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31.薬草を摘む王妃

 たまには城の外にも出てみては、とエリーズから言ってもらえたのは幸運だった。


 こんな高い塀に囲まれた、閉塞的な空間に閉じこもりきりとは気の毒だと思ってくれたらしい。しかもここでは気晴らしに晩餐会や舞踏会が開かれたりしない、尋ねて来るような友人もいない。さすがに気詰まりだと思われたようだ。


 では、クロードも一緒に、というのは却下されてしまった。車椅子があるのだからどこにでも行けるのでは言ってみたが、駄目だった。


 外に出る、と言っても近くの街まで行くようなものではなく、城の裏手にある森を散策するというものだった。紅茶のセットと軽食を持って、どこかでピクニックをするのはどうでしょうと言われて、大喜びでそれに賛同した。


「ほら、見て。こんなにハーブがたくさんあるわ。本でしか見たことがないようなものもあるわ! すごいわっ」


 エリーズと、警備兵をひとり連れて城の裏手にある森へと来て、ブリジットがはじめたのは薬草探しだった。


 目的地は森の中にある湖で、そこのほとりで紅茶でも楽しもうと紅茶のセットと焼き菓子を持って来たのに、はじまったのが薬草探しだったので、エリーズたちは驚いた様子だった。

 まさか王妃が道を外れて、草むらにしゃがみ込んで、嬉しそうにハーブを摘むなんて想像していなかったのだろう。


「そんな草を取ってどうするおつもりですか? 花を摘むのならばまだ分かりますが……。早く湖に行かないと日が暮れてしまいますわよ」


 エリーズは困惑した様子で話しかけてきたが、ブリジットは振り返ることもせずに薬草摘みに没頭していた。


「だって、滅多に外に出る機会なんてないんだもの。お茶はお城の中でも飲めるけれど」


 そんなことを言いながら、どんどんとハーブを摘んでいく。

 このハーブを摘んで、解毒剤を作るのだ。

 それはかつてブリジットが自分で飲むために作ったものだった。


 毒を飲まされていたなんて誰にも言えなかったから、しかし自分の身体の不調を治すために本で読んだ知識で解毒剤を作ったことがあった。身体に溜まった毒を排出する効果があり、それを飲み始めてからブリジットの体調はますます順調に回復していった。それを、今度はクロードに飲ませてはと思ったのだ。


 毒の服用はやめさせているが、クロードは一定以上の回復を見せていない。未だに自分の意志では指先ひとつ動かすことができない。ブリジットが関節を動かしてみたり、血行をよくするためと身体を揉んだりしていたから、以前よりは皮膚の調子もいいし関節も滑らかに動くようになっていたが、誰かの力を借りないと動かないのは相変わらずである。


(時間がかかるだろうことは分かるけれど……。うかうかしていたら毒をすり替えていることも気付かれてしまいそうで)


 ブリジットはこのところ焦っていたのだ。


 クロードの元へ来てからそろそろふた月が経とうとしていた。彼の回復を信じているが、あまりゆっくりもしていられない。身体が弱って徐々に死ぬ……ことを待ちきれなくなった者によって、別の毒を盛られてしまう可能性もある。その場合、身体を動かせないクロードは抗うこともできないだろう。


「ブリジット様がハーブにご興味があるとは知りませんでしたわ……」


 そう言いつつ、エリーズはハーブを摘むのを手伝ってくれた。警備兵は退屈そうな顔をしながら、ときどき周囲の様子を警戒しながらその場にじっと立っていた。


「その他に作物を植えることにも興味があるわ。今読んでいる本が農業に関する本だから。ねえ、お城のどこかに畑を作ることはできないかしら?」


「さあ、いかがでしょうね?」

「ああっ、向こうにミントが群生しているわっ。これを摘んでミントティーにしましょう」


 そうして夢中になってハーブを摘んでいるうちに昼を過ぎたので、今日はもう湖まで行くことを諦めて、その場でひと休みしてお茶とお菓子をいただくことになった。


 エリーズとお付きの警備兵がこっそりと『変わった王妃で……』と話す声が聞こえたが、そのような捉え方をされたならばよかったと安堵した。少なくとも、クロードとのことを疑われてはいなそうだ。


 そしてブリジットは目的の薬草を手に入れ……エリーズからしたらそれはただの雑草あるいはハーブで、雑草摘みをする変わった王妃との見解になったようだが、満足して城へと戻った。

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