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27.秘密のやりとり

「……ということで、もしかして私に飲まされていた毒と、あなたが飲まされている毒は同じ人が秘密裏に売っているものかもしれないわ。よくよく考えたら、ただの即効性の毒薬ならば扱うのは楽だけれど、人を死なせないように長期間苦しめるような薬を調合するのは難しいし、その飲ませる量の調整も難しいもの。そんな調合方法を熟知している薬師……滅多にいないのではないかしら?」


 外は嵐かというような風雨だった。

 ブリジットはクロードを車椅子に乗せて城の一階にある礼拝室にやって来ていた。

 白灰色の石が積み上げられた壁に、細長い窓が等間隔で並んでいる。祭壇の上には大きな十字架あり、長椅子が整然と並んでいる。


 この礼拝室には秘密の通路もなければ隣の部屋から盗み聞きもできないとは分かっていた。その上この風と雨の音では、普通に話している声も聞き取りづらいくらいだ。


「薬はまたすり替えておいたわ。具合はどう? すぐに動けるようにはとてもなれないとは思うけれど、自分でよくなっているように思う?」


 その問いに対しては、瞬きがなかった。

 ふたりの間で、同意は二回、違うは一回、分からないは瞬きしない、とのことで決めていた。

 分からない……そうだろう。薬を止めてからまだ十日ほどである。それほど劇的な変化があるはずもなく、そして、一度失ってしまった身体の機能が毒を絶ったからと戻るかどうか分からない。


「これからどうしたらいいのかしら……。私がもっと行動力があって、物事の道理に通じて、信頼できる人がいて、あなたを救う力があったらよかったのに」


 自分の無力さが嫌になってくる。

 物語に出てくるような、ドラゴンにも怯まない勇敢な姫であったらよいのにと思う。

 大きな秘密と陰謀を知ったが、それにあらがう力はない。


「こんな城から本当はあなたと一緒に逃げるべきなんでしょうけれど、身体が動かないあなたと一緒にどこまで逃げられるか分からないし、どこに行ったらいいかなんて分からないわ」


 こんな状況で、実家を頼るなんてできない。


 遠方に嫁いだ姉ならばもしかして頼れるかもしれないが、ブリジットは姉が嫁いだ相手の名前しか知らない。そしてそこまではどうやって行くのか……。ブリジットは馬にも乗れないし、そもそも身体が動かないクロードを連れてどうやって? 馬車を調達し、御者を雇ってどこかへ出奔するようなまとまったお金も大胆さもない。


「せめて、あなたがもう少し動けるようになったら……とは考えるけれど」


 クロードはなんの反応も示さない。

 ブリジットはため息を吐き出して、礼拝堂の長椅子に腰掛けた。雨音と風音が大きく響く礼拝堂で、これからどうしたらいいのかとずっと考え続けていた。せめて味方を見つけられたらと思うが、下手なことはできない。


(まさかこんなことになるなんて……私に、もっとなにかできたらよかったのに)


 考えても仕方がないことばかり考えてしまい、ブリジットの心は深く沈んでいった。


「結局……私は無力であなたのためになにもできない……」


 そう呟いて、ふとクロードの方を見ると、彼は素早く一回瞬きした。


『そんなことはない』


 そう言ってくれているように思えて、ブリジットの目に涙が滲んだ。

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