イオナ・シャイン
王の仕事部屋を出た後、俺の腹の虫が盛大に大合唱をしたので、ランドノがちょうどお昼時であることを言ってくれて、ざっと三十人は入れそうな食堂に案内され、そこで昼食をとった。
ランドノの案内で同じような扉が並んだ廊下を進む。
「…迷子になりそうだな。」
「僕もたまに迷子になりますし、なぜか、ご丁寧に城の地図が貼ってあります。」
ランドノが柱の一つに小窓くらいの紙を指差す。あれが地図らしい。
「地図がないと迷子になる城って。」
「設計した人に物申したいです。」
「同感。」
ランドノと話しながら俺は図書室やら会議室やらを案内してくれた。
「あれは第二王女のイース姉上です。」
そこには氷を思わせる髪と雪が降る空を写した瞳をした女の子が反対側の通路を歩いていた。すぐに見えなくなってしまった。
「僕たちは社会勉強を兼ねて4つの町それぞれに一人ずつ管理を任されているんです。ほとんど、町の幹部がやってくれてますけど。」
「へー。でも、さっきの子は何でここに?あとランドノは?」
「おそらく、イース姉上は報告書を届けに来たんでしょうね。僕はみんなに働きすぎだって言われて追い出されちゃいました。」
「その年で仕事中毒かよ。」
「何かしてないと落ち着かない質でして。」
そのうち俺はある扉の前に案内された。俺とランドノは黄緑色と桜色の扉の前に立つ。さっき、庭でみた山桜の装飾がされていた。おそらく、女の子がいるのだろう。
するとランドノが説明をする。
「第一王女でイオナ姉上が貴方を運んだんです。」
「へー。どんな子?」
「綺麗ですよ。」
女の子にその言葉は合わないんじゃないだろうか…。という疑問は呑み込んだ。何となく、失礼だと思ったから。一応、この国の姫なんだし。綺麗…、どんな子だろう。
色々と想像している俺をよそにランドノは扉をノックした。扉を開けて出てきたのは、桜色の長い髪の女の子だった。同い年くらいだろう。
その子はきめ細かい白い肌と植物のような黄緑色の大きな瞳をしている。その瞳は白っぽい桃色がかった長い睫毛で縁取られている。桜色の髪は艶があって、生命力を感じさせる色合いをして、そして左右対称の整った顔立ちをしている。絵画から出て来たようだ。さぞ、性格も優雅なのだろうな。その子は俺を見るなり言った。
「目を覚ましたのね!」
訂正、性格はそうでもなかったようだ。年相応な女の子だ。
「あぁ、君が俺を運んでくれたんだな。ありがとう。」
あっけにとられながらも礼を言う。想像と違った。しかし、少女は花が咲き誇ったような笑顔をする。それはとても美しく、想像以上の明るさと暖かさだ。
「どういたしまして。私はイオナ。」
イオナは手を差しのべる。俺は迷わず、その手を握った。俺と二回りくらい小さい手だ。天真爛漫な子だなぁ。
「今、城を案内してるんです。後で町も案内する予定です。」
ランドノはそう説明する。すると突然、イオナは俺を引いて走る。イオナと握手したままだった俺はイオナの突然の行動に引っ張られる。
「あ、姉上!」
「私がこの子に町を案内してるって、お父さんに伝えておいてー!」
「僕は城を案内するように言われたんですけど!父上に叱られてしまいます!姉上!」
ランドノの悲鳴のような警告をイオナはスルーしながら走る。気にしてないのだろうか、それとも恐れ知らずなのか…。
本当にこの子は大丈夫なんだろうか…?
俺は引きずれて城の外へ出た。