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23.彼のことが好き?

(話したこともない相手を、好きだなんて。一度だけ舞踏会で見かけたときには、怖そうな、とても好きになることはできそうもない人だと思ったのよ? 向こうだって、私のことなんてきっと道端の草くらいに思ってくれないだろうなって)


 ただ、彼のことを救いたいと思う、大切に思う……この気持ちは愛情なのだろうか。


「好きかどうか分からないけれど、情はあるのかもしれないわね」


 それが偽りざるブリジットの気持ちだった。

 せっかく縁があって夫婦になった。


 そして毎日彼の顔を見に行って、中庭を散歩して、彼のためにキルトでひざ掛けを作ろうとして。知らないうちに気持ちを移したのかもしれない。

 彼は治らない病で、きっと年を越すことはできずに死んでしまうのに。


「ですが、クロード陛下と寝室を一緒にするのは難しいかと思います」


「どうして? 夫婦なのに?」


「そうですね……。この城にいる、クロード様に長く仕えている人があまりよい顔をしないかと……」


「それこそ意味が分からないわ。愛人の誰かが嫌がるのならば分かるけれど。私はクロード様の妻なのに」


「その、申し上げにくいことなのですが……」


「きっと私がクロード様に選ばれたわけでもない、政治的な思惑で選ばれただけの妻なのに大きな顔をするのは許せないとかそういうことでしょう?」


「ええ、そのようなこともあるかもしれないですね」


「そう、分かったわ」


 歯切れの悪いエリーズをこれ以上困らせたくないと、ブリジットはそれで話を打ち切った。

 やはり奇妙に思われることなのだろうか。夫婦とはいえ、重い病の夫と同じ寝室で寝起きしたいと願いことが。

 ブリジットとしてはただ、誰がなんの目的でクロードに怪しげなものを飲ませているのを知りたいだけで、そのためには常に彼の側にいるのがよいと、それだけなのだが。


(こうなったら、今夜もクロード様の部屋で待ち伏せるしかないかしら?)


 あそこの通路は狭いし埃臭くて、そしてドレスが汚れるから嫌なのだけれどとためらうが、そんなことを言っている場合ではないだろう。


「私は少し横になるわね」


 そう言って寝台に向かい、そっと横になった。

 まるで寝る気はなかったのだが、さすがに心身共に疲れきっていたのだろう。昼前から横になり、気がつくと日が傾く時間になっていた。


        ★・・◇・■・◇・・★


 夜な夜なクロードに怪しげな薬を飲ませているのは誰なのか。

 昼の時間をクロードと共に過ごしながらも、そのことばり考えてしまう。

 三晩見張った結果、何者かは夜やって来てクロードに怪しげな薬を飲ませていた。


 次にはその者の正体を知ろうと、その者がやって来る時間を見計らって、クロードの部屋へと続く通路の陰で息を潜めていたのだが……なんとそれは日ごとに違うのだ。クロードの世話係だったり、料理長だったり、掃除婦であったり、警備兵だったり。彼らが結託しているのか、と思うと周囲が全て敵のように思えてきた。


 とにかくあの薬の正体を知らないと、と思い、今度は厨房を見張った。


 すると、夜、厨房でミルクをコップに注いだ後、厨房にある引き出しから羊皮紙に包まれた薬を取り出して、それを持ってクロードの部屋へと向かっているのを見ることができた。


 ブリジットは周囲に誰もいないことを神経質なくらい確認してから、その引き出しを開けてみた。

 そこには十数袋の薬が入っていた。これならばひとつくらい持っていっても分からないだろう、毎日薬を持っていく人は違うのだから余計に、と判断して、そのひとつを懐に隠し、部屋へと持って帰った。


 そしてランプに火を灯し、その明かりの下でその包みを開けてみた。

 白い粉状の薬だった。匂いはあまりない。思い切って舐めてみると、甘い味がした。舐めてしばらくしてから鼓動が早くなった気がしたが、それは自分が興奮しているからかもしれず、薬のせいかどうかは分からない。


 ブリジットは薬を元のように包んで、暖炉の上にある、鷲の置物の下に隠した。

 薬を手に入れたのはいいが、それが薬か毒かは分からない。薬を運んでいる者を問い詰めてもいいが、素直に答えるとは思えない。それに、どうして夜、クロードに薬を飲ませていると分かったのだと聞かれて、夜の徘徊について露見するといろいろと困る。


 自分にもっと知恵と行動力と、味方があればよかったと思いつつ寝台に横になり、気付かないうちに寝ていた。

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