4.
日焼け止めクリームを腕に塗って伸ばす。
膝下何センチと校則で決められているスカート丈も、トップの部分を織り込んで短くした。
学校の校則なんて破っている人の方が多い。
春休みが明けて髪の毛が茶色っぽくなった女の子が、
「日焼けして色素が薄くなったんです」と弁明していたところを見たことがある。
生活指導の先生はそんな理由でも許していた。
それならば私もやってやる。
「これは熱中症対策の一環です」と言えば見逃してもらえるだろうか。
たぶん無理だな。校門の前に着いたら元に戻そう。
相手が近くにいると本音が言い出せない。
頭はクリアだし、滑舌も問題ないはずなのに、口の中が乾いてしまう。
相手が遠くにいるときは平気なのだ。なんの滞りもなく話が出来る。
近くにいるからこそ声は届かず、遠くにいるからこそ気持ちが伝わる。
物理的に距離を取って、それこそリモートでのトークだったら言えるはずだ。
私は安全圏からじゃないと発言が出来ない。
だから、学校が嫌い。
不用意な発言ひとつでハブられた経験があるから。
第三者が相手じゃないと、本当のことが言えないんだ。
生ぬるい風が、スカートの裾を揺らした。
暑苦しい不快な風。それは昨日も経験したものだった。
暑いのに身震いをする。なぜだか悪寒がする。
目の前の線路に、女の子が立っていた。
「またそんなところに立って、危ないよ!」
「えへへー。また会えたね、お姉ちゃん」
「またお花を取りに行ってたの?」
「うん、そうだよ。とっても綺麗なんだ」
草花を円状に編み上げて、少女は頭に載せた。
「どう。似合う?」
「うん、とっても似合ってるよ」
「ありがとう。えへへー」
彼女はニッと歯を見せて笑った。
軽い身のこなしで、線路からホームに飛び移る。
いつも笑ってて、おかめちゃんのような顔だなと私は思った。
「ねえ、お姉ちゃんは学校って楽しい?」
この女の子は本当にいつも楽しそうに話をする。
私とは違って、学校も楽しいに違いない。
ここは相手に合わせておこう。
「え、そうだな。楽しい……かな」
「本当にー!?」
少女はいたずらっぽくこちらを覗き込む。
人懐っこくて、かわいい笑顔だった。
そんな表情を向けられたら、
「本当だよ」ってウソを吐く気持ちにもなれない。
「あなたはどうなの? 学校は順調?」
逆にそう訊き返してみる。
「そうだなー。私はお姉ちゃんと話してるときが一番楽しいかな?」
「なんで疑問形なのよ」
私はそう笑いながら、
「でもまあ私もね、学校は楽しくないかも」
「え。さっき楽しいって言ったじゃん!」
彼女はからかうように指摘してくる。
それはそうだけど……と口ごもる私。
そんな様子を見て彼女は楽しそうにしていた。