7.
「教えて。彼は無事なの?」
雨脚が強まってきて、透明なビニール傘を叩きつける。
「無事かどうかは、わからない」
私はカチンと来てしまった。
全部が全部、彼女のせいだと思いたかった。
「あんたがやったんでしょ。どうして奪うのよ」
傘を投げ捨てて、少女の胸倉をつかむ。
しっかりと襟首をつかめてる。ような気がする。
雨粒が髪の毛から滴り落ちる。
私の顔は、もうすでにぐちゃぐちゃだろう。
「違うよ。私じゃないから。落ち着いて!」
「何がどう違うのよ。あんたのせいで彼は、新型ウイルスに感染したんでしょう」
「それは関係ないよ」
「いいや、関係あるね。『私はお姉ちゃんとずっと一緒にいたいんだけどなー』ってこの前に発言していたよね。あなたはそのために彼を感染させたんでしょ。そうすれば私と一緒にいられると思ったから」
「本当に違うんだって」
「そう。じゃあ何が違うのか言ってみて」
私は線路の少女から手を放した。
彼女はしばらくせき込んでから話し始めた。
「本当に、それは偶然」
「じゃあなんで彼が新型ウイルスに感染したなんて言ったの?」
「見えるんだ。私は、幽霊だから」
「何が見えるの? 言え!」
「寿命と死因が、見えるの」
私はこらえきれなくなった。
立っていることが出来ない。無理だ。
そう濡れた地面に膝をついて、泣いた。
何で泣いているのか自分でもよくわからない。
寿命と死因が見える。だったら彼が生きているのか、死んでいるのかを聞かなきゃいけないのに、胸の奥がずきっと痛んで声が出ない。きっと私は悲しいんだ。それは「彼が新型ウイルスに感染したから。それが原因でおそらく他界するであろうことがわかったから」ではない。
あの屈託のない笑顔で接してくれた線路の少女を信じてあげられなかったことが、何よりも辛かった。私はすごく利己的な気持ちで「ごめんねごめんね」と繰り返す。「いいよ」「大丈夫だよ」そんな言葉を期待しているつもりはないけれど、きっと心のどこかでは期待しているんだ。
きちんと謝罪すれば、許してもらえると思っているんだ。
「いいよ。大丈夫だよ」
線路の少女は優しかった。
恐怖で歪んだ顔をしながらも笑顔を作っている。
良かった。こんな私でも見捨てないでいてくれた。
「だから落ち着いて」
「うん」
「彼はまだ生きているから」
「うん」
「これから助けに行こう」
「でも、名前も病院もわからないし」
狼狽する私に彼女は言った。
「これから一緒に乗ろうよ。黄泉の列車に」