないな。なぜなら、お前はクロード陛下を殺そうとした罪の重さに耐え切れず、今からこの毒を飲んで死ぬんだからな」

「毒……」


 シモンは懐から透明な液体が入った小瓶を取り出した。


「死にぞこないの、余命幾ばくもない大人しくて愚鈍でなにもできない女だと思っていたが、違ったようだ。あれこれとクロード陛下の世話をして目障りだと思っていたのだが……お前を始末できるいい機会ができた」


「な、なにを言っているの……?」


「いいか、お前はクロード陛下の世話をするうちに、その身を悲嘆するようになり気が狂って陛下を殺して自分も死のうと思った。しかし陛下を殺すことはできなかった。我らに陛下に毒を盛っていると気付かれてしまったから。そうして悲嘆の中で自ら命を絶った……」


 シモンはブリジットの手を取り、そこに無理やりに小瓶を握らせた。


「安心しろ、苦しみは一瞬で終わる」

「な、なにを……」


 小瓶を握る手が震える。喘ぐように息をしながらシモンを見つめる。彼はブリジットの手首を握ったまま離さない。その目は深遠の闇に沈み、ブリジットに死ねと命じている。


「なんなら、毒を飲んで苦しんでいるのを見ていられなかった俺がお前の喉を剣で突いたということにしてやってもいい。後でそれらしくその小瓶を割っておけばいいか」


「た、たすけ……て」


 ふとクロードの方を見る。

 彼は静かにそこに座っていた。

 もし彼が動けたならば、自分のことを助けようとしてくれただろうか。


「命乞いなどしても無駄だ。どうやらお前は俺のしたことを知っているようだからな」

「こんなことをして、ただで済むはずがないわ……」


「はっ! なにを言う? お前のような女を殺してもなんの報いも受けるはずがない。どうせもうすぐ病で死ぬのだろう? それにお前の家族も、お前のことなど邪魔だとしか思っていなかった。いつも部屋に寝たきりで、家が暗くなるとみんな言っていた。早く死んでくれないかとみんな思っていたさ」


「そんな……そんなこと……」


 ブリジットの目から涙が溢れた。

 本当は知っていた。自分が家族の中で邪魔に扱われていたことを。


 そんな中でブリジットを守ってくれていたのは母だった。ブリジットに毒を盛って、ブリジットから自由を奪った母……。死なないようにブリジットを生かしていた母に全て支配されていながら、それにすがって生きていくしかなかった愚かな自分を思うと、堪らなくなってなにもかもどうでもよくなっていく。


「お前には生きている価値などない。今死ねばせめて王妃として死ねる。お前の父親も喜ぶだろう、王妃としての名前を残して死ぬんだ」


「わ、私は……」


 もうシモンの言葉に従うしかないのだろうか。

 そう諦めかけてふとクロードの方へと、もの言わぬ夫の方へと目を向けた。


 ……そこには彼の姿はなかった。

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