最終回.
もう少しで、終点。
それよりも彼はどこだ?
あの名前も知らない通学中の彼は。
私は彼に会いに来たんじゃなかったのか?
はっと車窓を見る。無だった。
まぶたを閉じたように真っ暗だった。
列車の乗客からは、よっこらせと立ち上がって、乗降口のポールにつかまって立つ者が現れた。
「もう少しで終点」
不安が一気に去来して押しつぶされそうになってきた。
私はこれからどこに連れていかれるのだろうか。
まさかもう黄泉の世界に足を踏み入れてしまったのだろうか。
私は帰れるのだろうか。
彼には会えるのだろうか、会えないのだろうか?
どこなんだ、ここは。頭も舌も回らなくなる。
「安心して。彼をここに連れて来るから」
列車が停止してから、線路の少女は暗闇に飛び込んでいった。
「だからお姉ちゃんは、ここで待ってて!」
そう言い残してバタバタと駆け出していく。
もう何がなんだかわからなかった。
ここはどこなの。あの世?
もしも死後の世界だとしたら、彼は死んじゃったの?
私は今どういう状態なの? ちゃんと帰れるの?
情報は、何もない。
もう真っ暗だ。何もかもが。
いきなりこんなところに連れて来られて、何をさせられているのかわからない。
私も、死ぬのかな。
「よう、奇遇だな。夢の中でも会えるとは思わなかったぜ」
通学中の彼が入院服を着ながら乗車してきた。
真っ暗な、無の世界の端っこで、線路の少女が手を振っている。
「ま、た、ね」
そう口の形で伝えてくる。
私は呆然としながら、手元の切符に視線を落とした。
そして絶句してしまった。
この切符には、私の母親の名前が載っていた。
【大倉加奈子→黄泉の世界行き】
なにこれ。なんでお母さんの名前があるの?
そっと背筋に氷を入れられたような感じがした。
とても不吉な予感がする。
「ねえ、切符って、持ってたりしない?」
「ああこれか? なんか知らないけど持ってるぞ」
彼は、ふああ、とあくびをしながら渡してくれた。
私は、そのくしゃくしゃに丸まった切符を開いた。
【大倉敏夫→黄泉の世界行き】
そこには私の父親の名前が載っていた。
え、どういうこと。これって、もしかして。
「列車が発車しまーす」
車掌のアナウンスと警笛の音が響き渡る。
ガタン、と車体が揺れた。
真っ暗な、無の世界の端っこをもう一度見る。
えへへ。と人懐っこい笑みを浮かべて、線路の少女が手を振っていた。
「ざ、ま、あ、み、ろ」
そう口の形で伝えてくるのが見えた。
私は線路の少女との会話を断片的に思い出す。
「なんかさ」
「その私をいじめてた子がさ、心に何も背負わずに、ただ漫然と大人になっててさ。そしたら子どもとかも出来てて、幸せそうな家庭を築いてたとしたらさ、どう思う?」
「複雑、か。私は許せなかったな」
「なんでお前らだけのうのうと幸せを享受してるんだって思っちゃう」
「だからさ。お姉ちゃんも気を付けてね。そうならないように」
車掌さんのあの反応もそういうことだったのかもしれない。
切符を見たあとに、線路の少女と目配せをしたのは。
もしかしたら、そういう意味だったのかもしれない。
「どうしたんだ。顔色が悪いぞ」
私は両親の犠牲のおかげで現世に帰って来れたのだ。
その代償は、計り知れないものだった。
「やっぱり私はあんたを許さないよ。線路の少女、瑞樹!」
そう黄泉の列車に乗りながら、窓越しに見える景色を睨み付けた。
近くにいるからこそ声は届かず、遠くにいるからこそ気持ちが伝わる。改めて、そう思った。
これで最終回です。最後までありがとうございました!!




