24.秘密の正体
「もしかして持病が悪化されたのですか? 頭痛で起き上がることもできないなんて」
朝、起こしに着たエリーズに気づいて体を起こそうとしたのだが、なぜだか力が入らなかった。
そして見ると手が震えていた。息苦しさも感じる。
どうしたのかとエリーズに聞かれて、そのままの症状を言うのはいけないと判断して、咄嗟に酷い頭痛で寝台から起き上がれそうにないと答えたのだった。
それはいけないとエリーズが慌てて医師を呼びに行って……仮にも王妃が病で倒れているのに診察を拒否するわけにはいかないと考えたのか、渋々ながら駆けつけてきた年老いた医師は脈を取ることも聴診器を当てることもなく、軽い風邪でしょうと言った。安静にしていればすぐに治る、と。
しかしブリジットには風邪のようにはとても思えなかった。医師がやって来た頃には大分身体に力が入るようになっていたが、明らかにおかしな症状だった。
そうして思い出すのは、昨夜ほんの少しだけ舐めたあの薬のことだった。
(もしかして……いえ、そんなことは決してないとは思うけれど、万が一、可能性のひとつとして……クロード様はあの薬を飲まされているために動けなくなっている……なんてこと、あるわけないわよね?)
そう思いついたとき、世界がぐるりと廻るような衝撃が身体を貫いた。
いえ、まさか、そんなことはあるはずがないと否定するが、でも……とまた考えてしまう。
(以前の私のように……誰かに怪しげな薬を飲まされているために身体の自由を奪われている……? いえいえ、まさか、そんな恐ろしいこと、あるわけないわ。だって、彼は私とは違う、国王陛下なのよ……。身体だって私よりもずっと丈夫で……いえ、でも)
否定する気持ちと肯定する気持ちが交錯する。
すべては自分の妄想である。
空想も妄想も得意だ。体調が悪く、ずっとベッドの中に入っていると色々なことを考えてしまう。楽しい想像も、悲しい想像も。もし、このまま死んでしまったらどうしようとか、でも死んだ後に生まれ変わって今度は広い中庭を思いっきり走り回れるような健康な身体を手に入れられるならばいいな、なんてこと。
だから、これはきっと私の考えすぎの間違いだのだと思い込もうとするが、一度生まれた疑いの芽を潰すことは難しかった。
(私はほんの少し飲んだだけでこんなことに。私は薬には人より耐性があるはずなのに……)
寝台に横たわりながら、ぐるぐるとそんなことばかり考えてしまった。
★・・◇・■・◇・・★
昼はずっとベッドに上で過ごし、夜になると体調は回復していたが、エリーズにはまだ頭痛が酷くて起き上がれないと言っておいた。今夜しようと決めた行動を失敗なくやり遂げるためだ。
することは決まっていた。あの薬を他の薬と入れ替えるのだ。
白っぽい粉末だからよかった。小麦粉とすり替えても気付かれることはないだろう。
ブリジットは誰もが寝静まっているだろう夜明け前、こっそりと厨房まで行き、月明かりを頼りにして包みの中身を全て小麦粉と入れ替えた。
残っている薬は十二包。補充されるタイミングでまた入れ替えないといけない。そして、これはどこから調達されてくるのだろうと疑問に思う。薬……というより毒だが、こんなものを扱える者は滅多にいないだろう。大量に仕入れられてこの城のどこかの部屋にあるのだろうか。
とりあえず、今できることはした。
ブリジットは足音を忍ばせながら自室へと戻った。もう足音を立てずに歩くことに慣れてしまった。今、誰かと鉢合わせることがあったら自分が幽霊だと思われるだろうなと思いながら歩き、幸運なことに今夜も誰にも会うことなく自室に戻った。
あの毒をずっと飲まされ続けていたとしたら、たかが一日や二日それを絶ったところでどうにもならないと分かっていた。自分のときも、母が死んで毒を飲まされないようになってから、体調の変化を感じたのはひと月ほど経ってからだ。
それにクロードが飲まされている毒はきっと自分のものよりもずっと強力なもので、もう手遅れという可能性もある。
でも、それでも、薬を絶ったことでクロードが回復して、元のように動けるようになったら。
そんな僅かな希望にすがるような思いで、ブリジットは寝台に座って窓から差し込む月の光を見ていた。もうすぐ夜が明ける。
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