ソラノ・スカイライン
俺が目覚めたところはさっきとは違う狭い空間だった。手首をロープで縛られていた。入り口は一つだけだ。
すぐそこにはイオナがいた。俺は急いで起き上がる。それに気付いてイオナは顔を上げ、縛られている両手で俺にしがみつく。
「大丈夫?!」
「大丈夫、イオナは?」
「私は平気。」
「で、ここはどこだ?」
「わからない。」
イオナは首を横に振る。イオナは目隠しをされていたらしい。
「とりあえず、ここを出よう。」
顔を衣服に突っ込み、ネックレスの紐を口で引っ張って服の外に出し、水晶を手に持って詠唱する。
「呪いよ、反転し、理を覆せ。」
はらりと縛っていたロープを切る。同じことをイオナにする。
「立てるか?」
「うん。」
俺の手を借りてイオナは立つ。いまさらだが、やっぱりイオナの手は俺の手より小さかった。今はそんなことより、俺はイオナに聞きたいことがあった。
「イオナ、さっき、一人が言ってたよな。本当の水晶の使い方って何だ?」
「水晶はね、武器を取り寄せるのに使うのよ。あとは魔法の補助。」
「俺は召喚の仕方、知らないぞ。」
「魔法、簡単に使えたのに?私は詠唱でも失敗するわよ。」
「そうなのか?とりあえず、ここから出よう。そーっとな。」
イオナは頷く。俺とイオナは扉に近づき、そーっと外を見る。外には誰もいない。チャンスだ。
一気に外に俺とイオナは出る。しかし、外の道に出た途端、腕を捕まれる。
「やっぱり、あのロープを切るなんてただ者じゃないな。」
肥満男がイオナの腕を掴みながら言う。肥満男が持っているのは両刃の剣だった。
「じゃあ、ちょっと防御力はどうかな?」
肥満男が俺に剣の面を腹に叩きつけられ、口から血が出る。半分、意識が遠退いた。
『進まなければ、何も変わらない。』
さっきの精霊の言葉がフラッシュバックする。使い方がわからないのではない。ただ、やろうとしないだけだ。それを自分は仕方がないの一言で済ましていた。でも、やらなければ、何も変わらない。自分は変わらなければならないのだ。
俺は自分を掴んでいた仮面男の腕をねじりあげ、仮面男を壁にぶつけた。どうやら、うまく仮面男を気絶させたようだ。
一か八か、水晶をつかむ。イオナを助けたい。守りたい。それに、この男はほったらかしたら、何をするかわからない。これから、連れ去られるかもしれない子達のためにも、こいつは放って置けないのだ。
目を閉じる。何もかもを押さえつけるような力が集まってくる。
手が握っている感触が変わってくる。宝石特有の冷たさから鎖のような鉄の固さに変わり、それが腕に巻き付いてくる。目を開く。やはり、腕には鎖が巻きついていた。鎖は淡い灰色の光を放っていた。あの謎の力の現れだと思う。これは使わない手はない。
「その鎖…。」
「その鎖!その鎖は王族の秘宝!それを持っているのは消えた王族の!お前、ソラノか!」
俺の名前はソラノだ!ソラノ・スカイライン!
肥満男が俺に向かって剣を降り下ろす。イオナは悲鳴のように叫ぶ。
「ソラノ!」
肥満男の剣の刃がかすめた。俺は召喚した鎖を壁に刺して張り巡らし、鎖に飛び乗ったのだ。その張った鎖の上に立つ。俺は安定して鎖から鎖へ跳ぶ。
「ど、どこだ!?」
肥満男があたりをキョロキョロする。俺は鎖を伝って肥満男の背後にまわって鎖を鞭のように打ち付ける。キンっと肥満男が気配に気が付いて剣で受け止めた。だが、これで終わりじゃない。
「そんなもんか?」
そんな肥満男の挑発の言葉を俺は鼻で笑う。
「ふん。鎖の使い方、わかってないのか?チェックメイト。」
「は?」
肥満男は眉を潜める。自然に言葉を紡ぐ。
「鎖よ、封印の鎖。理さえも超越し、敵を封じよ!!純潔の鎖!」
今まで壁に刺さっていたもう一本の鎖が。鎖は片方の鎖を受け止めるのに気をとられている肥満男の体をぐるぐる巻きにした。
イオナは肥満男の拘束から解放されて咳き込んでいる。
「大丈夫か?」
イオナはニッコリと笑って言う。
「大丈夫。助けてくれてありがとう。」
イオナは俺の手を握って進む。その影に迷いなく、未来へと進んでいた。