聖戦の始まり
商店街をまわり終わった後、俺とイオナは城の庭園に入る。
「昔、ここで遊んだな。かくれんぼして、イオナは探すのうまかったなー。イース、ブランノ、ランドノ、全員見つけてた。」
懐かしそうに目を細める。イオナは植物に訊いていたのだと推測する。そのことを思い出してイオナを見ると、イオナは後ろめたそうにそっぽを向く。イオナは気まずそうに質問する。
「ソラノが覚えてるのはそれだけ?」
「あぁ。」
さっきの夢は現実との狭間のようだった。あの精霊の大切なものとはイオナのこと、つまり仲間だったのだと思う。今のことから逃れてはいけない、そうゆうことだったのだろう。だったら、自分は今を大切にしよう。
イオナを見ると目が合った。イオナは花が咲いたような微笑を俺に向けた。初めて会ったときと、同じ笑みだ。
そんな二人に一人の少年が二人の間に立つ。あの橙色の髪はランドノだ。また、小型犬を連想させるように慌てている。何かあったのだろうか。
「ど、どこ行ってたんですか!?父上がカンカンですよ!」
(そういえば、ランドノが今朝、言ってたっけ…。)
確か、ランドノが警告はしていたな~。俺はさっと顔が青ざめるイオナの肩を軽く叩く。
「ま、頑張れ!王の間の前まで付いてくから。」
イオナは青ざめた顔から半泣きになりながら言う。
「ソラノ、ひどいわ!あぁぁぁ!早く行かなくちゃー!」
俺とイオナは王室まで風のように走る。その姿は従兄と言うより、兄妹に近いのだろう。
ランドノは姉の発言に「ソラノ」と確実に言ったことに気が付いて叫ぶ。
「あ、姉上、今、名前、言いましたよね!」
ランドノは二人を追いかけたのであった。
side:???
仮面を被っている僕は起き上がる。けふっと咳をしてから呟く。
「まさか、アイツが…。」
僕はふらつきながらその場から離れる。まだ、本調子ではないようだ。
(やっぱり、あのロープを使うのは駄目だったか…。)
僕は仮面を懐に入れる。それから、被っていたフードをめくると、金髪が落ちる。その場にしゃがみ、ソラノが流した血を舐める。
「人形の血なのに何でこんなに美味しいのか!フフ、流石だ。次、会うのが楽しみだね!」
誰に言ったのかわからない言葉をある暗い隅にかける。でも、わかる、そこにはアイツがいる。僕は病的な笑いを残し、夕焼けの街に溶けていった。
これがすべての種族を巻き込む聖戦の始まり。
一章はこれにて終了です。