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被虐の異世界英雄譚 ~反逆の剣鬼~  作者: すきぴ夫
<零> 被虐の幼少期
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第四話 家畜受難

 奴隷たちが連れ去られた場所は、畜産場だった。


 何の畜産かというと――人間。

 俺たちは糞尿と死臭に満たされた建物に所狭しと詰め込まれた。


 いわばここは『養人場』とでもいうものか。


 俺はまだ幼いころにジーフリト家を追われたのでこの世界の仕組みにはてんで疎い。こいつらがいったい何なのかよくわからん。

 わからんが、どうやら鬼とか物の怪の類だろう。この世界では鬼ヶ島が実在して人里に下りてきて人をさらうことがあるようだ。


 魔物に追い立てられ建物の奥へと歩みを進める最中、いろんなものを見た。

 口に管を突っ込まれ、絶えず食糧を流し込まれている男たちは、みごとに丸々と太っている――もしかしてあの養母もこういう風にして作られたのだろうか。だとしたら、"豚が、殺してやる"とは少し酷いことを言ってしまったかもしれない。

 腹を大きく膨らませた女たちは、柵で上から押さえつけられ、身じろぎ一つできずに横たわっている。

 またある者たちは棒に括りつけられて生きたまま腹を割いて臓物を取り出されていた。


 なるほどぉ、理性も知性もない物の怪どもかと思ったが感心してしまった。

 しっかり管理して畜産を営んでいやがるんだなァ。



 毎日の食事は、お世辞にも美味とは言えなかった。病気で死んだ奴の死体や、死産した赤子、出荷前の肉から取り出された臓物なんかが俺たちの餌だった。糞尿にまみれた柵内に適当に投げ入れられるのでなるべく地面に着く前に空中で頂くのが望ましい。俺の好みは肝。あれは栄養が豊富だ。


 太りやすい体質の奴なんかは、これらの餌だけでわりと恰幅がよくなっていく。

 そうすると飼育員がやってきて、あの食糧流し込みエリアへと昇格させられていくのだ。

 俺は残念ながらそんなに肉がつかず、そちらのエリアのお世話になることはなかった。


 そんな調子で一人、また一人と、同室の連中がいなくなっていき、最後には俺一人になった。



 ――3年が経ち、俺は15才になっていた。


 結局俺は最後まで肉がつかず、食用には適さないままだった。

 四つん這いで這いまわっているふりをして、常に腕立てや腹筋をしていたからだろうか。


 柵の外で、魔物が話をしているのが聞こえた。


「こいつは食用にならないな。成体になってきたことだし、繁殖用に回すか」



 俺は繁殖用の柵の中に、女と一緒にぶち込まれた。


 ――おいおい、こいつァ今の俺より幾ばくか年下じゃねぇか。


 ティナよりは年上のようだが、それでも生前の俺からすればてんで子供だ。

 こんなガキんちょ相手では俺の漢が立たねぇ。


 柵の中心でどうしたもんかと仁王立ちしていると、女が非常に怯えているらしきことに気づいた。

 夜も更けかけていたので、魔物たちは俺たちを同室に突っ込んだだけでそのまま撤収していく。


 ――しゃあねぇ。せっかく誰も見ていねぇことだし……


 少し話をしてみよう。人と言葉を交わすなど数年ぶりのことだ。


「おい女。俺の名はクリス。姉はスライと呼ぶがお前はクリスと呼べ。お前の名は」

「ゾ……ゾーイ……です」


 女は柵の隅っこで丸まりながら恐る恐る答えた。


「ふむ。ゾーイ、お前はどこの生まれだ」

「東の……パルティア王国、です」

「そうか。俺はアルビオンの生まれだ。パルティアとはどんなところだ」

「アルビオン……ですか。気候も温暖で、とても肥沃な大地だと聞きます。パルティアは熱さが厳しく、乾いた砂漠地帯なので羨ましいです」

「ほーう、よく知ってるな。お前はいいとこのお嬢さんか? どうしてここに来る破目になった」

「いえ、全然そんなことは……一般教養レベルです」


 謙遜するゾーイ。丸まっていた体の肩から力が抜けていく。

 だんだん打ち解けてきたようだ。


「ここへは……住んでいた村ごと滅ぼされて連れてこられました」


 と、表情を変えずに話す。

 生を諦め、外の世界への執着を失くしているからか。辛い過去を話させているはずだが、特段の感慨もなさそうだ。


 ――気に喰わねぇな。


「おい、ゾーイ。外の世界……もう一度見てみたくねぇか」

「えっ……?」


 俺は二つ胸に誓ったことがある。


 一つは、『剣に生き、剣に死す』こと。

 二つは、『剣で身を立て、ティナに楽をさせてやる』こと。


 まだ始まってすらいねーんだ。俺はこんなところで死ぬつもりはさらさら無ぇ。

 と、いうか――ここは雨風が凌げて、黙ってても食事が出てくるからお世話になってただけなんだがな。


「俺ァお前のような生きる屍を相手にする趣味は無ぇ――しかしだ。俺はこの世界の知識を全く持ってねー。お前の知識が欲しい。お前が役に立つ限りは連れてってやる」


 ――何を言っているんだ、この男は。この養人場から出られるとでも思っているのか? とでも言いたげな目線が向けられた。


 いいねぇ。いい目を向けてくれるじゃねーか。

 俺ァ、そういう期待のまなざしに応えて差し上げるのがささやかな趣味の一つなんだ。




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人魔名鑑

【No.1】 ★Update

 名 :クリス=シルヴェスター・フォン・ジーフリト・ツー・リオネス

 Lv:5

 年齢:15

 種族:人間

 才能:不明

 能力:なし

 武装:なし

 国籍:神聖アルビオン帝国

 身分:家畜

 所在:シベリア養人場


【No.6】

 名 :ゾーイ

 Lv:1

 年齢:13

 種族:人間

 才能:不明

 能力:なし

 武装:なし

 国籍:パルティア王国

 身分:家畜

 所在:シベリア養人場


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