究極生命体、誕生
私、アルト・アイメーテは至って普通の村の娘。
特に特別な教育だの訓練だのをやらされてきたわけでも無く、15年の年月をこの《マガイク村》で過ごしてきた。
この先もこのまま平和に暮らしていきたい。
そんな私の願いは、15歳の誕生日の今日、見事に打ち砕かれた。
ーーー
この世界、《ファーストワールド》では、15歳の誕生日を迎えると、ステータスと呼ばれる、人の能力や才能などが書かれた紙を渡される。
ステータス鑑定士と呼ばれる職業の人からステータスを受け取り、進むべき道を示されるのだ。
ちなみに《最初の世界》と呼ばれるのは、他にもいくつかあるらしい世界の中で一番初めにできたかららしい。
そして今、私は鑑定士である祖母から自分のステータスを受け取ろうとしていた。
ぶっちゃけあまり危ないことは嫌なので、農業とかの才能が欲しい。
お隣さんの畑はたまに手伝ってるし、農作業は嫌いじゃない。
そんなことを考えながら待っていると、祖母が一枚の紙を持って私の前に立った。
「これを受け取ったらお前もいよいよ立派な大人だ。覚悟はできてるね。」
祖母がそう確認してきた。
「もちろん。準備万端だよ。」
今更どうにかなるものでもないのであまり緊張はしていない。
私の言葉を聞いた後、祖母は静かに頷き手に持っていた紙を私に渡した。
正直才能の一行目を見た時点でもう後はどうでもよくなった。
そこに書いてあったのは、〈農業:lv5〉という文字列
〈lv5〉はたしか最高のレベルだったはず。
間違いない、私は農家になるために生まれてきたんだ。
最初はそう思っていたけど何かおかしい。
そこから下もステータスが真っ黒に文字で埋め尽くされている。
なんだこれ。
これもしかしてほとんどの才能があるんじゃないの?
しかも全部〈lv5〉って。
「お、おばあちゃんこれどういうこと?ここ、こんなにたくさん、しかも、ぜぜぜ、全部の才能が最高レベルって...」
私は驚きのあまりうまく話すことができない。
「その答えなら、最後の行を見てみなさい。」
そう言われて私は最後の行へ目を移した。
そこには、〈種族:《究極生命体》〉と書かれていた。
「きゅうきょく...生命体⁉︎なにこれ...私普通の人間ですけど⁉︎」
一体いつ私は人間をやめたと言うのか。
いいや、やめた覚えはない。これは絶対何かの間違いだ!
「おばあちゃん、これ間違ってない?だって私普通の人間だよ?種族が違うのは流石に...」
頼みます、間違いといってください。
「いいや、間違っていないよ。アルト、お前は《異生命体》になったのさ。」
「いせいめいたい?何それ?」
聞いたことのない言葉に私は戸惑う。
祖母は少し迷ってから私に話し始めた。
「異生命体はその名の通り、人の見た目をしているが、人ではない別の生命体。生まれた時点ではふつうの人間だが、初めて魔法に干渉された時に稀にその体は異生命体へと変化するのさ。」
「い、異生命体って人間と何が違うの?私、見た目とかなにも変わらないけど...」
私は自分の長い黒髪を祖母に見せるようにしながら聞いた。
「異生命体の種類によって違うよ。例えば炎の生命体ならば炎に関する全てを操れる。」
そんなのずるすぎじゃん!
そう思いながら私はまた祖母に疑問をぶつける。
「じ、じゃあ究極生命体って何ができるの?究極って最高みたいなことだよね?何が究極なの?」
「全部さ。生命が干渉できる全てのことについて。見ただろう、自分のステータス。」
もっとずるいじゃん!
もし仮に炎の生命体さんがいたとして、その人が出来ること全部私できるじゃん!
「なあに心配はいらん。この世界には数年前と比べとんでもない数の異生命体がいる。」
「と、とんでもない数ってどれくらい?」
「そうだねぇ、このオーリエン王国の王都なら人口の1割は異生命体だと思うよ。」
その言葉を聞き私は少しだけ安堵した。
王都の人口の1割といったら10000人はいるだろう。
一つの都市にそれだけいるのならこの世界中にはもっとたくさんいるはずだ。
「それならまあ、いいのかな?いやでも急にそんな力を手に入れて使いこなせるものなの?」
「もちろん無理さ。だから王都には異生命体のための学校がある。そこで彼らは力の使い方を学ぶのさ。」
「なら、私もそこに入ったほうがいいのかな?」
正直私も自分の力を使いこなせる気などしなかった。まず数が多い。自分の力を全て覚えるのも一苦労だ。
そして何より、私は不器用だ。全部使いこなせるまで何年かかるのか見当もつかない。
「そうだね。アルトの力は私の知る中でも特に強い。このままでは誰かを傷つけることになるかもしれない。」
「うう…のんびり生活するはずだったのに…まあでも学校なら危険はないだろうし…」
私にとって一番重要なのはそこだ。平和であれば大抵のことは我慢できる。
「なら、入学の手続きは私がやっておこう。アルト、何か他に聞きたいことはあるかい?」
「正直まだまだ聞き足りないけど…とりあえずは大丈夫かな。」
「そうかい。なら道中は気をつけるんだよ。学校の詳細は向こうで聞けばいい。いってらっしゃい、アルト。」
「へ?ちょ、ちょっと待っ…」
言葉が終わる前に、私は意識を失ってしまった。