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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
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消される記憶、上書きされる記憶

――あのとき、あの冬の日放課後の中学校の教室の一室に集められた銀鶏たちは教師たちの前でただ一言「好きにしていろ」と言われて、皆が皆ひどく緊張していた憶えがある。集められた生徒は五人、共通点は――絵の巧い事であった。とうとう察しのいい一人が黒板に絵を描きはじめる。が、銀鶏はこれから何が行われ、今何が行われるのか解ったうえで沈黙していた。

 つまり教師どもは学年から絵の巧な生徒を撰び、卒業文集の表紙の選抜レースをさせる積りなのだ。

 勿論、銀鶏は自分の画才がどこから知れ渡ったかも知る由も無し、なにせ将来の目標には『造船技師』と書いておいた筈だ。(だから現在の状況はおかしい)

 嫌だ。この学校のクソッタレの同級生のための絵など描いてやるものか。

 だから銀鶏は教室の隅で、そろそろ身体にも馴染んだ制服を掻き寄せて沈黙していた。他の四人は嬉々として黒板に自由に落書きしているが、あほらしく思えてならない。教師たちは無関係なお喋りに興じていたが(何か問題児について論じていたのかもしれないが、五人集めてレースをさせるほどには暇を持て余していたのである)銀鶏たちの方はしっかりと監視してはいた。

 することも無いので銀鶏は窓の外を見る。校庭ではサッカー部の1、2年生が走り込みをしているがその様子を意外にも引退したKが見て檄を飛ばしているのであった。――なにを一人前に。

 その様子を先ほどまでお喋りしていた教師どもは目ざとく見つけると、その一人は銀鶏にこう言った。


「どうした? 猪狩(いがり)。何故描かん、学校行事に関わりたくないのか?」 


 嗚呼、何時だってあんたらには関わりたくないさ。おともだち? 近所の同学年の寄せ集めじゃないか、私はこいつらを一度だって友と思ったことはない。特に今日集められた奴ら、虚栄心の塊で、業突く張りのみっともない連中! そんな奴らが遣りたければやればいいんだ。私には関係ない。

 

 結局その卒業文集の表紙は如才ない『おともだち』の一人の手によるものになった。

 私は文集中にも結局一点の画も入れなかった。私が造船技師になろうがなるまいが『おともだち』連中の興味のないことだったし、文集は一度読んで実家に放置してあるはずだが、母が不用品として捨てた可能性もある。まあ卒業クラスの『絵のうまい人』のなかに私の名前があるのは致し方ないが、偶然にもKの将来の夢を読んだが可哀想にと私は笑っていた――Jリーガー。


 そう、つらつら考えながら私はPCの画面に向かい誰のためでもない少女の画を描いていた。

 そして少女の虚ろな赤い瞳がこちらを見据える頃、つまり絵は完成だ。急にD.D.T online wikiのことが頭をもたげた。あの()()()というプレイヤーが言っていたやつだ、検索すれば出てくるのだろうか? 私は絵を閉じるとwikiの件を検索窓にぶち込み調べ始めた――あった!

 そこに、()()()の連絡先もあるではないか。

 私は直ぐにあやのに昨晩会えなかった非礼を詫び、今晩しかるべき場所(通常チャットでのことだ)で会えないかという提案のメールを送信した。

 時計は18時を指していた、あやのに逢うとしてもまだ早いが私は先に D.D.T onlineにログインすることにした。


 マイハウスのある貧民屈は治安が悪い。

 あの???が毎夜狩っているという若頭LV10も破落戸連中の一人に相違ないのだろう。ただNPCでもアーシュベックだけは別格な気がするのだが。

 身、閃、甲、地、断、砕、貫、気、詠、陣、浄、粒、溶、霊に割り振ったパラメーターも割と伸びてきた。そうだ、ここ(マイハウスの周辺)ならjane_doeは一人で行動するのに不自由を感じなくなってきていた。少しチンピラでも狩ってアライメントを傾けてやろうか……? さぞかしリーリウムは怒り心頭になるぞ、そう思ってjane_doeはマイハウスを出る。すると――


「誰かっ――助けてください! お願いします!」


 女の悲鳴。NPCではない、プレイヤーのものだ。

 見ればキャラメイクで乳房の大きさに振り過ぎてしまったかのような、白い髪に褐色の膚の少女が二人の破落戸どもに攻撃されている。どんどんHPが減っているのも判る。


「そこのおねーさんっ、見てないで助けて下さい! お願いします!!」


 やれやれ仕方ないな……彼女を足蹴にしている連中は敵ではなかったから、jane_doeは簡単に二人に止めを刺すと褐色の膚の――その大き過ぎる胸の少女を助け起こした。


「ありがとうごじあます、たすけてきゅださってr」


 何だ? このプレイヤーチャットのミスタイプがかなり酷い。


「大丈夫か、このゲーム始めたばかりなんだろう。駄目だぞいきなり一般人を攻撃したりしたら――」


「すみません、チュートすっ飛ばしたらこんな子おtに名tyてしまいました」


「待ってくれ!? チュートリアルは飛ばせたのか?」


「はい、この前の金きゅめん抵抗みたいですよ」


「チャットするうえで極力ミスタイプは減らしてくれ、というか確認してからチャットして欲しい――で、あれは緊急メンテナンスだったと?」


 jane_doeは訝しがった。ではもうリーリウムとは会えないのだろうか?


「分からないんです、わたしキャラメイクしたのが今日なので……」


「リーリウムというナビゲートキャラを御存知?」


 褐色肌の少女の顔が『?』マークになった。駄目だ、リーリウムはもうその存在を隠蔽している! では何のために?

 しかしここは危険だな、jane_doeは周囲を見回した。まだ自然発生したやくざものたちがうろうろしているのが見える。彼女には自分のマイハウスでゆっくり話を聞かせて貰おう、ミスタイプは御免蒙りたいが。


「君、私のマイハウスで話をしないか、そこなら安全だしゆっくり休めるので」


「はい、ありがとうごじあます、わたし『まるこめ(エックス)』といいます」


 名前を聞いてjane_doeは腰砕けた。


 確かマイハウスのベッドで回復が出来るはずなのだがここはjane_doe専用なのだろうか? ともかく彼女――まるこめXを横たえた。『それにここで死ぬと痛いわ、すごく』そう、確かリーリウムは言った。どういう意味なのだろう?


「ちょっと疲れたので眠りますね……」


「ああ」


 そのとき、あやのが通常チャットで割り込んできた。こんなこともできるのか!


あやの:今晩は! 見つからなかったから捜しちゃった、今どこにいるの?

jane_doe:貧民屈のマイハウスだよ。初心者を拾ったんだけどどうしたらいい。

あやの:今そっちに行くね。


 急にマイハウスの入り口に小柄過ぎる少女が現れた。

 この世界には女性キャラクターしか居ないのだろうか……ともかく彼女が、あやのらしい。黒髪で服装は魔法使い然としている。


「ここでは、はじめましてjane_doeわたしが、あやの」


「はじめまして、そしてそこで寝てるのがまるこめX」


「それじゃ少し話を整理しましょうか。あと回復も、wikiは未完成でごめんなさいね、これから拡充の予定」


 そしてあやのは話し始めた――


 この冬は終わらない。

卒業文集の選抜の話は筆者の実体験です。

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