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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
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アイカからの招待

「――もしもし? 銀鶏(タツ)起きてる? 起きてるの? もしもし?」


 10コール程スマホを鳴らして漸く私は電話を取った。アイカからだった。あれから朝食を摂って眠りこけていたらしい。オンラインゲーム中毒者が昼夜逆転しているというのは良く聞く話だったが、さもありなんだ。

 漸く意識を取り戻して私はアイカとの会話に応じる。

 アイカは何度言っても直電にかけてくる。LINEは信用してないらしい。――だってLINEの通話はすべて韓国政府に盗聴されているのよ? などと荒唐無稽なことを言って。

 銀鶏からの通話も電話でないと受けないので、彼女と付き合いだしてハッキリ言って電話代が上がったのは事実だ。


「ああ、起きているよ……」


「嘘。起き抜けでしょ、今、何時だと思ってる?」


 覚醒したてのずきずきとした鈍痛を訴える脳髄を無視して、私は彼女に応えた。


「アイカ、バイト終わったのか?」


「ええ、とっくに」


 ということは彼女の働くセレクトショップの閉店時間はとうに過ぎているということだ、それが凡そ21時。つまり今はそれ以降。

 畜生、なにがβテストだ! 単なる時間泥棒じゃないか! もう二度とD.D.T onlineを立ち上げるまい、それどころか銀鶏はあれをアンインストールすることを決意した。


「ねえ? 聞いてる銀鶏(タツ)


「聞いてるよ、アイカ」


「今何時でしょう? ねえ」


「23時!」


 当てずっぽうに銀鶏は叫んだが電話口の向こうでアイカは落胆の色を隠せないのがわかった。


「もう……22時よ、それでね本題に入るね、明日休みだからクリスマスプレゼント選びに行って欲しいの、いいかな?」


 ああ、プレゼントの無心か。始まったぞ、暗黒の儀礼が!


「買に行くの新宿でいい?」


「いいよ、目当てのお店はテナント? 路面店?」


「デパートのテナントよ伊勢丹に入ってるの」


「待ち合わせはどうする?」


「同じ東新宿だしあたしのバイト先のfifth dimensionsでいいかなあ、そこで見せたいものもあるし」


「見せたいもの?」


 わたしは一瞬訝しがったがアイカの見せたいものは中二病にまみれた、くだらないものに相違なかったから、適当に話を合わせてやることにした。


「……ん、なんて作家か忘れたけれど『女教皇の椅子』っていう置物よ吃驚するわ、本当に見せたいの、ねえ、いいでしょ? あたし非番だし」


「解った約束するよで? 明日何時にfifth dimensionsに行けば?」


「17時半ね、何か軽く夕食でも食べましょう?」


 やれやれ買い物の他に夕食まで奢るのか、どこまでも貪欲な生き物め――だがこれまで付きあって来た女に較べればアイカはマシな部類に相違なかった。否、銀鶏の女性経験が貧乏くじを引き過ぎなのだろう。


「じゃ、明日の17時半、また」


「またね銀鶏(タツ)



 さきほど決心した通りβテストを辞してD.D.T onlineを削除するのは簡単だった。

 しかしこの晩は陰惨に過ごすことが目に見えていた、気晴らしだ。もう一度jane_doeとしてプレイするのも悪くはないだろう。銀鶏はログインを開始した。


 直ぐに眼前の光景が一変する。そこがあの薄汚れた『マイハウス』であることにjane_doeは気づいた。清潔とは言えない寝床に転がると豊満な乳房が不自然な動きで揺れる。――これだからゲームは……


「ハァイ♡ jane_doe、昨晩はescapeボタンなんて押して強制終了するから、もう削除しちゃって二度と会えないと思っちゃった」


 能天気で明るく軽い口調、(男性目線で)非の打ち所のない容姿と服装。どこかで聴いた甘ったるい声――


「リーリウム! いつから其処に……!?」


「わたしはなんでもお見通し、運営側のキャラだしね、そしてまだ貴女は虎を捜している」


 リーリウムは悪戯っぽく笑うとjane_doeの寝転がるベッドに腰掛けた。 


「何故あんたは私の夢の虎の事を知っていた?」


「んーとね、D.D.T onlineのシステムはプレイヤーの無意識下にまで潜入できると言ったら?」


「プライバシーの侵害だぞ!」


 jane_doeは怒りをあらわにしてリーリウムに掴みかかったが、彼女はまるで存在しないかのように彼女の腕を擦り抜けて見せた。


「でもこれはシステム側の構築の問題なの、わたしにはどうすることもできないわ。わたしを締め上げようとしてもね」


「虎を……本当に捕らえることができるんだろうな?」


 jane_doeの円い眸がリーリウムを鋭く見遣ったが、彼女は一向に気に介さないようだった。


「それは貴女次第よ、D.D.T onlineの世界で頑張って、としかいう他にないわ。虎は貴女の宿命(フェイト)であってわたしはそれに関与できない」


「………………」


「今夜はもうゲームを終了しなさいな、貴女疲れているのよ、jane_doe」


「そうするよ」


「でもこのリーリウムは予言するわ、貴女は示唆的な夢を見る事になるけどそれをすっかり忘れちゃうのよ、でもそれを思い出したとき何かが変わると思うわ。眠りながら、目覚めながら」


「変わる……ねえ? どういうことだ?」


 jane_doe=銀鶏は半信半疑に思いつつD.D.T onlineを終了させ始めた。どういうことだろう? 眠りながら、目覚めながら――


 そしてリーリウムは、リーリウムは別れ際に妙なことを言った。


「夢見られた出来事はたんなる表象を越えた現実だわ。覚醒状態での想像をも超えた現実であるから。しかしこの現実感と目覚めの際の消失は根本的な問題を含んでいる。

 なぜならばわれわれの現実がいったい何であるのかという問いの前に立たされるからよ?」


 この冬は終わらない。

夢は一つの世界、それも夢見者の存在する世界。

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― 新着の感想 ―
[一言] 読了。 うんざりする現実と何やらミステリアスなナビゲーターとのやり取りの対比が面白い回。
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