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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
14/60

“Login incorrect. User ID’s and password are case sensitive. Please try again.”

「重要な違反って……他のプレイヤーとチャットしたことが?」


 タイトル画面の密林をバックにしながら、jane_doeは不服とばかりにリーリウムに訊いてみたが、彼女は運営側の人間だ。逆らえるはずもないのだが仕方ない。

  

「そう、それもチュートリアルで教えてなかったわね、貴女は勝手にヘルプを見たけれど。もういいいわ、アライメントの説明をしてあげる。それ一番聞きたがっていたでしょう、本当は」


――アライメント。先ほどの名無しの『Tiger chaser』が(彼女が私を名無しの女と呼んだのも妙なことではあった)”傾いている”と言った事柄だ。それはどういうことなのか。そう思案していると勝手にリーリウムは説明し始めた。


「アライメントは“良い行い”もしくは“悪い行い”をしていると傾きます。でもどちらに傾くのも良いってものじゃないのよ、つまりは中庸が肝要」


「……えっ、善行を積めばいいわけじゃないのか?」


「外見上は善行でもそれが公共の利益に適ってるとは限らないじゃないの、現実生活でも。政治を見てれば判るでしょ、もう――でもあの名無しみたいに“悪”というか“無秩序”に傾き過ぎてるのは大問題ね、見たでしょう? あいつ毎日酒場の若頭を殺してるから」


「あの『Tiger chaser』はいったい何者なんだ?」


「個人情報保護の観点からわたしからはお答えできませーん、彼女にまた会ったら根ほり葉ほり聞いてみれば? ただ名前を隠して遊んでいるプレイヤーだから荒らしの可能性も高いけどね。そこは外部の掲示板でチェックかしら?」


「派手なことをしていれば噂になってもおかしくないということか……」


「そゆこと。さあ、もう朝よjane_doeほんとうにログアウトしなさいな、システムの方は夜までに修復しておくわ」


 そう言われてjane_doeあるいは銀鶏はD.D.T onlineから離れざるを得なかった。

 彼はPCの電源を落とすとロフトの寝床で深い眠りに就いた。

 そして奇妙な夢をまた見る事になるのであった――


 そこはまた中学校の教室であった。

 K達のグループが騒いでいる。

 またKか。そう銀鶏は思った。これは明晰夢だった、つまり夢と意識されている夢でありもう一つの世界が、目覚めを転回点とした意識の裡にある世界だ。Kのことなど銀鶏はこの8年間すっかり忘れていたが、母からの電話以来、もっと言えば彼のグループの者からの思いがけない連絡以来、執拗にKは銀鶏の無意識下を覆っているのであった。

 K達はただただ騒がしく思春期独特の悪ふざけを繰り返しては、担任教諭の顰蹙を買っていた。

 だから私は耳を塞いだ。これは悪い夢。

 だとしたら誰が視せているのだ? Kかそれとも私自身の後悔の念か。

 後悔――なにをすることがあるだろう、私はKに何か直接関わったことはなかった筈なのに。だが彼の死はこの年の瀬に重く圧し掛かった。

 仕方なく私はノートにあの捕らえられなかった虎を描く。だが満足いくものではない。いつだって私の虎は私を満足などさせては呉れなかった。


 そこで目が覚めた。

 私はアイカに電話をかけ(とうとう孤独に耐えきれなくなったのだ)彼女と他愛のないお喋りを小三十分もして、個人的な悩みや化粧品の話、服の話を聞かされた。そして電話を置いた。それから空腹を感じて買い置きのオイルサーディーンを肴にビールを飲むと、外が真っ暗なことに気が付いた。とはいえまだ17時にもなってなかったのだが。

 リーリウムは夜までにシステムを修復しておくと言ったが本当だろうか?

 その間にD.D.T onlineに関する情報を掲示板で収集することもできたが、まだβテストも始まったばかりで無意味と感じた。それは来年辺りから始めよう、そう銀鶏は考えた。

 どうせまだ私がプレイできるほどにメンテナンスは進んではいない、時計の針を見てそう判断した銀鶏は、読み止しの『重力の虹』を開いてスロースロップの遍歴に思いを馳せた。


 彼は数時間経つと空腹を感じて(結局のところオイルサーディーンとビールしか口にしてないのだから)コンビニでチキンを購入してきた。コンビニでは様々チキン(ホットスナックもだ)を時節柄販売していた。


 そしてチキン片手に今晩もD.D.T onlineを立ち上げる――しかし、


“Login incorrect. User ID’s and password are case sensitive. Please try again.”


 リーリウムめ! 未だだ、まだ駄目なのか!

 銀鶏はこの時点ではそんなことはないと思っていたが、かなりこのゲームの依存症になっていることは間違いなかった。


あやの:あのもし?

jane_doe:はいなんでしょう


 通常チャットだ。これはログインしてなくてもできるものなのか?


あやの:メンテ長いですよね……暇してます??

jane_doe:暇ってわけじゃないんだが、入れないのはちょっと何せ捜してるプレイヤーがいるんで。

あやの:そうなんですか……あたし未だソロでやってるんですけどパーティ組みません?


 jane_doeはこの()()()なるプレイヤーの申し出に少々面食らったが、彼女はお構いなしに続けた。


あやの:あたし鑑定士なんですよ、正しくは鑑定ができるクラス?


 なんだって!? それは願ったりだ。jane_doeは色めきたった。


jane_doe:それは助かります、未鑑定のアイテムが溜まって来てしまって……

あやの:よかったらこれのwiki作るのにも参加してるので色々教えますよ~、じゃあ決定ですねログインできたら待ち合わせましょう♪

 ところで捜してるプレイヤーさんってどんな方ですか?

jane_doe:アライメントが傾いていて(?)なにかどす黒いオーラを放っている方です、私珍しいクラスらしいんですけれど、そこも同じなんです。

あやの:ふむふむ、どれだけこのβテストに参加してるか判りませんが、簡単には見つからないかもしれないです。何せ運営さん、抽選どころか申し込んだ人全員当選させたって噂あるので……

jane_doe;そうなんですか! がばがばな運営だなあ、その反面リーリウムなんてしっかりしたナビゲートキャラを用意するし――

あやの:リーリウム?

jane_doe:あれ居ませんでした? チュートリアル遣ってくれる媚び媚びな女の子……

あやの:ああ、キャラメイクを手伝ってくれた子ね! でもあたしそれっきりだな。

jane_doe;そうなんですか、私はなんかしつこく粘着されてるんですけどね。

あやの:運営の温度差かな? ここそういうところもあるんで。

jane_doe:ところでwiki製作に参加されているんですよね?

あやの:そうですよ。

jane_doe:ここの運営会社って分かります?

あやの:確か(株)スターウィズダムってところです。


 スターウィズダム……聞いたこともない。ベンチャーか零細だろうか? 少なくとも大手や外資企業ではない。


あやの:はあ今晩のところはメンテ中で諦めるかなあ~、びたいち動きそうもない!

 じゃあ、また明日お逢いしましょう、jane_doe!

jane_doe:ではまた、あやの。


 そう打ち込んでから銀鶏はPCを完全に落とした。

 リーリウムの言っていたことは適当な吹かしだったわけだが、運営に温度差があるということはどういうことだろう? こればかりはあやのから明日聞いてみるしかなかった。


 この冬は終わらない。

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